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死因贈与契約の取消し事件

こんにちは。

 死因贈与契約とは、「子どもたちよ、私が死んだら財産をあげる」、「うん、わかった」というように、申込みと相手の承諾により成立する契約のことです。契約では、一方的に「やっぱり、契約をやめたい」といっても、基本的に相手が承諾しないと解消することはできません。死因贈与契約でも、同じように相手が承諾しないと解消できないのでしょうか。
 今日はこの点について問題となった事件を紹介したいと思います。


1 死因贈与取消し事件

 父は母との間で「俺が死んだら、この不動産をお前に譲る」という死因贈与契約を結んでいました。ところが、父と母の関係が冷めたものとなり、父が死因贈与を取消した後に死亡した。しかし、母が「死因贈与契約により不動産は私のものだ」として、仮登記をしました。そのため、他の相続人である子どもたちが仮登記の抹消登記手続を求めて提訴しました。

 最判昭和47年5月25日(裁判所ウェブサイト)は、「死因贈与については、遺言の取消しに関する規定が適用されると解すべきである。というのも、死因贈与は贈与者の死亡によって贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様に、贈与者の最終意思を尊重し、これによって決するのを相当とするからである。よって、母の上告を棄却する。」と判決を下しました。

2 負担付贈与取消し事件

 親が長男に「あんたが会社に在職中に、私に毎月3000円以上送金し、年2回のボーナスの半額をくれるなら、私が死んだときに全財産をあなたにあげる」という死因贈与契約を締結しました。しかし、その後に親が長男の弟と妹に、財産の一部を与える遺言を残していました。親が死んだときに長男は、全財産を取得したとして弟らに対する遺言の無効確認を求めて提訴しました。
 最判昭和57年4月30日(裁判所ウェブサイト)は、「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約において、受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重する余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当ではないから、贈与契約の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他生活関係等に照らし、その負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取り消しに関する規定を準用するのは相当ではないと解すべきである」と判決を下しました。

3 裁判上の和解による死因贈与の取消し事件

 父が耕作していた農地について長男との間で所有権をめぐって争いが生じ、裁判上の和解により長男のものとされました。その際に、長男が死亡した時には、父とその相続人に農地を贈与する契約が結ばれていました。後に、長男はその息子に農地を売却していたことから、長男が死亡した後に、相続人である長男の息子が所有権移転登記手続を請求しました。

 最判昭和58年1月24日(裁判所ウェブサイト)は、「長男が死亡した時は、農地を父及びその相続人に贈与することを約定したものであって、そのような贈与に至る経過、それが裁判上の和解でされたという特殊な態様及び和解条項の内容等を総合すれば、この死因贈与は、贈与者である長男において自由には取り消すことができないものと解するのが相当である」と判決を下しました。

4 死因贈与契約の取消し

 通常の契約では当事者の一方が勝手に解消することができないのですが、死因贈与契約に関して裁判所は、遺言と同様に、贈与者の最終意思を尊重して一方的に取り消すことができるとしています。ただし、負担付死因贈与では、贈与を受けた者が負担を履行した後には、贈与者が自由に取り消すことができず、また裁判上の和解により死因贈与契約がなされていた場合には、贈与者が自由に取り消すことができないとされていますので、十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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