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振り込め詐欺と代位事件

こんにちは。

 詐欺師を見抜くための5つのサインは、①権威とのつながりをアピールする、②希少性をアピールする、③リスクを矮小化する、④直球の質問に答えない、⑤断るとなぜか怒り出す、です。

 さて今日は、振り込め詐欺の被害に遭った人が、加害者に対する不当利得返還請求権を保全するために加害者の預金払戻請求権を代位行使することができるのかどうかが問題となった「振り込め詐欺と代位事件」(東京地判平成17年3月30日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 「ばあちゃん、俺だよ、俺。さっき、車で外車と事故を起こしちゃってさあ、示談金を払わなくっちゃいけなくなったよ。どうしよう~」という電話を受けた夏代は、それが自分の孫だと誤信して、「あんた、何しとんよ。え?!」、「もしもし、エンタメ弁護士と申します。お孫さんの交通事故の件ですが、どうやら飲酒運転をしていたようです。被害者の方が休業損害として、示談金を払わないと警察に届出ると言っているようでして。お孫さんもお金を持ち合わせていないようなので、すぐに100万円を指定の口座に振り込んでください」と、言われるがままにUFJ銀行の口座にお金を振り込みました。その後、振込詐欺だと気づいた夏代は、UFJ銀行に対して振り込んだお金の返還を求めて提訴しました。

2 夏代の主張

 私は、誰かわからない人の指示に従って、お金を振り込みました。けど私は、その氏名不詳者に対して不当利得返還請求権を持っています。氏名不詳者は、このUFJの口座以外にめぼしい財産を持っていません。氏名不詳者はUFJ銀行に預金債権を有しているので、不当利得に基づき、氏名不詳者に代位して、UFJ銀行に対して約100万円の支払いを求めます。

3 UFJ銀行側の主張

 債権者代位権は認められないので、請求の棄却を求めます。

4 東京地方裁判所の判決

 夏代は電話をかけてきた氏名不詳者らに対し振込金と同額の不当利得返還請求権を有し、その氏名不詳者が振込先として指定した銀行口座を所有しているものと認められるところ、所在も明らかでない氏名不詳者に対して直接債務名義を取得する方法は現行法制上存在しないし、当該氏名不詳者の財産と認められるものは上記各口座についての預金払戻請求権以外には見当たらないのであるから、夏代としては、自己の不当利得返還請求権を保全するには当該預金払戻請求権を代位行使するほかなく、保全の必要性は優に認められる。
 夏代は指定口座欄記載の名義人に対する不当利得返還請求権に基づいてUFJ銀行に対する預金返還請求権を代位行使することができる。
 よって、UFJ銀行は夏代に約100万円を支払え。

5 振り込め詐欺救済法

 今回のケースで裁判所は、振り込め詐欺の電話で指定口座にお金を振り込んだ被害者が、詐欺を行った加害者に対する不当利得返還請求権を保全するために、加害者の預金払戻請求権を代位行使できるとしました。
 平成20年には、振り込め詐欺救済法が施行され、銀行口座に振り込まれて滞留している犯罪被害資金を被害者に返還する手続きが定められました。ただし、詐欺師たちは銀行振り込みではなく、現金の手渡しや郵送など、あの手この手で法の網をかいくぐっていますので、普段から十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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