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叔父に対する扶養請求事件

こんにちは。

 今日は、親族間の扶養が問題となった大阪家審昭和50年12月12日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 青木靖夫は、昭和48年以降に精神病院に入院し、治療を受けていました。靖夫の兄にあたる青木章は、退院後に靖夫を扶養する能力がなかったことから、叔父にあたる青木勝男に対して、扶養義務者に指定する旨の調停を求めました。しかし、調停が不成立となったことから、章は大阪家庭裁判所に扶養義務者の指定を申し立てました。

2 大阪家庭裁判所の審判

 大阪家庭裁判所は次のような理由で、章の扶養義務者の指定の申し立てを却下しました。

 民法877条2項の扶養義務者指定の「特別の事情あるとき」とは、要扶養者の3親等内の親族に扶養義務を負担させることが相当とされる程度の経済的対価を得ているとか、高度の道義的恩恵を得ているとか、同居者であるとか等の場合に限定して解するのを相当とすべく、単に3親等内の親族が扶養能力を有するとの一事をもってこの要件を満たすものと解することはできない。本件にあっては、事件本人が精神分裂症を患い、福祉施設に収容されて療養生活を余儀なくされ、労働能力も資産もなく、生活保護を受給している状態であることからして要扶養状態にあることは明らかである。そして、勝男は1カ月約金9万円の収入を得ている他家賃収入もあり、自宅を所有して子供らも独自の収入の道を持っていることからすれば、現状においてはある程度の扶養能力を有するものと認められるところであるが、健康に恵まれているとはいえ、その年齢は65歳になり、主たる収入の道は新聞配達によるものであり、その職務の労働量からしていつまで継続できるや定かではなく、一度病を得たりするならばたちまちに主たる収入の道を失うこととなるし、勝男の職歴からして若干の貯えがあるであろうこと推認し得るところであるが、さりとて自己の老後をまかなって余りある程度の資産を有しているとの資料もなく、主たる収入の道が途絶え、貯えを費消するならばいつ要扶養者に転化するやもしれないところである。事件本人と勝男とは約20年近くも以前に約3カ月ないし1か年足らずの間、事件本人が勝男の経営する新聞販売店に勤務したことがある以外全く交渉もなく、それ以後殆ど音信すらなかった状況であるから、これのみをもってしては、前示の特別の事情の要件を満足させることは到底できない。その他事件本人の両親死亡後勝男が事件本人の家族就中(なかんずく)勝男との間に新聞販売店をめぐって種々交渉はあったにしても、これにより勝男が経済的な対価を得たわけではなく、章およびその一家の事実上の後見役としての援助の一環としての行為であり、かかる経緯の存在によってもなお特別の事情があるとは到底解し難いところである。私的扶養と公的扶助の調整は極めて困難な問題であるが、本件にあっては、勝男を扶助義務者に指定するより、勝男の年齢に徴し、自らが要扶養者に転化することのないよう、自らの老後の生活設計を立てさせることこそ肝要である。事件本人の扶養義務者である章をはじめとする兄弟姉妹も十分な扶養能力を有しているとはいえないものの、章審問の結果によると、章が本件申立てをなしたことを知っているものは、三男晴夫のみであるというが、まず扶養義務者間で事件本人の扶養問題について十分協議すべきであり、また、章自身新聞販売店を廃業して以後新聞等の即売により、現在でも1カ月金1万円前後の収入しか得ていないものであるから、勤労意欲を持ち、他の職業を真剣に探す意欲を持つべきであり、安易に扶養義務者の指定に頼るべきではない。
 よって、青木章の扶養義務者指定の申し立てを却下する。

3 親族間の扶養義務

 今回のケースで裁判所は、精神障害者の本人の兄が叔父を相手に扶養を求めたことに対して、3親等以内の親族に扶養義務を負担させることが相当とされる程度の経済的対価を得ている場合、高度の道義的恩恵を得ている場合、同居者である場合などに限定して解すべきであるとして、扶養義務者指定の申し立てを却下しました。
 民法では、直系血族と兄弟姉妹には扶養義務があるとされているのに対して、3親等内の親族が扶養義務を負うのは特別な場合のみとされている点に注意が必要でしょうね。

【民法877条】
① 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
② 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
③ 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
 

では、今日はこの辺で、また。


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