見出し画像

はずれ馬券事件

こんにちは。

 競馬で万馬券を当てて、夢の生活を送りたいと一度は考えたことがあるでしょう。しかし、競馬で得たお金についても当然に税金が課されることに注意が必要です。

 さて今日は、競馬で得た収入について、税金を払わなかったことで所得税法違反の罪に問われた2つの事件を紹介したいと思います。

◆「大阪会社員事件」(最判平成27年3月10日裁判所ウェブサイト)

◆「北海道公務員事件」(最判平成29年12月15日裁判所ウェブサイト)


1 大阪の会社員事件

 大阪の会社員は100万円を元手に、市販の競馬予想ソフトに独自の条件と計算式を加えて、ネット上で全競馬場のほぼすべてのレースの馬券を購入していました。ところが、当たり馬券について会社員が確定申告をしていなかったことから、大阪国税局の査察調査を受けて、3年分の総所得金額が約14億6000万円で、所得税約5億7000万円の支払いを免れたとして、所得税法違反を理由に大阪地検特捜部に起訴されました。
 第一審、第二審は、馬券の払戻金は一時所得ではなく、雑所得にあたるので、外れ馬券の購入代金が必要経費として控除されるとして、懲役2か月と2年間の執行猶予の判決を下しました。この判決に納得いかなかった国側が上告しました。

2 最判平成27年

 所得税法34条1項は、一時所得について、「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定している。そして、同法35条1項は、雑所得について、「雑所得とは、利子所得、 配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」と規定している。したがって、所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。これに対し、検察官は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、所得や行為の本来の性質を本質的な考慮要素として判断すべきであり、当たり馬券の払戻金が本来は一時的、偶発的な所得であるという性質を有することや、馬券の購入行為が本来は社会通念上一定の所得をもたらすものとはいえない賭博の性質を有することからすると、購入の態様に関する事情にかかわらず、当たり馬券の払戻金は一時所得である、また、購入の態様に関する事情を考慮して判断しなければならないとすると課税事務に困難が生じる旨主張する。しかしながら、所得税法の沿革を見ても、およそ営利を目的とする継続的行為から生じた所得に関し、所得や行為の本来の性質を本質的な考慮要素として判断すべきであるという解釈がされていたとは認められない上、いずれの所得区分に該当するかを判断するに当たっては,所得の種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、所得及びそれを生じた行為の具体的な態様も考察すべきであるから、当たり馬券の払戻金の本来的な性質が一時的、偶発的な所得であるとの一事から営利を目的とする継続的行為から生じた所得には当たらないと解釈すべきではない。また、画一的な課税事務の便宜等をもって一時所得に当たるか雑所得に当たるかを決するのは相当でない。よって、検察官の主張は採用できない。 
 以上によれば、会社員が馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの事実関係の下では、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は正当である。
 雑所得については、所得税法37条1項の必要経費に当たる費用は同法35条2項2号により収入金額から控除される。本件においては、外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するのであるから、当たり馬券の購入代金の費用だけでなく、外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するということができ、本件外れ馬券の購入代金は同法37条1項の必要経費に当たると解するのが相当である。
 これに対し、検察官は、当たり馬券の払戻金に対応する費用は当たり馬券の購入代金のみであると主張するが、会社員の購入の実態は、大量的かつ網羅的な購入であって個々の馬券の購入に分解して観察するのは相当でない。また、検察官は、外れ馬券の購入代金は、同法45条1項1号により必要経費に算入されない家事費又は家事関連費に当たると主張するが、本件の購入態様からすれば、当たり馬券の払戻金とは関係のない娯楽費等の消費生活上の費用であるとはい えないから、家事費等には当たらない。
 以上によれば、外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金という費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するなどの事実関係の下では、はずれ馬券の購入代金について当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができるとした原判断は正当である。
よって、国側の上告を棄却する。

3 北海道の公務員事件

 北海道の公務員は、自宅のパソコンを使って、ネット上で馬券を購入できるサービスを利用し、大量かつ継続的に馬券を購入していました。中央競馬の全3453レースのうち、約70%にあたる2445レースで馬券を購入し、独自の分析で購入する馬券の金額、種類、購入パターンを決定し、2005年に約1800万円、2006年に約5600万円、2007年には約1億2000万円、2008年に約1億円、2009年に約2億円、2010年に約5500万円の利益を得ていました。北海道の公務員は、払戻金が雑所得に当たるとして、外れ馬券の購入代金を必要経費として控除した上で確定申告をしたところ、国税局から一時所得に当たるとして否定され、約1億9400万円の追徴課税処分を受けました。この処分に納得いかなかった公務員は、その取り消しを求めて提訴しました。
 第一審では、競馬での所得が一時所得に当たり、外れ馬券の購入代金を差し引くことができないとされ、第二審では、競馬での所得が雑所得に当たり、外れ馬券の購入代金はその必要経費に当たると判断されました。この判決に納得いかなかった国側が上告しました。

4 最判平成29年

 北海道の公務員は、予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って馬券を購入することとし、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標として、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら、6年間にわたり、1節当たり数百万円から数千万円、1年当たり合計3億円から21億円程度となる多数の馬券を購入し続けたというのである。このような公務員の馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様に照らせば、公務員の一連の行為は、継続的行為といえるものである。
 そして、公務員は、6年間のいずれの年についても年間を通じての収支で 利益を得ていた上、その金額も、少ない年で約1800万円、多い年では約2億円に及んでいたというのであるから、馬券購入の態様に加え、このような利益発生の規模、期間その他の状況等に鑑みると、公務員は回収率が総体とし て100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたといえるのであって、そのような公務員の一連の行為は、客観的にみて営利を目的とするものであったということができる。
 以上によれば、本件所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、所得税法35条1項にいう雑所得に当たると解するのが相当である。
 所得税法は、雑所得に係る総収入金額から控除される必要経費について、 雑所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額等とする旨を定めているところ、本件においては、公務員は、偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって多数の馬券を頻繁に購入することにより、年間を通じての収支で利益が得られるように継続的に馬券を購入しており、そのような一連の馬券の購入により利益を得るためには、外れ馬券の購入は不可避であったといわざるを得ない。したがって、本件における外れ馬券の購入代金は、雑所得である当たり馬券の払戻金を得るため直接に要した費用として、同法37条1項にいう必要経費に当たると解す るのが相当である。
 よって、国側の上告を棄却する。

5 外れ馬券が経費になるのは例外

 今回のケースで裁判所は、馬券を自動的に購入するソフトを使う、あるいは独自のノウハウに基づいて、何年にもわたり大量に多額の馬券を購入し続け、常に利益を出すことができた場合には、「営利を目的とする継続的行為」に当たるとして払戻金が雑所得に当たり、外れ馬券の購入代金を経費として認めるという判決を下しました。
 逆に、一時的に競馬を楽しむために馬券を購入した場合、外れ馬券は経費に含まれません。また、競馬の当たった場合には儲けとして、確定申告して税金を納める必要があり、無申告だと罰金などの刑事罰を科される場合もありますので、十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?