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代理権の濫用事件

 こんにちは。

 今日は、代理権の濫用が問題となった最判昭和42年4月20日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 株式会社高橋総本店製菓原料店主任の清水文男は、会社のために商品の仕入れを行う代理権を有していました。あるとき清水は、会社の代理人として仕入れた商品を他人に転売して自らの利益にしようと考え、東京物産株式会社と売買契約を締結しました。商品を提供した東京物産が高橋総本店に代金を請求したところ、高橋総本店は東京物産が清水の意図を知っていたと主張し、代金を支払おうとしませんでした。そのため、東京物産は高橋総本店に対して売掛代金の支払いを求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の右意図を知りまたは知ることをうべかりし場合に限り、民法93条但書の規定を類推して、本人はその行為につき責に任じないと解するを相当とするから、原判決が確定した前記事実関係のもとにおいては、高橋総本店に本件売買取引による代金支払の義務がないとした原判示は、正当として是認すべきである。したがつて、原判決に所論の違法はない。
 本件につき原審の確定した事実によれば、前述のように、高橋総本店製菓原料店主任清水文男は、同人らの利益をはかる目的をもつて、その主任としての権限を濫用し、高橋総本店製菓原料店名義を用いて東京物産と取引をしたものであるが、東京物産の支配人佐藤昭三郎は、清水が右のようにその職務の執行としてなすものでないことを知りながら、あえてこれに応じて本件売買契約を締結したというのである。そうすれば、高橋総本店が右契約により東京物産の蒙つた損害につき民法715条により使用者としての責任を負わないものと解すべきことは、前段の説示に照らして明らかである。すなわち、本件売買取引による損害は、清水が高橋総本店の事業の執行につき加えた損害に当たらないと解すべきであり、これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。
 よって、東京物産の上告を棄却する。

3 代理権濫用の明文化

 今回のケースで裁判所は、 代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであった場合にかぎり、民法第93条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である、としました。
 また、その後の民法改正により、民法107条「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定されており、代理権を濫用した行為は、相手方が悪意または有過失の場合には、無権代理行為とみなされるという点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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