神戸高専剣道実技拒否事件

こんにちは。

 小さい頃にファミコンの「ムサシの剣」というゲームで、無敵現象が起きたので、自分も無敵になれるのかと勘違いしてしまった松下です(敵をつくらないという意味で無敵にはなれるかも!)。

 さて今日は、宗教上の理由により剣道の授業をうけることを拒否することが問題となった「神戸高専剣道実技拒否事件」(最判平成8年3月8日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 神戸市立工業高等専門学校の生徒5人は、「エホバの証人」を信仰しており、その絶対平和主義に基づいて、体育の必修科目であった剣道の授業に参加を拒否し、授業中は道場の隅っこで正座し、レポートを作成するために授業の内容を記録していました。生徒たちは授業後に体育教員にレポートを提出しようとしましたが、体育教師からその受け取りを拒否されました。校長は、保護者らに対して剣道実技に参加しなければ留年すること、代替措置をとらないなどの学校の方針を説明しましたが、改善されることはありませんでした。仕方なく、校長は生徒たちの体育の単位を認定しなかったところ、1名の生徒が自主退学し、1名の生徒が2年連続留年したのちに、退学処分となりました。
 そのため生徒の親らは、信教の自由が侵害されたとして、処分の取消しを求める訴えを提起しました。

2 生徒の親らの主張

 憲法20条1項は、信教の自由を保障してて、教育現場でも尊重されるべきやのに、おもいっきり侵害されてるやないか。ほんで、信条による不当な差別を禁じて教育の機会均等をうたった教育基本法にも違反しとる。
 学習指導要領を隅から隅まで読んでも、剣道実技を強要できるとかいとらんやんけ。現に、神戸高専でも平成2年度までは、剣道がカリキュラムに組まれてへんかったやんけ。同じような問題で、東京や大阪、奈良など全国の多くの高専ではな、代替措置により進級や卒業を認めてるんや。何とかせえよ。

3 校長の主張

 生徒を留年させるかどうか、単位を認定するかどうかは、一般市民秩序と直接関係のない教育上の措置であり、高度の教育的、専門的評価に関する措置であって、司法審査の対象とはならないはずだ。
 剣道は、社会的なマナーを発達させるという側面で優れた体育効果を持ち、格技と分類されてはいるが、竹刀を使って行うスポーツであり、現代において剣道を日本刀を使用するための武道などと考えている者はいない。剣道を生徒らの信教に基づいてどう評価するかは、生徒の自由であるが、このような評価は一般には通用しないものであり、学習指導要領にも体育の内容として相当なものとして剣道があげられている。
 公教育を行っている我々に対して、生徒らの特定の信教を押しつけ、公教育のあり方を曲げることは許されることではない。逆に、生徒らを信教上の理由によって、授業につき特別扱いをすることは、公教育を行っている我々が生徒の信条によって差別扱いすることになり、憲法14条、教育基本法9条2項に違反することになる。教員の指導、説得に従わない生徒に対し、他の生徒と同じように単位を認定してしまうと、学年全体に対する規律の維持ができなくなる。
 さらに必修科目である剣道実技を履修しなかったにもかかわらず、剣道実技について点数を与えることになると、学校側においても履修拒絶が宗教上の理由に基づくものかどうかを判断しなくてはならなくなる。そうすると、必然的に公教育機関である高等専門学校が宗教の内容に深くかかわることになり、この点でも、公教育の宗教的中立性に抵触するおそれがある。

4 最高裁判所の判決

 高等専門学校の校長による今回の処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えた違法なものといわざるを得ない。
 高等専門学校においては、剣道実技の履修が必須のものとまではいい難く、体育科目による教育目的の達成は、他の体育種目の履修などの代替的方法によってこれを行うことも性質上可能というべきである。
 代替措置を採ること、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないのであって、およそ代替措置を採ることが、その方法、態様のいかんを問わず、憲法20条3項に違反するということができないことは明らかである。
 よって、学校側の退学処分などの取り消しを命じる。

5 信仰上の理由での武道の受講拒否

 今回のケースは、宗教上の理由で剣道の授業を受けないことが、単なる授業を怠けているだけなのか、それとも正当な理由のある受講拒否にあたるのかが争われました。この点について、最高裁は公立学校に対して、代替措置を講じたとしても特定宗教に対する援助にはあたらないので、学習機会を失う生徒に対して一定の配慮をせよと判断しました。

 実際に、21歳になった元生徒は学校に復帰したようですので、学校側にはしっかりと学べる環境を整えていくことが求めらたということのでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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