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こんにちは。

 大食いでも痩せている人を見ていると、いったいどのような体の構造をしているのかが気になりますよね。その鍵は、普通の人よりも胃が10倍以上伸びやすいこと、腸内環境が整っていて食べてから排泄までの時間が短いことにあったと知って驚きましたね。

 今日は身体的特徴により交通事故で損害が拡大したことが問題となった「首長事件」(最判平成8年10月29日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 木之下は、宮崎県東臼杵郡付近を自動車で走行中、亮子の運転する自動車と追突事故を起こしました。このとき、亮子は運転席のシートに頭部を強く打ちつけ、その直後から首筋にしびれや痛みを感じ、病院で頸椎捻挫と診断された。その後、頭頸部外傷症候群による視力低下などの障害を負った亮子は、加害者の木之下と運行供用者の株式会社エフピコ、住友海上火災保険会社を相手に、損害賠償を求めて提訴しました。

2 亮子の主張

 私は、今回の事故で運転席のシートに頭を強く打ち付けて、通常の事故で発生するよりも大きな傷害を負いました。たしかに私は、人よりも首が長く頸椎不安定症がありますが、これについては私に非難される落ち度があるわけではありません。たまたま首が長かったから被害が拡大しただけで、その部分の損害額が通常の損害額ではないとして減額されては困ります。

3 木之下らの主張

 そもそも、今回の事故と被害者の症状との間に因果関係がないと考えられる。というのも、被害者の首が長いという身体的特徴により損害が拡大した場合、被害者の被った損害の全部を我々に負担させることは公平の理念に照らし相当ではないはずだ。たまたま被害者の首が長いという身体的特徴とメンタル的な要素で症状が悪化した場合には、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、賠償額の減額をすべきである。

4 最高裁判所の判決

 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができる。
 しかしながら、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。思うに、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。
 亮子の身体的特徴は首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるということであり、これが疾患に当たらないことはもちろん、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されているといった事情は認められないから、特段の事情が存するということはできず、身体的特徴と今回の事故による加害行為とが競合して亮子の傷害が発生し、又は右身体的特徴が被害者の損害の拡大に寄与していたとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するのは相当でない。
 よって、原審を破棄し、差戻す。

5 身体的特徴と損害賠償

 今回のケースで裁判所は、交通事故の被害者が通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない限り、その部分の損害賠償額を減額することができないとしました。
 たまたま特異体質で損害が拡大したとしても、被害者が救済されるような判断だったと言えるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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