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取引履歴開示事件

こんにちは。

 「利息を払いすぎていませんか?」というフレーズを聞いたことがあるでしょう。一時期はテレビCMや電車広告でよく見かけましたが、そのきっかけとなったのは、債務者にとって有利な条件で過払金返還を認めた2006年の「シティズ判決」でした。

 今日は、この判決以外にも、過払金返還請求が増えるきっかけの1要因となった「取引履歴開示事件」(最判平成17年7月19日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 貸金業を営む株式会社キャスコは、夏子に対して平成4年から平成14年の間に109回にわたってお金を貸し、夏子は129回にわたって返済していました。夏子からの債務整理を依頼を受けた弁護士は、返済計画を立てるために、キャスコに対して全取引の明細を求めたところ、キャスコが取引履歴を全く開示しませんでした。そこで弁護士は、夏子が利息制限法で定められている利息の上限を越える利息を払っているとして過払金の返還を求め、さらに取引履歴の開示がされなかったことにより債務整理が遅れ、夏子が精神的に不安定な立場に置かれたとして、不法行為による慰謝料の支払いを求めて提訴しました。

2 夏子の主張

 貸金業者の貸付利率は、利息制限法の利率を超過しており、債務整理にあたっては、上限利率により引き直し計算する必要があります。これにより、債務残額は減額され、場合によっては過払いとなった返還金により他の債務の返済資金にすることができるのです。私のような債務者には、通常、取引に関する記録を全て保管することは期待できませんが、貸金業者は帳簿保存義務が課されているので、コンピューターで取引履歴を保管していれば容易に取引履歴を開示できるはずです。また貸金業者には、信義誠実の原則に基づいて、取引履歴の開示義務があると思います。

3 キャスコの主張

 そもそも、お金を借りている夏子自身が返済額をきちんと管理していないのが悪い。貸金業法やその他の法令に、貸金業者の取引履歴の開示を定めた規定は存在しないので、取引履歴の開示義務はない。
 債務整理が遅れたことによる夏子の精神的負担について、特別の損害が発生しているとは思えないので、そのような請求は認められません。

4 最高裁判所の判決

 一般に、債務者は、債務内容を正確に把握できない場合には、弁済計画を立てることが困難となったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る可能性があるのに対して、貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり、貸金業者に特段の負担は生じないことにかんがみると、貸金業者は、債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。そして、貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは、その行為は、違法性を有し、不法行為を構成するものというべきである。
 よって原判決を破棄し、大阪高等裁判所に差し戻す。

5 取引履歴の開示義務

 今回のケースで裁判所は、貸金業者は債務者から取引履歴の開示を求められた場合には、特段の事情のない限り、信義則上その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うとしました。
 お金を借りて、返済して、また借りてといったことを繰り返しているうちに、ひょっとすると利息を払いすぎているというケースもありますので、そんなときには法律家に相談するとよいでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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