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野崎産業事件

こんにちは。

 法律用語に「物上保証人」というものがあるのですが、自分は借金をしていないにもかかわらず、他人の借金の担保として自らの不動産などを提供する人のことを指します。
 今日は、後順位抵当権者と物上保証人との関係を考える上で、「野崎産業事件」(最判昭和53年7月4日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 サントハム栄養食品株式会社にお金を貸していた株式会社三和銀行は、担保としてサントハムが所有する土地建物だけでなく、土屋快蔵が所有する千葉の山林について共同根抵当抵当権を設定しました。さらに、サントハムに対する債権を担保するために株式会社泉州銀行が2番抵当権、安宅産業株式会社が3番抵当権、日綿実業が4番抵当権を設定しました。
 その後、千葉の山林について競売がなされ、三和銀行はサントハムに対する債権全額に当たる約3420万円の弁済をうけ、泉州銀行も第二順位の抵当権者として、サントハムに対する債権の一部弁済を受けました。その結果、土屋は物上保証人として弁済したことから、サントハムに対して、弁済額と同額の求償権を取得し、また弁済者代位により三和銀行がサントハムの土地・建物に有している第一順位の根抵当権を取得しました。このとき土屋快蔵は、その求償権と根抵当権を杉本金属株式会社に、そこからさらに野崎産業株式会社に譲渡しました。泉州銀行がサントハム所有の土地建物を競売にかけ、代金交付表が作成されましたが、野崎産業は第一順位の根抵当権者として、約770万円の配当をうけるべき地位にあるとして、日綿実業などを提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競売代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに代位により債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが、後順位抵当権者は物上保証人に移転した右抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解するのが、相当である。
 後順位抵当権者は、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人は、自己の所有不動産に設定した後順位抵当権による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであつて、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合、又は共同抵当の目的物の全部が一括競売された場合との均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情により、物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権者よりも優先して弁済を受けることができ、本来予定していた後順位抵当権による負担を免れうるというのは不合理であるから、物上保証人所有の不動産が先に競売された場合においては、民法392
条2項後段が後順位抵当権者の保護を図つている趣旨にかんがみ、物上保証人に移転した一番抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、後順位抵当権者は、あたかも、右一番抵当権の上に民法372条、304条1項本文の規定により物上代位をするのと同様に、その順位に従い、物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである。
 この場合において、後順位抵当権者は、一番抵当権の移転を受けるものではないから、物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受け附記登記を了した第三者に対し右優先弁済権を主張するについても、登記を必要としないものと解すべく、また、物上保証人又は物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受けようとする者は不動産登記簿の記載により後順位抵当権者が優先して弁済を受けるものであることを知ることができるのであるから、後順位抵当権者はその優先弁済権を保全する要件として差押えを必要とするものではないと解するのが、相当である。したがつて、原審の確定した事実関係のもとでは、日綿実業らは野崎産業に優先して支払を受けることができるものというべきであって、これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
 よって、野崎産業の上告を棄却する。

3 物上保証人と後順位抵当権者の優劣

 今回のケースで裁判所は、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、後順位抵当権者は、物上保証人に移転した債務者所有の不動産に対する一番抵当権から優先して弁済を受けることができるとしました。 
 物上保証人は担保として差し出した不動産に自ら二番抵当権を設定していたので、その二番抵当権者が物上保証人に優先して弁済を受けることができるという点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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