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近鉄生駒トンネル火災事件

こんにちは。

 坂道のある町が好きなのはなぜなのかを突き詰めてみると、「耳をすませば」、「君の名は」の影響があるのではないかと考えている松下です。

 今日はそんな坂道の町、石切駅のすぐそばにあるトンネルで起きた「近鉄生駒トンネル火災事件」(最決平成12年12月20日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 昭和62年、近鉄東大阪線の生駒トンネル内で火災が発生し、乗客1名が死亡し、42名の乗客らが傷害を負うという事故が発生しました。警察は、トンネル内の電力ケーブルの接続工事を行った下請け業者の代表者を逮捕し、検察は業務上失火、業務上過失致死傷罪で起訴しました。

2 検察側の主張

 被告人は、2万2000ボルトの特別高圧電力ケーブルについて分岐接続工事の施工をするにあたり、施工資格を有しているにもかかわらず作業手順を読むことなく、また分岐接続器の部品が全てそろっているかどうかを確認しないまま、工事に着手していた。そのため、分岐接続器本体が燃焼し、今回のような事故が発生した。被告人には注意義務違反があった。

3 被告人の主張

 火災発生の原因は、分岐接続器本体に誘起電流が流れた結果、接続器に炭化導電路が形成されたことによるものであり、炭化導電路が形成されることは予想することができませんでした。なので、火災が発生することも予想することもできませんでした。分岐接続器の本体の燃焼は、ゆっくりと進行し、通電開始から火災発生に至るまで500日間はかかっています。専門家も、炭化導電路が形成されることについて、これまでに経験したことがない現象だと言っています。私には何の落ち度もありません。

4 最高裁判所の決定

 近鉄東大阪線生駒トンネル内における電力ケーブルの接続工事に際し、施工資格を有してその工事にあたった被告人が、ケーブルに特別高圧電流が流れる場合に発生する誘起電流を接地するための大小二種類の接地銅板のうち一種類を分岐接続器に取り付けるのを怠ったため、誘起電流が大地に流されずに、本来流れるべきでない分岐接続器本体の半導電層部に流れて炭化導電路を形成し、長期間にわたりその部分に集中して流れ続けたことにより、今回の火災が発生したものである。被告人は、炭化導電路が形成されるという経過を具体的に予見することができなかったとしても、その誘起電流が大地に流されずに本来流れるべきでない部分に長期間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性があることを予見することはできたはずである。よって、被告人を有罪とする。

5 工事施工者の刑事責任

 今回のケースでは、火災が発生する具体的なメカニズムについて被告人が予見できなかったとしても、その経験と知識から火災が発生する可能性があることを十分に予想できたことから、被告人に有罪判決が下されました。

 工事のミスによって事故が発生した場合には、民事上の損害賠償などの責任を負うだけでなく、刑事上の責任を負うこともありますので、十分に注意する必要があるでしょう。

では、今日はこの辺で、また。


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