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浪費癖と現存利益事件

こんにちは。
 
 若い頃に終わりのない浪費をしてしまったことベスト5を書き出してみると、①ゲームの課金、②ブランドの服でしたね。

 さて、自分の銀行口座に誤ってお金が振り込まれたときに、そのお金をギャンブルや浪費で使ってしまった場合に、返還しなくてもよいのかということが問題となります。この手元に残っている利益を意味する現存利益の返還をめぐっては、しばしば裁判で争いとなります。いったい、どのような利益が現存利益とみなされるのかを考える上で、「浪費癖と現存利益事件」(最判昭和50年6月27日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 内藤氏は、賭博行為に熱中するあまり、土地を担保に2000万円を借りてさらに賭博行為を続けていました。すると、内藤氏の妻である内藤とよは、これ以上、生活資金を浪費されないようにと、裁判所に対して夫を準禁治産者(現在は被補助人もしくは被保佐人)とすることを求めたところ、裁判所は夫を準禁治産者とする宣告をし、とよは保佐人となりました。
 しかしその後も内藤氏が内藤とよの同意を得ずに、浜松の会社から350万円を借りていたことから、内藤とよは契約を取り消して350万円の借金が存在しないことなどを求めて提訴しました。

2 内藤氏(内藤とよ)の主張

 夫が準禁治産者となったのは浪費者と認められたからであり、夫の親族らが浜松の会社に対して「内藤が準禁治産者となったから今後金銭を貸し付けることないように」と通告していたはずです。準禁治産者の夫が契約をするには保佐人である私の同意が必要なはずなのに、同意なく借金をする契約をしていたのです。私は、内容証明郵便により夫のした契約を取り消す意思表示をしたことで、契約がなかったことになり、お金も賭博で浪費しその利益が現存していない以上、返済する義務もないはずです。

3 浜松の会社側の主張

 内藤氏は、準禁治産者であることを隠して、「担保物件が不足するならそれ以外の土地も担保にしても良いし、融資金は担保物件以外の土地を1000万円で売却する手続きをしているので、年内に返済可能だから決して迷惑をかけるようなことはないので必ず貸して欲しい」と、単独で契約ができるように装って借り入れを申し込んできた。うちは、従前の調査だけでなく、再調査及び現地調査までして、内藤氏が能力者であると誤信して貸し付けをしたことから、内藤氏の行為は人を欺くには十分の方法であり、詐術にあたるものである。
 準禁治産者が金員を借り受け消費した場合、貸主において借主が準禁治産者であることを知り得ない事情があり、しかもはじめから賭博のために借りるという事情があれば、利得があるとすべきだ。

4 最高裁判所の判決

 内藤氏が浜松の会社に対して能力者であることを誤信させるために積極的術策を用いたといえないばかりでなく、浜松の会社は今回の法律行為をなすに際しては、内藤氏の提供する問いの所有関係、担保価値にのみ注意を奪われ、前回の貸付け後、内藤氏について準禁治産宣告の申立がなされたことを知らされており、内藤氏の能力について疑いを抱き得たのにその点には全く関心を向けず、貸付の手続を進め今回の法律行為をなした事実に鑑みれば、内藤氏の言動がその能力に関する浜松の会社の誤信を誘起し、またこれを強めたということもできない。
 また「現に利益を受ける限度」とは、取消し得べき行為によって事実上得た利益が、そのままあるいは形を変えて残存している限度をいい、浪費したときは利益は現存しないというべきであり、従ってその場合には無能力者に返還義務はない。
 よって、内藤氏はその返還義務を負わない。

5 浪費癖と現存利益

 今回のケースで裁判所は、浪費癖を理由とする準禁治産者は、日常的に浪費をするので、お金をギャンブルで浪費した後には、現存利益はなく、お金の返還義務はないとされました。
 ただし、制限行為能力者がお金を生活費に使ったときには現存利益があるとされ、逆にギャンブルに使えば現存利益がないとするのはおかしいのではないかとの意見もあります。この判決の考え方が一般的に広く適用されるのかどうかをめぐっては、まだまだ議論の余地がありますので、引き続き裁判例を分析してみたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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