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こんにちは。

 契約をする前に、さまざまな説明を受けてから契約を結ぶことになるのですが、その説明が不十分で、意図しない契約を結ぶことになった場合、法律上はどのように扱われるのでしょうか。

 今日はこの点を考える上で、会社が破綻する前に資金を集めていたことが問題となった「関西興銀事件」(最判平成23年4月22日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 在日韓国人のための民族系金融機関である信用組合関西興銀は、金融事業を営んでいました。パチンコ店の経営及び不動産の賃貸業を営む有限会社パルコ開発、繊維の卸売業の金新の代表の金来福、製鋼原料及び非鉄金属の回収・加工・販売等を営む株式会社大山興業は、関西興銀と取引していました。あるとき、関西興銀から出資の依頼を受けたことから、パルコ開発と大山興業は関西興銀に預け入れていた定期預金を振り替える方法で出資し、金来福らは現金で出資を行いました。ところが平成12年に、関西興銀が突然破綻することなったため、パルコ開発らは出資の払い戻しを受けることができなくなってしまいました。そのため、パルコ開発らは平成18年に関西興銀に対して、不法行為上の説明義務違反と債務不履行に基づく説明義務違反を理由に、3500万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 パルコ開発らの主張

 関西興銀は、すでに平成8年5月14日を基準日とする近畿財務局の金融検査でやなあ、財務状態の健全性の指数である自己資本比率がマイナス1.8%の実質的な債務超過状態に陥っとったんや。ところが、関西興銀の理事らは、不良債権を回収したように見せかけるなどの隠ぺい工作をして、債務超過状態が解消される見込みがないにもかかわらず、わてらに出資の勧誘してたんや。関西興銀が債務超過状態にあるんかそうでないかは、お金を出すのを決めるのに極めて重要な情報であるんやから、関西興銀は出資の勧誘をするんやったら、わてらに破綻するかもしれへんちゅうことを説明すべき義務があったんとちゃうか。せやから、関西興銀さんが破綻したことによって、わてらが被った損害について、説明義務違反を理由とする不法行為責任、もしくは債務不履行責任を追及するで。

3 関西興銀の主張

 平成11月2月26日に債務超過状態が解消されていないと指摘されたが、平成8年の段階では債務超過は解消されていた。なので、パルコ開発らの出資は、いずれも債務超過状態が解消されていないと指摘された平成11年以前のものであるので、われわれに説明義務はなかったと言える。
 仮に、パルコ開発さんらが我々に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとしても、破綻したのが平成12年で、すでに消滅時効期間の3年が経過しているので、我々には賠償義務はないはずだ。
 また、パルコ開発さんらは出資契約が成立する前の交渉段階における説明義務とその違反を問題視しているが、そもそも契約に基づく義務が発生する以前の段階における問題なので、契約上の債務不履行責任とすることはできないと思われます。

4 最高裁判所の判決

 関西興銀が、実質的な債務超過の状態にあって経営破綻の現実的な危険があることを説明しないまま、パルコ開発らに対して本件各出資を勧誘したことは、信義則上の説明義務に違反する。
 本件説明義務違反は、本件各出資契約が締結される前の段階において生じ たものではあるが、およそ社会の中から特定の者を選んで契約関係に入ろうとする当事者が、社会の一般人に対する不法行為上の責任よりも一層強度の責任を課されることは、当然の事理というべきであり、当該当事者が契約関係に入った以上は、契約上の信義則は契約締結前の段階まで遡って支配するに至るとみるべきであるから、本件説明義務違反は、不法行為を構成するのみならず、本件各出資契約上の付随義務違反として債務不履行をも構成する。
 しかしながら、契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。
 なぜなら、一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために、相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り、損害を被った場合には、後に締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であるといわざるを得ないからである。契約締結の準備段階においても、信義則が当事者間の法律関係を規律し、信義則上の義務が発生するからといって、その義務が当然にその後に締結された契約に基づくものであるということにならないことはいうまでもない。
 このように解すると、上記のような場合の損害賠償請求権は不法行為により発生したものであるから、これには民法724条前段所定の3年の消滅時効が適用されることになるが、上記の消滅時効の制度趣旨や同条前段の起算点の定めに鑑みると、このことにより被害者の権利救済が不当に妨げられることにはならないものというべきである。
 よって、原判決中の関西興銀の敗訴部分を破棄し、パルコ開発らの請求をいずれも棄却する。

5 契約する前の説明義務違反は不法行為

 今回のケースで裁判所は、契約の一方当事者が、契約を締結する前に信義則上の説明義務に違反して、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、その一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害について不法行為による賠償責任を負うことがあるが、その契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない、としました。
 今回の判決は、そもそも契約関係に入るか否かの判断をする際の説明義務違反が問題になる場面に限定されているという点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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