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千日デパートビル火災事件

こんにちは。

 今日は、大阪ミナミの繁華街で起きたビル火災について、その防火対策をめぐって裁判で争われた最決平成2年11月29日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 昭和47年5月13日夜、大阪にある千日デパートビルの3階から出火し、死者が118人にのぼるなど甚大な被害が出ました。その後、千日デパートビルを所有する日本ドリーム観光の千日デパート管理課長と、テナントの「プレイタウン」を経営する千土地観光の社長及び「プレイタウン」の店長が、業務上過失致死傷罪の容疑で逮捕、起訴されました。

2 最高裁判所の決定

 1審の大阪地裁は、3名に対していずれも無罪とする判決を下しましたが、大阪高裁は1審判決を破棄し、ドリーム課長を禁固2年6か月、3年の執行猶予、社長及び店長を禁固1年6か月、2年の執行猶予に処す判決を下しました。最高裁判所は、次のような理由で、被告人らの上告を棄却しました。

 千日デパートビルは、日本ドリーム観光株式会社が所有・管理する地下1階、地上7階、塔屋3階建の建物であり、同社が直営する店舗と同社からの賃借人が経営する店舗とが混在する雑居ビルであって、同社が6階以下を「千日デパート」として使用し、同社の子会社である千土地観光株式会社がドリーム観光から7階の大部分を貸借して、キャバ レー「プレイタウン」を経営していた。
 ドリーム観光とテナントとの間の賃貸借契約等によれば、 テナント側の当直は禁じられ、ドリーム観光が営業時間外のテナントの売場設備及び商品の警備を含む防火、防犯に関する業務を行うこととされ、右業務は、ドリーム観光の千日デパート管理部が担当していた。
 被告人ドリーム課長は、同管理部管理課長として、本件ビルの維持管理を統括する同管理部次長を補佐する立場にあるとともに、「千日デパート」の消防法8条1項に規定する防火管理者の地位にあった。
 被告人社長は、右千土地観光株式会社の代表取締役であって、「プレイタウン」の同項に規定する「管理について権原を有する者」に当たり、被告人店長は、「プレイタウン」の支配人であって、同店の防火管理者の地位にあった。
 「千日デパート」の各売場は、午後9時に閉店し、その後は多量の可燃物が置かれた各売場には従業員は全く不在になり、通常、千日デパート管理部保安係員の5名のみで防火、防犯等の保安管理に当たっており、7階の「プレイタウン」だけが午後11時まで営業し、多数の従業員や客が在店しているという状況にあった。
 「千日デパート」の各売場内には防火区画シャッター及び防火扉が設置されていたが、これらは閉店後閉鎖されておらず、また、その6階以下の全館に一斉通報のできる防災アンプが設置されていたが、7階の「プレイタウン」に通報する設備はなく、午後9時以降は1階の保安室から外線によって電話をする以外に同店に連絡する方法はなかった。
 本件ビルの構造上、「プレイタウン」のある7階より下の階から出火した場合、「千日デパート」の各売場から完全に遮断された安全な避難階段は、7階南側の「プレイタウン」専用エレペーター脇のクローク奥にある、平素は従業員が使用していた階段のみであったが、同階段を利用しての避難誘導訓練はもとより、階下からの出火を想定した訓練は一切行われていなかった。
 「プレイタウン」に設置されている救助袋は1個であり、それも一部破損しており、また、これを利用した避難訓練も行われていなかった。
 このような状況の下で、昭和47年5月13日午後10時25分ころ、当時本件ビル3階の大部分を賃借していた株式会社ニチイから電気工事を請け負っていた業者の従業員らが同階売場内で工事をしていた際に、その原因は不明であるが、本件火災が同階東側のニチイ寝具売場から発生し、2階ないし4階はほぼ全焼した上、火災の拡大による多量の煙が、「プレイタウン」専用の南側エレベーターの昇降路、E階段、F階段及び本件ビル北側の換気ダクトを通って上昇し、7階の「プレイタウン」店内に流入した。
 当夜本件ビルの宿直勤務についていた保安係員は、欠勤者が1名出たため、4名であったが、火煙の勢いが激しかったため、消火作業をすることができないまま全員避難せざるを得なかった。その際、保安係員らは、いずれも「プレイタウン」に電話で火災の発生を通報することを全く失念しており、右通報をした者はいなかった。
 被告人店長は、右換気ダクトや南側エレベーターの7階乗降口から煙が流入してきた初期の段階で、従業員らを指揮し、客等を誘導して安全なB階段から避難させる機会があったのに、これを失し、また、救助袋が地上に投下されたのに、従業員が救助袋の入口を開ける方法を知らなかったため、結局それを利用することもできなかった。
 本件火災の結果、一酸化炭素中毒や救助袋の外側を滑り降りる途中の転落 等により、客及び従業員118名が死亡し、42名が傷害を負った。  
 原判決は、本件火災の拡大を防止するためには、「千日デパート」閉店後は本件ビル1階ないし4階の各売場内の防火区画シャッター等のうち、3階の自動降下式の防火区画シャッター4枚を除く、その余の全部の防火区画シャッター等を閉め、工事が行われている場合は、その工事との関係で最小限開けておく必要のある防火区画シャッター等のみを開け、保安係員を立ち会わせ、開けたものについてはいつでも閉めることができるような体制を整えておくべきであり、被告人ドリーム課長が右義務を履行できなかったような事情は認められないとして、その過失責任を肯定した。
 所論は、ドリーム観光としては、防火区画シャッター等は、本来、火災の発生時に閉鎖できるようにしておけばよいのであって、閉店後に全部の防火区画シャッター等を閉鎖すべき法令上の根拠はなく、また、工事の際の立会いについても、工事をするテナント側で立会いを付けるべきであって、千日デパート管理部の保安係員を立ち会わせるべき義務はない旨主張する。
 そこで、検討するに、閉店後の「千日デパート」内で火災が発生した場合、前記の状况の下では、容易にそれが拡大するおそれがあったから、ドリーム観光としては、火災の拡大を防止するため、法令上の規定の有無を問わず、可能な限り種々の措置を講ずべき注意義務があったことは、明らかである。そして、そのための1つの措置として、平素から防火区画シャッター等を全面的に閉鎖することも十分考えられるところであるが、本件火災に限定して考えると、当夜工事の行われていた本件ビル3階の防火区画シャッター等のうち、工事のため最小限開けておく必要のある南端の2枚の防火区画シャッターを除く、その余の全部の防火区画シャッター等を閉め、保安係員又はこれに代わる者を工事に立ち会わせ、出火に際して直ちに出火場所側の南端東側の防火区画シャッター1枚を閉める措置を講じさせるとともに、「プレイタウン」側に火災発生を連絡する体制採っておきさえすれば、煙は、東西を区画する東側の防火区画シャッターによって区画された部分にほぼ封じ込められるため、ほとんど「プレイタウン」専用の南側エレベーターの昇降路からのみ上昇することになり、全面的な閉鎖の措置を採った場合と同様、「プレイタウン」への煙の流入を減少させることができたはずであり、保安係員又はこれ代わる者から1階の保安室を経由して「プレイタウン」側に火災発生の連絡がされることとあいまって、同店の客及び従業員を避難させることができたと認められるのである。そうすると、ドリーム観光としては、少なくとも右の限度において、注意義務を負っていたというべきであり、このことは、原判決も肯定しているところと解される。
 そうであれば、ドリーム観光の千日デパート管理部管理課長であり、かつ、「千日デパート」 の防火管理者である被告人ドリーム課長としては、自らの権限により、あるいは上司である管理部次長の指示を求め、工事が行われる本件ビル3階の防火区画シャッター等を可能な範囲で閉鎖し、保安係員又はこれに代わる者を立ち会わせる措置を採るべき注意義務を履行すべき立場にあったというべきであり、右義務に違反し、本件結果を招来した被告人ドリーム課長には過失責任がある。  
 原判決は、被告人店長において、「プレイタウン」の防火管理者として、平素から救助袋の維持管理に努め、従業員を指揮して客等に対する避難誘導訓諌を実施し、煙が侵入した場合、速やかに従業員をして客等をB階段に誘導し、あるいは救助袋を利用して避難させることにより、客等の避難の遅延による事故の発生を未然に防止 すべき注意義務があったとする。
 所論は、本件の前年の7月に1回行われた消防訓練の際にも、消防当局の係 員からは、B階段からの避難が最も安全であるという指導はなく、それに沿う訓練も指示されていないし、被告人店長としては火の気のない6階以下からの出火を日常絶えず心配している必要はない旨主張する。
 そこで、検討するに、原決判の判示するように、被告人店長において、あらかじめ階下からの出火を想定し、避難のための適切な経路の点検を行ってさえいれば、B階段が安全確実に地上に避難することができる唯一の通路であるとの結論に到達することは十分可能であったと認められる。そして、被告人店長は、建物の高層部で多数の遊興客等を扱う「プレイタウン」の防火管理者として、本件ビルの階下において火災が発生した場合、適切に客等を避難誘導できるように、平素から避難誘導訓練を実施しておくべき注意義務を負っていたというべきである。したがって、保安係員らがいずれも「プレイタウン」に火災の発生を通報することを全く失念していたという事情を考慮しても、右注意義務を怠った被告人店長の過失は明らかである。  
 原判決は、被告人社長についても、「プレイタウン」の管理権原者として、防火管理者である被告人店長ともども、前記の注意義務があったとする。  所論は、被告人店長についてB階段を利用した避難誘導訓練をしておくべき注意義務はないから、被告人社長についても、右の点の注意義務は認められない旨主張する。
 そこで、検討するに、被告人店長には、前述のとおり、避難誘導訓練をしておくべき注意義務があったと認められるところ、被告人社長は、救助袋の修理又は取替えが放置されていたことなどから、適切な避難誘導訓練が平素から十分に実施されていないことを知っていたにもかかわらず、管理権原者として、防火管理者である被告人店長が右の防火管理業務を適切に実施しているかどうかを具体的に監督すべき注意義務を果たしていなかったのであるから、この点の被告人社長の過失は明らかで ある。  
 よって、被告人らの上告を棄却する。

3 ビルの管理者の責任と避難訓練の重要性

 今回のケースで裁判所は、デパートビルの火災事故においてデパートビルの管理課長とビル内のキャバレーの経営者と店長などに注意義務違反があったことを理由に業務上過失致死傷罪が成立するとしました。
 火災原因が不明とされるミステリー要素もありますが、この事件がきっかけに消防法や建築基準法の改正が相次ぎました。ビルの管理者やお店の店長であっても、日ごろから避難訓練を実施しておくことが求められていますので、参考になれば幸いです。
 では、今日はこの辺で、また。

  

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