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阪神電鉄事件

こんにちは。

 白と黒の縦じまと言えば阪神のユニフォームなのですが、それ以外にもユベントスやビートルジュースを思い浮かべてしまいますね。

 さて今日は、胎児の損害賠償請求を巡って裁判に発展した「阪神電鉄事件」(大判昭和7年10月6日民集11巻2023頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 事実婚の関係にあった石野重子は、夫の定森徳市の子どもを妊娠していました。ところが、阪神電鉄の運転手のミスにより、徳市が電車に轢かれて死亡してしまいました。徳市の父である利之助と鉄道会社との間で話し合いが行われ、1000円の損害賠償をするとの示談が成立し、その条項の中に今後はいかなる請求もしないとの取り決めがなされていました。その後、徳市の子である石野寿雄を出産した重子は、寿雄とともに、徳市からの扶養を受けられなくなったとして、阪神電鉄に対して損害賠償を求めて提訴しました。

2 重子たちの主張

 徳市が生きていれば得られたであろう扶養料として2635円、徳市が死亡したことに対する精神的苦痛、寿雄は出生前に父を失い、認知請求権を行使できずに生涯非嫡出子としておくる精神上の苦痛に対する慰謝料3000円の支払いを求めます。

3 阪神電鉄の主張

 扶養を求める権利は、法律上の配偶者に限られるものだ。また寿雄と重子は、民法711条にいう徳市との親族関係にないので損害賠償請求ができないはずだ。
 仮にわが社が損害賠償をしなければならないとしても、徳市の親族の代表と協議が行われ、我々は弔慰金として1000円を支払うが、「今後いかなる請求もしません」という取り決めをしていたので、損害賠償はしなくてもよいはずだ。

4 大審院の判決

 石野寿雄は、阪神電鉄との和解交渉がなされた際に、まだ出生せず重子の胎内にいた。民法が胎児は損害賠償請求権につきすでに生まれたものとみなすのは、胎児が不法行為あった後に生きて生まれてきた場合に、不法行為に基づく損害賠償請求権の取得については出生時に遡って権利能力があったとみなすということにとどまり、胎児に対してこの請求権を出生前に処分できる能力を与えようとする趣旨ではない。阪神電鉄が行った和解契約は寿雄に対しては何らの効力もないものといわざるを得ない。
 定森徳市は、本件事故により死亡し、石野寿雄を私生児として認知していないので、寿雄は遂に徳市の子としての地位を取得できなくなった。そうすると、同人の身分は民法711条の列挙するいずれの場合にも該当しないので、同条に基づく寿雄の慰謝料請求はこれを是認することができない。
 しかし、重子は徳市の内縁の妻として同人と同棲していた者で、寿雄はその間に生まれた者であるので、寿雄は少なくとも徳市の収入で生計を維持することができる者となる。寿雄は、徳市の死亡によってその利益を喪失したものということができる。
 寿雄が徳市の生存により有したその利益は民法709条により保護を受けるべき利益であり、他人を傷害した場合において、その者に妻子あるいはこれと同視すべき関係にある者が存在し、このような行為の結果、これらの者の利益を侵害することがあるというのを当然予想すべきものである。本件において、阪神電鉄はその被用者が徳市を傷害したがために、寿雄の利益を侵害したことにより、寿雄の被った損害を賠償すべき義務があることは多言を要せずして明らかであるがゆえに、もし阪神電鉄が徳市の死亡についてその責を負うべきものとすれば、原審は少なくとも財産上の利益の損失に関する寿雄の請求はこれを認容すべきものといわなければならない。原審が寿雄の2635円の請求を棄却したのは失当であることは免れない。
 よって、重子と寿雄の請求中3000円に関する部分に対する上告を棄却する。それ以外の請求については大阪控訴院に差し戻す。

5 胎児を代理した和解契約の効力

 今回のケースで裁判所は、父が電車に轢かれて死亡し、その親族と鉄道会社との間でなされた和解契約について、父死亡時に胎児であった者は損害賠償の請求に関してはすでに生まれたものとみなされるものの、胎児中の権利能力については出生した段階で遡って権利能力を取得することになるので、胎児は和解契約に拘束されないとしました。
 つまり、胎児が生まれてくるまでは権利能力がないので、法定代理人が胎児を代理して契約ができないという点に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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