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トラックスケール事件

こんにちは。
 トラックスケールとは、トラックの重量を測るための大型計量器なのですが、高速道路のETCゲートを通るときに、自動的に計量が行われていると知って驚きましたね。

 さて今日は、抵当権の設定されたトラックスケールが第三者に売却された場合でも抵当権の効力が及ぶのかどうかを考える上で、「トラックスケール事件」(最判昭和57年3月12日)を紹介したいと思います。


1 トラックスケール事件

 青森県信用保証協会は、鰺ケ沢(あじがさわ)地区チツプ協同組合に対する求償権を担保するために、組合が所有する工場の建物とともに、工場抵当法に基づいてトラックスケールに対して極度額2750万円の根抵当権を設定しました。ところが、組合の代表者である須藤佐右衛門は、青森県信用保証協会の同意を得ずに、トラックスケールが自身の所有物だとして朴基玉(きおく)に売却してしまいました。そのため、青森県信用保証協会は朴氏に対して、搬出されたトラックスケールを工場に戻すことを求めて提訴しました。

2 青森信用保証協会の主張

 朴氏は、トラックスケールが鰺ヶ沢地区チップ協同組合のものであることを知っていたか、あるいは不注意で知らずに須藤佐右衛門から購入している。工場抵当法5条によれば、抵当権の目的物が第三者に引き渡されたとしても、その物について抵当権の効力が及ばなくなるわけではないので、搬出されたトラックスケールをもとの場所に戻すことを求めます。抵当権の侵害行為に対して、抵当権者は当然にその妨害を排除する権利があるはずです。

3 朴氏の主張

 確かに、抵当権者の同意なくして分離された動産を取得した場合、抵当権の負担のついた動産を取得することになるが、民法192条には即時取得という規定があって、他人の物とは知らずに平穏公然と物を取引で取得した場合には、抵当権のついていない物を取得できるはずだ。そうすると、トラックスケールはオラの物で、元の備え付け場所だった建物に搬入する必要もない。

4 最高裁判所の判決

 工場抵当法2条の規定により工場に属する土地又は建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者の同意を得ないで、備え付けられた工場から搬出された場合には、第三者において即時取得をしない限りは、抵当権者は搬出された目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを求めることができるものと解するのが相当である。
 抵当権者の同意を得ないで工場から搬出された右動産については、第三者が即時取得をしない限りは、抵当権の効力が及んでおり、第三者の占有する当該動産に対し抵当権を行使することができるのであり、右抵当権の担保価値を保全するためには、目的動産の処分等を禁止するだけでは足りず、搬出された目的動産をもとの備付場所に戻して原状を回復すべき必要があるからである。これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。
 よって、朴氏の上告を棄却する。

5 抵当権者による原状回復請求

 今回のケースで裁判所は、工場抵当法2条の規定により工場に属する土地または建物とともに抵当権の目的とされたトラックスケールが、備え付けられた工場から搬出された場合には、第三者において即時取得をしない限りは、抵当権者は搬出されたトラックスケールをもとの備え付け場所である工場に戻すことを請求することができるとしました。
 抵当権者は自身で目的物を所有して管理するわけではないので、あくまで目的物をもともとあった場所に戻すように請求できるにとどまっている点にも注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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