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はたらくじどうしゃ事件

こんにちは。

 ガチャピンとムックが登場する「ひらけ!ポンキッキ」の名曲として「はたらくくるま」があるのですが、はたらくくるま1,2,3とあるのに驚きましたね。

 さて今日は、市営バスに描かれた絵画作品の写真を絵本に掲載して販売することが問題となった「はたらくじどうしゃ事件」(東京地判平成13年7月25日判例タイムズ1067号297頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 アウトドアペインティングの分野で有名な画家のロコ・サトシさんは、横浜市営バスの車体全面にイラストを描いていました。ところが、株式会社永岡書店から出版されていた『はたらくじどうしゃ』という絵本シリーズの中に、サトシさんのバスの写真が無断で使用されていたことから、サトシさんは著作権侵害を理由に300万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 サトシさんの主張

 私の作品は、美術の著作物である。また、著作権法46条は、「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する」場合のように、相当の収益の見込まれる行為についてまで、第三者が自由に利用できるとすると、著作権者に対して多大な不利益を与えることになるため、自由利用の例外を設けているのだ。だから著作権侵害にあたる。

【著作権法46条】 
美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

3 永岡書店の主張

 著作権法46条によれば、屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物は、自由に利用できると定められています。なぜなら、誰もが見ようと思えば自由に見ることができる場所に展示された美術の著作物について、著作権の主張を制限なく認めれば、公衆の行動の自由を妨げるおそれがあるからです。また、私どもの書籍は、町で見かける各種自動車を児童に紹介する目的で、路線バスの一例として問題となったバスの写真を掲載しているのであって、鑑賞目的の美術作品として複製販売しているわけではありません。なので、著作権侵害にはあたりません。

4 東京地方裁判所の判決

 サトシ氏の作品が車体に描かれたバスは、市営バスとして、一般公衆に開放されている屋外の場所である公道を運行するものであるから、サトシ氏の作品もまた「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい野外の場所」にあたるというべきである。サトシ氏の作品が車体に描かれたバスは、特定のイベントのために、ごく短期間のみ運行されるのではなく、他の一般の市営バスと全く同様に、継続的に運行されているのであるから、サトシ氏が、公道を定期的に運行することが予定された市営バスの車体にサトシ氏の作品を描いたことは、正に、美術の著作物を「恒常的に設置した」というべきである。
 また、サトシ氏の作品が描かれたバスの写真を書籍に掲載し、これを販売することは、「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する行為には、該当しないというべきである。
 よって、サトシ氏の請求を棄却する。

5 恒常的に設置した

 今回のケースで裁判所は、路線バスの車体に描かれた絵画作品は美術の著作物を恒常的に設置した場合にあたり、それを幼児向けの絵本に掲載して販売しても著作権侵害に当たらないとしました。
 ただし今回のバスが、イベント用で一時的に運行されていた場合には、「恒常的に設置した」とは言えない可能性がありますので、十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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