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取得時効と登記事件

こんにちは。

 民法には、他人のものだと知らずに「自分のものだ」と信じて10年間占有していれば、その所有権を取得できるだけでなく、たとえ他人のものだと知っていても20年間占有していればその所有権を取得できてしまう「取得時効」という制度があります。

 今日は、この取得時効と土地の名義に関して法務局で行う登記の問題を考える上で、「北海道国有未開地事件」(大連判大正14年7月8日民集4巻412頁)と「美浪有限会社事件」(最判昭和46年11月5日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 北海道国有未開地事件

 北海道の国有未開地で未登記の係争地に無権利のまま家屋を建てて所有していた佐藤雄蔵は、明治21年に向井山雄に土地を売却し、向井氏が登記をしないまま占有を継続していました。佐藤雄蔵の相続人である佐藤正助は、明治32年に北海道国有未開地処分法により、国から正式に土地の所有権の付与を受けたことから、大正5年に保存登記をした後に、その土地を佐藤誠治郎と佐藤雄記に売却し、移転登記手続をしました。これに対して向井氏は明治41年に取得時効により土地の所有権を取得したとして、佐藤誠治郎らに対して所有権保存登記及び移転登記の抹消を求めて提訴しました。

 原審は、向井氏の取得時効完成後になされた佐藤氏による所有権保存登記は無効としたのに対して、大審院の連合部は「向井氏が時効による所有権取得の登記をしない間に佐藤誠治郎と雄記が売買による所有権移転登記をした場合、二重売買のときに後の買主が前の買主よりも先に登記を取得し、さらに他人に登記移転手続きをした場合と同様に論じるべきで、なんらこれを区別する理由がない。よって佐藤氏らの受けた登記も有効であると論断すべきものとする。
 原院が向井氏は登記なくして時効による所有権の取得を佐藤氏らに対抗することができる旨を判示したことは違法であり、論旨はこの点において理由がある。向井氏が時効による所有権の取得を佐藤誠治郎及び雄記に対抗することができないことは明らかである以上、向井氏の請求は全部却下するに足り、他の審理を必要としない。」と判決を下しました。

2 美浪有限会社事件

 昭和27年、木村留三郎は西村日吉に土地を売却しましたが、所有権移転登記はなされていませんでした。昭和33年、木村留三郎が死亡し、相続人の中西秀子らが浅田克己にこの土地を売却し、そこから中西浅右衛門へ、さらには美浪有限会社が土地を買い受け、登記を取得しました。昭和42年に西村氏は、昭和37年の段階で土地を時効で取得したとして、美浪有限会社に対して土地所有権確認と登記の抹消を求めて提訴しました。

 この点について最高裁判所は、「不動産の売買がなされた場合、特段の意思表示がないかぎり、不動産の所有権は当事者間においてはただちに買主に移転するが、その登記がなされない間は、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に対する関係においては、売主は所有権を失うものではなく、反面、買主も所有権を取得するものではない。当該不動産が売主から第2の買主に二重に売却され、第2の買主に対し所有権移転登記がなされたときは、第2の買主は登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者であることはいうまでもないことであるから、登記の時に第2の買主において完全に所有権を取得するわけ 
であるが、その所有権は、売主から第2の買主に直接移転するのであり、売主から一旦第1の買主に移転し、第1の買主から第2の買主に移転するものではなく、第1の買主は当初から全く所有権を取得しなかつたことになるのである。したがつて、第1の買主がその買受後不動産の占有を取得し、その時から民法162条に定める時効期間を経過したときは、同法条により当該不動産を時効によつて取得しうるものと解するのが相当である。
 してみれば、西村氏の土地に対する取得時効については、西村氏がこれを買い受けその占有を取得した時から起算すべきものというべきであり、二重売買の問題のまだ起きていなかつた当時に取得した西村氏の土地に対する占有は、特段の事情の認められない以上、所有の意思をもつて、善意で始められたものと推定すべく、無過失であるかぎり、西村氏は、その占有を始めた昭和27年から10年の経過をもつて土地の所有権を時効によつて取得したものといわなければならない。
 これと異なる見解のもとに、本件取得時効の起算日は浅田克己が所有権移転登記をした昭和33年とすべきであるとして、西村氏の時効取得の主張を排斥した原審の判断は、民法162の解釈適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。原判決は破棄を免れない。」と判決を下しました。

3 取得時効と登記の関係

 今回のケースで裁判所は、時効によって登記がされていない不動産の所有権を取得したとしても、その不動産について登記をしていなければ、時効完成後に同じ不動産について保存登記をした者に対して対抗することができないとし、また不動産が二重に売買された場合において、第一の買主が登記をしておらず、第二の買主に対抗することができないとしても、第一の買主の取得時効の期間は、その占有を取得したときから起算し、第二の買主に対して登記なくして対抗できるとしました。
 取得時効完成前後の第三者と登記の関係、取得時効の起算点に十分に必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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