見出し画像

キャンディ・キャンディ事件

こんにちは。

 世界中にファンがいる「キャンディ・キャンディ」は、そのコミック販売数が1200万部を超える名作なのですが、現在は絶版となっているということをご存じでしょうか。

 その理由は、原作者の間で、著作権をめぐる争いが生じていたからなんです。いったい法律上何が問題となったのでしょうか。今日は、この点を考える上で「キャンディ・キャンディ事件」(最高裁平成13年10月25日)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 五十嵐優美子さんと水木杏子(みずききょうこ)さんは、マンガ「キャンディ・キャンディ」の原作者で、水木さんが具体的なストーリーを創作し、小説形式の原稿を読んだ五十嵐さんがマンガを完成させるという形で制作がなされていました。
 五十嵐さんは、第二次キャンディ・キャンディブームを仕掛けようとリメイクやグッズ販売などの強化を考えていましたが、作品はすでに完結していると考える水木さんがそれを良しとしない状況にありました。しびれを切らした五十嵐さんが、キャンディキャンディのコマ絵を「なかよし」以外の他の雑誌表紙に掲載したり、新たに書き下ろした絵はがきを作成したりしていました。すると水木さんは、その行為が「キャンディキャンディ」の著作権を侵害していると主張して、原著作者としての権利を確認するとともに、原画の作成、複製、頒布の禁止を求めて提訴しました。

2 水木杏子側の主張

 すでにマンガの二次的利用に関して、双方の合意が必要であること、使用料を一定の割合に応じて配分することなどを内容とする契約が交わされていたはずなのに、私との合意なしに、キャンディの絵はがきの作成を株式会社フジサンケイアドワークに対して許諾し、販売させようとしています。なので、その頒布の差し止めを求めます。
 またキャラクターの価値は絵だけでなくその人格にもあります。すると、その人格を担当した私も原作者であり、当然にマンガ全体について著作権があると思います。

3 五十嵐優美子側の主張

 そもそも、水木氏は名ばかり原作者で、キャンディ・キャンディの著作権はありません。なぜなら、水木氏は参考資料を提供しているだけで、連載マンガは私が単独で作成した著作物であって、水木氏との共同著作物ではないからです。仮に水木氏が著作者の権利を有するとしても、マンガにおける登場人物の絵は、私の独創によるものであり、水木氏の創造性は全く介入していないので、私が新たに書き下ろした絵については、差止めを求める権利はないと思います。

4 最高裁判所の判決

 連載漫画は、水木杏子氏が各回ごとの具体的なストーリーを創作し、これを400字詰め原稿用紙30枚から50枚程度の小説形式の原稿にし、五十嵐優美子氏において、漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き、おおむねその原稿に依拠して漫画を作成するという手順を繰り返すことにより制作されたというのである。
 この事実関係によれば、本件連載漫画は水木氏作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができるから、水木氏は、本件連載漫画について原著作者の権利を有するものというべきである。そして、二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し、原著作物の著作者である水木氏は本件連載漫画の著作者である五十嵐優美子氏が有するものと同一の種類の権利を専有し、五十嵐優美子氏の権利と水木氏の権利とが併存することになるのであるから、五十嵐優美子氏の権利は、五十嵐優美子氏と水木氏の合意によらなければ行使することができないと解される。
 したがって、水木氏は、五十嵐優美子氏が漫画の主人公キャンディを描いた原画を合意によることなく作成し、複製し、又は配布することの差止めを求めることができるというべきである。

5 偽Tシャツ事件では刑事裁判に発展

 今回のケースで裁判所は、話を創作したストーリー作家が有している権利が、マンガの主人公を描いた原画にまで及ぶとしました。
 以前には、主人公のキャンディをTシャツにプリントして販売していたサクラ産業が、アニメの著作権者である東映動画によって大阪府警察に告訴された刑事事件で、大阪地裁が著作権侵害を理由に懲役2年、執行猶予3年の判決を下したものがあります(判例タイムズ396号64頁)。
 キャンディ・キャンディが封印された状態が今後も続くことが予想されますね。

では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?