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ノンタン事件

 こんにちは。

 絵本「ノンタン」は、2020年12月時点でシリーズ累計発行部数が3360万部を超える名作です。

 個人的には「ノンタンでかでかありがとう」の話がとてもお気に入りで、妹のタータンにノンタンがお絵かきを邪魔されるシーンを見ていると、思わず子育て中に仕事がうまくいかなかった自分と重なり合って、ぐっとこみ上げてくるものがありますね。

 そんなノンタンをめぐって、作者の間で権利が問題となったことがあります。今日はこの点を考える上で、「ノンタン事件」(東京高判平成11年11月17日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 ノンタンの原作者だった大友康匠は、アシスタントの清野幸子さんと結婚し、おしどり夫婦として知られていました。しかし、結婚から15年たったころに2人が離婚することなり、ノンタンの共同執筆が不可能となってしまいました。さらに、その著作権をめぐって争いとなり、清野さんが絵本の著作権が自分にあることの確認と300万円の損害賠償の支払を求めて提訴しました。

2 清野さんの主張

 私と大友さんの共同著作名義となっていますが、物語のストーリー、図柄、キャラクター、配色を創作したのは私で、大友さんは、私の指示に従って線書きや着色作業などその一部に関与した補助者にすぎず、私が著作権者であるはずです。また、私は離婚した後もノンタンシリーズの続編を執筆していますが、大友さんはほとんど作品がありません。印税も私の名義の口座に支払われているので、私にノンタンの著作権があることは間違いありません。

3 大友さんの主張

 ストーリー、図柄、キャラクター、配色などすべて私の主導の下で創作したもので、逆に清野さんが補助者にすぎない。少なくとも毛筆によって絵を仕上げることはすべて私がしてきたのだ。また節税対策で、清野さん名義の口座に印税を受け入れてきただけで、そのことは著作権の帰属とは関係が無い。離婚後に私が続編を出していないのは、夫婦の共同著作として発表した作品の続編を出すことに心理的抵抗を覚えるという芸術的な潔癖さからであり、清野さんとの争いを避けたいという気持ちが働いたからである。

4 東京高等裁判所の判決

 絵本は、清野氏が創作したものと認められ、清野氏が自認している創作過程における大友氏の関与は、いずれも補助的作業にとどまるものと解される。絵本が発行されていた時期における大友氏の著作活動は、絵本の制作はなく、学習雑誌のカットなどの仕事にとどまっている。また、原画や絵コンテが清野氏によって創作されたものであることが窺われる。
 よって、絵本の著作権は清野幸子氏に帰属する。

5 著作者の推定

 今回のケースで裁判所は、著作権法14条で著作者名として表示されている者をその著作物の著作者と推定すると定めがあるものの、共同著作の2名を著作者と推定するのではなく、創作的寄与に及ばない単なる補助者は著者になり得ないとして、清野さんだけを著作者だと認定しました。

【著作権法14条】
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。

 すでに、大友さんも清野さんもこの世を去っていますが、「ノンタン」という作品は、ずっと子どもたちの記憶の中には生き続けていくでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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