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中学校テニス審判台転倒事件

こんにちは。

 テニスで散らばったボールを3人で1つのカゴに集めるときに、1人1人がラケットに乗せて拾うのと、コートの隅に集めて一気に拾うのと、どっちが早いかという実験動画があったのですが、結果よりもむしろ球拾いの奥深さに感心してしまいましたね。

 さて今日は、テニスの審判台が転倒する事故をめぐって裁判になった「中学校テニス審判台転倒事件」(最判平成5年3月30日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 父親とその弟は、それぞれ子どもを連れて栃木県茂木町にある中川中学校にいき、校庭にあったテニスコートでテニスをしていました。ところが、5歳の子どもがテニスの審判台に上って遊んでいるうちに、座席の後ろにある鉄パイプを両手で握って後から降りようとしたため、審判台が後方に倒れてしまい、子どもが後頭部を地面に強打し、その後に脳挫傷で死亡するという事故が発生しました。そのため、父親は審判台の設置や管理が不十分であったとして、茂木町に対して損害賠償を求めて提訴しました。

2 父親の主張

 中学校に置かれていた審判台は、東北大学農学部のテニスコートに置かれているものに比べて、後に倒れやすい構造になっていた。また、審判台の置かれていた地面はでこぼこで、うしろに傾いていた。学校側は、日頃から校庭の門を閉鎖しておらず、また近所の子どもらや家族連れが茂木町教育委員会の許可を受けずに校庭に立ち入り、キャッチボールやテニスをするなどして遊んでいてもこれを黙認してきたので、子どもが審判台で遊ぶことを予想できたはずだ。そうであれば、審判台を片付けるなどの措置を採り得たはずなのに、何らの措置もとらずに放置していたので、設置管理に瑕疵がある。

3 茂木町長の主張

 これまでの20年間、中学校の活動では審判台の人身事故は一度も発生していないので、本来の用法に従って使用する限り、転倒の危険性はなかったはずだ。父親は、保護監督義務があるにもかかわらず、テニスに興じるあまり、子どもの行動を見ていなかったので過失があるのではないか。

4 最高裁判所の判決

 事故時の子どもの行動は、審判台に前部階段から昇った後、その座席部分の背当てを構成している左右の鉄パイプを両手で握って審判台の後部から降りるという極めて異常なもので、審判台の本来の用法と異なることはもちろん、設置管理者の通常予測し得ないものであったといわなければならない。そして、このような使用をすれば、本来その安全性に欠けるところのない設備であっても、
何らかの危険を生ずることは避け難いところである。幼児が異常な行動に出ることのないようにしつけるのは、保護者の側の義務であり、このような通常予測し得ない異常な行動の結果生じた事故につき、保護者から設置管理者に対して責任を問うというのは、もとより相当でない。まして子どもは、保護者である父親らに同伴されていたのであるから、父親らは、テニスの競技中にも子どもの動静に留意して危険な行動に出ることがないように看守し、万一その危険が察知されたときは直ちに制止するのが当然であり、また容易にこれを制止し得たことも明らかである。
 これを要するに、今回の事故は、父親らの主張と異なり、審判台の安全性の欠如に起因するものではなく、かえって、子どもの異常な行動に原因があったものといわなければならず、このような場合にまで、茂木町が父親らに対して国家賠償法2条1項所定の責任を負ういわれはないというべきである。
 よって、原判決中、茂木町の敗訴部分を破棄する。

5 校庭開放中の事故

 今回のケースで裁判所は、校庭内で5歳の子どもが通常とは異なる方法でテニスの審判台を利用していた場合、審判台を設置管理をしている学校側の通常予測できる範囲を超えているので、死亡事故について学校を運営している茂木町には責任がないとしました。
 審判台などの設備には危険が潜んでいますので、正しい使用を心がけ、子どもらを近づけないようにすることが重要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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