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登記申請の権限と表見代理事件

こんにちは。

 今日は、登記申請の権限と表見代理の関係が問題となった最判昭和46年6月3日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 後藤善富は、弟の後藤喜衛に土地を贈与しました。喜衛から、所有権移転登記をしたいとの要請を受けた善富は、登記手続きに必要な実印と印鑑証明書、土地登記済証を渡しました。ところが喜衛は、高山食品有限会社に負っていた借金について、善富を連帯保証人にするという契約書に実印を押して、差し出しました。その後、喜衛が借金を返済できなくなったことから、高山食品は連帯保証人の善富に対して、手形金の支払を求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 原判決は、後藤喜衛が権限なく後藤善富を代理して締結した連帯保証契約 につき、表見代理の規定により、善富が責を負うべきである旨の高山食品の主張に対して、善富は喜衛に対し土地の所有権移転登記手続という公法上の行為をなすことを委任したものであって、同人に対し私法上の代理権を授与したことないしは本件連帯保証につき代理権授与の表示をしたことは認められないと判示して、右主張を排斥しているところ、論旨は、民法110条の規定の適用の要件たる基本代理権の存在を主張して、この点の判断の違法を主張する。思うに、原審の確定するところによれば、善富は、さきに自己所有の土地一筆を喜衛に贈与しており、喜衛の求めに応じて、右土地につき同人に対する所有権移転登記手続をするため、実印、印鑑証明書および右土地の登記済証を同人に交付したところ、同人は善富の承諾を得ることなく右実印等を使用して高山食品との間に本件連帯保証契約を締結したというのであって、善富が喜衛に委任したという所有権移転登記手続は、善富にとっては、喜衛に対する贈与契約上の義務の履行のための行為にほかならないものと解せられる。すなわち、登記申請行為が公法上の行為であることは原判示のとおりであるが、その行為は右のように私法上の契約に基づいてなされるものであり、その登記申請に基づいて登記がなされるときは契約上の債務の履行という私法上の効果を生ずるものであるから、その行為は同時に私法上の作用を有するものと認められる。そして、単なる公法上の行為についての代理権は民法110条の規定による表見代理の成立の要件たる基本代理権にあたらないと解すべきであるとしても、その行為が特定の私法上の取引行為の一環としてなされるものであるときは、右規定の適用に関しても、その行為の私法上の作用を看過することはできないのであって、実体上登記義務を負う者がその登記申請行為を他人に委任して実印等をこれに交付したような場合に、その受任者の権限の外観に対する第三者の信頼を保護する必要があることは、委任者が一般の私法上の行為の代理権を与えた場合におけると異なるところがないものといわなければならない。したがつて、本人が登記申請行為を他人に委任してこれにその権限を与え、その他人が右権限をこえて第三者との間に行為をした場合において、その登記申請行為が本件のように私法上の契約による義務の履行のためになされるものであるときは、その権限を基本代理権として、右第三者との間の行為につき民法110条を適用し、表見代理の成立を認めることを妨げないものと解するのが相当である。してみれば、善富が訴外喜衛に与えた権限が登記手続という公法上の行為をなすことであったことのみを理由に、たやすく高山食品の表見代理の主張を排斥した原判決は、民法110条の解釈を誤つたものというべきであり、論旨は理由がある。  
 よって、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻す。

3 登記申請行為と表見代理

 今回のケースで裁判所は、本人から登記申請を委任されてこれに必要な権限を与えられた者が右権限をこえて第三者と取引行為をした場合において、その登記申請が本人の私法上の契約による義務の履行のためになされるものであるときは、その権限を基本代理権として、右第三者との間の行為につき民法110条を適用し、表見代理の成立を認めることができる、としました。
 登記申請が私法上の取引行為の一環としてなされる場合には、代理人の権限の外観に対する第三者の信頼を保護する必要がある、とされている点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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