見出し画像

NHK氏名日本語読み事件

こんにちは。

 韓国ドラマなどを見ていたときに名前の呼び方が微妙に異なるのはなぜなのかが気になっていました。例えばジョングクさんの呼び方がジョングガやジョングギと呼ばれることがあるのですが、これは日本人でも親しい間柄で、あだ名で呼び合うのと同じ感覚だと知って納得しましたね。

 さて今日は、在日韓国人の名前の呼び方が問題となった「NHK氏名日本語読み事件」(最判昭和63年2月16日ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 在日韓国人の崔昌華(チェ チャンファ)は、NHKのニュース番組で自らの名前が「サイ・ショウカ」と呼ばれていたことに精神的なショックを受けました。そこで、崔氏は氏名権の侵害を理由に、NHKに対して謝罪文の放送、新聞への掲載、自身以外の韓国人の氏名を今後は朝鮮語読みで呼ぶこと、慰謝料1円を求めて提訴しました。

2 崔昌華の主張

 自分の名前は、個人の人格と民族主体性の象徴である。氏名は、1つであり、その個人が外国人である場合、その属している母国語音で呼ばれるべきであり、人格の尊重の基礎がここにある。NHKが私の名前を日本語読みする行為は、私の基本的人権としての人格権を侵害し、私の属する民族の誇りを傷つけるものである。よって、謝罪と1円の慰謝料を請求する。

3 NHKの主張

 日本では、韓国人の名前を日本語で読むという社会一般の認識があったので、問題はありません。そもそも、漢字によって表記された氏名を正確に呼称することは、漢字の日本語音が複数存在しているため、必ずしも容易ではありません。名前をどのように呼ぶのかは、呼ぶ人の自由であり、不正確な呼称が明らかな蔑称である場合はともかく、不正確な呼称のすべてが違法性のあるものとして不法行為を構成するというのはおかしいです。

4 最高裁判所の判決

 氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であつて、人格権の一内容を構成するものというべきであるから、人は、他人からその氏名を正確に呼称されることについて、不法行為法上の保護を受けうる人格的な利益を有するものというべきである。しかしながら、氏名を正確に呼称される利益は、氏名を他人に冒用されない権利・利益と異なり、その性質上不法行為法上の利益として必ずしも十分に強固なものとはいえないから、他人に不正確な呼称をされたからといつて、直ちに不法行為が成立するというべきではない。
 崔氏は、韓国籍を有する外国人であり、その氏名は漢字によつて「崔」と表記されるが、民族語読みによれば「チェ」と発音されるところ、NHKは、テレビ放送のニユース番組において、崔氏があらかじめ表明した意思に反して、崔氏の氏名を日本語読みによつて「サイ」と呼称したというのであるが、漢字による表記とその発音に関する我が国の歴史的な経緯、放送当時における社会的な状況などを総合的に考慮すると、在日韓国人の氏名を民族語読みによらず日本語読みで呼称する慣用的な方法は、当時においては我が国の社会一般の認識として是認されていたものということができる。そうすると、NHKが崔氏の氏名を慣用的な方法である日本語読みによつて呼称した行為には違法性がない。
 よって、崔氏の上告を棄却する。

5 中国人の呼び名は日本語読み?

 今回のケースで裁判所は、NHKが在日韓国人の氏名を日本語読みしたとしても、社会一般の認識として是認されていることから、違法な行為ではないとしました。
 しかしこの判決以後、韓国人の名前は韓国語で発音されるようになりましたが、同じ漢字の中国人、例えば、毛沢東をマオツォートンとは呼ばない慣習があることにも興味がありますね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?