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ゴットン師事件

こんにちは。

 今日は、住居侵入と窃盗をそそのかした者が共犯の罪に問われるのかどうかが争われた最判昭和25年7月11日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 是友は、光延に対して、山本がお金を持っていると話し、家に侵入しお金を盗んでくるようそそのかしていました。光延は植田ら3人を引き連れて、山本宅に侵入しましたが、母屋に入ることができず、いったんは盗みを中断しました。しかし、植田らは隣の日備電気商会に侵入することにし、就寝中の藤原を脅迫して金銭を強奪しました。その後、光延と植田ら3人は山本宅への住居侵入罪と日備電気商会への住居侵入罪と強盗罪、また是友は住居侵入罪の教唆と窃盗罪の教唆をしたという理由で逮捕起訴されました。

2 最高裁判所の判決

 原判決は、被告人是友が光延に対し住居侵入窃盗の教唆をした事実を認め、其証拠として原審証人光延の証言と、同人の第一審公判調書中の同人の供述記載を挙示していることは記録上明らかである。然るに、右光延の原審公判における証言によれば、被告人是友は光延に対し、藤原常造方に侵入して窃盗をなすことを教唆したことになって居り、 山本章三方に侵入して窃盗することを教唆した旨の原判決の判示と符合しないことは所論の通りである。そして第一審公判調書中の光延の供述記載を調べて見るに被告人是友が 光延に対し住居侵入窃盗を教唆したのは山本方であって藤原方ではないことになって居り原判決の判示と符合するが原判決の証拠説明を見るに山本方に侵入して窃盗をすることを教唆したという部分は記載されていないので判示に符合する光延の供述があるという点が明らかでない、従つて採証法則に違背したという論旨は理由があるから、被告人是友に対する部分は此点において理由がある。
 しかし被告人是友が光延に住居侵人窃盗を教唆した事実は原判決挙示の証拠により認めることができるものであって所論の如き法則に反するところはない、論旨は原審の採用しない証拠に基いて原審の事実認定を非難するに外ならないから、採用し難い。
 原判決によれば、被告人是友は光延に対して判示山本方に侵入して金品を盗取することを使嗾(しそう)し、以て窃盗を教唆したものであって、判示日備電気商会に侵入して窃盗をすることを教唆したものでないことは正に所論の通りであり、しかも、右光延は、判示植田博等3名と共謀して判示日備電気商会に侵入して強盗をしたものである。しかし、犯罪の故意ありとなすには、必ずしも犯人が認識した事実と、現に発生した事実とが、具体的に一致(符合)することを要するものではなく、右両者が犯罪の類型(定型)として規定している範囲において一致(符合)することを以て足るものと解すべきものであるから、いやしくも右光延の判示住居侵人強盗の所為が、被告人是友の教唆に基いてなされたものと認められる限り、被告人是友は住居侵入窃盗の範囲において、右光延の強盗の所為について教唆犯としての責任を負うべきは当然であって、被告人是友の教唆行為において指示した犯罪の被害者と、本犯たる光延のなした犯罪の被害者とが異る一事を以て、直ちに被告人是友に判示光延の犯罪について何等の責任なきものと速断することを得ないものと言わなければならない。しかし、被告人是友の本件教唆に基いて、判示光延の犯行がなされたものと言い得るか否か、換言すれば右両者間に因果関係が認められるか否かという点について検討するに、原判決によれば、光延は被告人是友の教唆により強盗をなすことを決意し、昭和22年5月13日午後2時頃植田外2名と共に日本刀、短刀各一振、バール一個等を携え、強盗の目的で山本方奥手口から施錠を所携のバールで破壊して屋内に侵入したが、母屋に侵入する方法を発見し得なかつたので断念し、更に、同人等は犯意を継続し、其の隣家の日備電気商会に押入ることを謀議し、光延は同家附近で見張をなし、植田等3名は屋内に侵入して強盗をしたというのであって、原判文中に「更に同人等は犯意を継続し」とあることに徴すれば、原判決は被告人是友の判示教唆行為と、光延等の判示住居侵入強盗の行為との間 に因果関係ある旨を判示する趣旨と解すべきが如くであるが、他面原判決引用の第一審公判調書中の光延の供述記載によれば、光延の本件犯行の共犯者たる植田等3名は、山本方裏口から屋内に侵入したが、やがて植田等3名は母屋に入ることができないといって出て来たので、諦めて帰りかけたが、右3名は、吾々はゴツトン師であるからただでは帰れないと言い出し、隣のラヂオ屋に這入って行つたので自分は外で待っておった旨の記載があり、これによれば光延の藤原方における犯行は、被告人是友の教唆に基いたものというよりもむしろ光延は一旦右教唆に基く犯意は障碍の為め放棄したが、たまたま、共犯者3名が強硬に判示日備電気商会に押入ろうと主張したことに動かされて決意を新たにして遂にこれを敢行したものであるとの事実を窺われないでもないのであって、彼是(かれこれ)綜合するときは、原判決の趣旨が果して明確に被告人是友の判示教唆行為と、光延の判示所為との間に、因果関係があるものと認定したものであるか否かは頗(すこぶ)る疑問であると言わなければならないから、原判決は結局罪となるべき事実を確定せずして法令の適用をなし、被告人是友の罪責を認めた理由不備の違法あることに帰し、論旨は理由がある。  
 よって、原判決中、被告人是友に対する部分を棄却し、広島高等裁判所に差し戻す。

3 共犯と錯誤

 今回のケースで裁判所は、是友が山本宅への窃盗を教唆したところ、電気商会への強盗が実現された、つまり侵入する家が異なるという客体の錯誤と窃盗と強盗が異なるという抽象的事実の錯誤がある場合には、電気商会への侵入と強盗は「決意を新たにしてついにこれを敢行したものである」として、教唆との心理的因果関係性を否定しました。
 判決文に現れた「ゴットン師」という謎のワードで話題となりましたが、母屋に入れなかった窃盗犯たちが「我々はゴットン師であるから、ただでは帰れない」と言った時点で、新たな犯罪が行われたと考えられている点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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