コインハイブ事件
こんにちは。
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産が、何かと話題となることが多いですね。暗号資産の特徴として、電子計算機などを用いて大量の演算をすることで、新たに暗号資産を掘り出すことができるというマイニングがあります。
今日は、「モネロ(Monero)」という暗号資産のマイニング装置が問題となった「コインハイブ(Coinhive)事件」(最判令和4年1月20日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
ウェブデザイナーの諸井聖也さんは、「Coinhive」というプログラムを自分のWebサイトに設置していました。そこでは、サイトを閲覧しているPCの計算能力を利用して、モネロのマイニングを行わせ、得られたモネロはCoinhiveの設置者に7割、運営元に3割が割り当てられる仕組みになっていました。すると、Coinhiveの組み込まれたサイトの閲覧者が、自分の知らないところで自分のPCがモネロのマイニングに使われているということが問題だとして、コンピューターウイルスの罪と同様に不正な指令を行うプログラムを保管したという罪で諸井さんは神奈川県警察に逮捕され、略式起訴されました。
2 検察側の主張
被告人は、そのサイトの閲覧者が使用する電子計算機の中央処理装置にその同意を得ることなく、仮想通貨モネロの取引履歴の承認作業等の演算を行わせてその演算機能を提供したことによる報酬を取得しようとして、閲覧者の意図に反する動作をさせる不正な指令を与える電磁的記録を保管した。
これは、刑法168条の2第1項の罪に該当する。
3 諸井さんの主張
そもそも、Coinhiveのプログラムコードが違法なものだとは思っていませんでした。このプログラムの実行については、ウェブサイトの閲覧に随伴するものと認識すべきで、閲覧者の推定的同意があるので、意図に反する動作をさせるものでは決してありません。また、このプログラムコードで、閲覧者の電子計算機の破壊や、情報の窃用などの実害を生じさせるものではないので、社会的に許容されるもの考えられ、決して不正な指令を与えているものとはいえないはずです。
4 最高裁判所の判決
プログラムコードによるマイニングは、閲覧者の同意を得ることなくその電子計算機に一定の負荷を与え、これに関する報酬を閲覧者が取得することができないものであるのに、閲覧者にマイニングの実行を知る機会やこれを拒絶する機会が保障されていないなど、プログラムに対する信頼という観点から、より適切な利用方法等が採り得たものである。
しかしながら、電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響は、閲覧者の電子計算機の中央処理装置を一定程度使用することにとどまり、その使用の程度も、閲覧者の電子計算機の消費電力が若干増加したり中央処理装置の処理速度が遅くなったりするが、閲覧者がその変化に気付くほどのものではなかったと認められる。
プログラムコードの動作の内容、その動作が電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響、その利用方法等を考慮すると、問題となったプログラムコードは、社会的に許容し得ないものとはいえず、不正性は認められない。
以上のとおり、プログラムコードは、反意図性は認められるが、不正性は認められないため、不正指令電磁的記録とは認められない。よって、被告人を無罪とする。
5 逆転無罪判決
今回のケースで、第一審の横浜地裁は無罪、第二審の東京高等裁判所が逆転で罰金10万円の有罪としたので、諸井さんが上告したところ、最高裁判所は、罪が成立するための、利用者の意図に反しているかどうかの「反意図性」と、社会的に許容し得るものでないかどうかの「不正性」という2つの要件のうち、不正性がないとして無罪判決を下しました。
再逆転無罪判決について、諸井さんの担当弁護士が「ソシャゲでガチャを引いて、星5のキャラクターを連続で2体引けるかどうか」といった低い確率だったというコメントも注目に値しますね。
では、今日はこの辺で、また。
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