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短い別居期間と離婚事件

こんにちは。

 今日は、短い別居期間でも有責配偶者からの離婚請求が認めらるのかどうかが問題となった東京高判平成14年6月26日と最判平成元年3月28日を紹介したいと思います。

1 別居期間6年事件

 昭和49年に結婚した徳永夫妻には、2人の子どもがいました。ところが、妻と外国人男性との不倫疑惑が浮上し、夫も有馬千絵と不倫関係になったことから、平成8年から別居状態になっていました。そのため、夫は妻に対して調停を経た後に、離婚を求めて提訴しました。

2 東京高等裁判所の判決

 第一審では、有責配偶者である夫からの離婚請求が認めれませんでしたが、東京高等裁判所は次のような理由で夫の離婚請求を認めました。

 夫と妻は、ともに大学に通う学生同士として知り合い、卒業後に婚姻し、2人の子どもを設けた。夫は、大学を卒業した後、会社に就職し、昭和58年にイランに赴任した。同年12月家族を呼び寄せて一家はイランで生活するようになったが、昭和60年3月、イラン・イラク戦争のため妻と子どもらは日本に帰国し、夫も昭和61年9月に帰国した。
 妻は、夫がイランから帰国してしばらくした後、外国人相手の日本語学校の教師をするようになった。夫ら夫婦は会話の少ない夫婦であった上、結婚当初から夫が帰宅しない日が多かったことなどから必ずしも円満な夫婦関係ではなかった。
 昭和63年かその翌年ころ、夫が私用のため会社を早退して自宅に帰っていると、突然妻が日本語学校の生徒である白人男性を連れて帰ってきたことがあり、その後も妻がその男性と富士山に行って一緒に写っている写真を見た夫は妻と男性との関係に不審の念を抱いた。
 平成2,3年ころ、会社にいる徳永夫のもとに外国人男性の妻から、徳永妻と自分の夫との関係で話があるので会いたいという電話がかかってきたので会って話を聞いたところ、男性の妻は徳永妻が男性と頻繁にラブホテルに行っているので、徳永夫に指導・監督して欲しいという趣旨の話をした。帰宅した徳永夫は、徳永妻に対し当人同士の問題であるから妻が好きに決めたらよいというような話をしたところ、妻は夫の横で寝室から男性に電話をかけ夫の言葉を伝えていた。
 妻と外国人男性との問題があって、夫は妻が外国人男性と親密な関係にあるのではないかとの疑念を抱くようになり、夫と妻は更に会話の少ない夫婦となり、必要不可欠なこと以外は口をきかないという状態になっていたが、その後2,3年くらい経ってから妻が夫に男性との件について謝罪した。
 夫は、妻と顔を合わせるのが嫌になるなど妻との生活に苦痛を感じていたところ、料亭でアルバイトをしていた有馬千絵と知り合って親密な関係となり、平成8年3月ころ自宅を出て別にアパートを借りて別居し、そこに有馬が時々訪ねて来るという生活となった。
 夫は、子供のことが心配で別居後も週に1回は自宅に帰宅していたが、平成8年7月ころ、夫の会社宛てに、妻から別居を認める条件として①週1回は帰宅する、②子供たちには折をみて事情を話し了承を得る、③小遣いとして月給から5万円、ボーナス1回ごとに70万円を差し引いた残額は家計費等として妻に渡す、④緊急の際の連絡先を報告するという内容が記載されている書面に署名・捺印の上返送するようにとの手紙が届いた。夫はこのような誓約書に署名・捺印して妻に返送することも考えたが、これを了承した場合未来永劫その誓約書に拘束されてしまうのではないかと考えて返送することはしなかった。
 夫は、平成9年3月ころからは有馬とアパートで同棲生活をするに至り、そのころから週1回の自宅への帰宅もしなくなった。平成10年5月ころ、妻が夫の会社に訪ねて来て調停について裁判所に相談しているがその関係で内容証明郵便を出したいので現住所を教えてくれるように求めたが、夫はその場での回答を保留し、後日郵便で現住所を教えるつもりはないこと、内容証明郵便を出すのであれば会社宛てに出しても差支えがない旨回答した。その後、妻から内容証明郵便が送付されることはなく、平成11年7月ころ、夫は、妻の訴訟代理人の弁護士から呼出を受けたことから、妻に対し離婚の条件を提示したが、折り合いはつかなかった。夫は、平成12年1月25日、妻との離婚を求める調停を家庭裁判所に申し立てたが、同調停は不成立により終了した。
 妻は、日本語学校の教師を辞めて、英会話に英語の教師として勤務し、平成12年ころ手取りで月額35万円くらいの収入を得ていた。夫は、別居後平成11年3月までは夫の給与振込口座を妻が管理し、その後は長男が大学を卒業して就職したので給与受取口座を変更し、妻に月額20万円を送付している。長男は平成11年3月大学を卒業して同年4月に就職し、次男も平成14年3月大学を卒業した。夫は、離婚に伴う給付として妻に対し自宅建物を分与し、残っている住宅ローンも完済まで支払い続けるとの意向を表明している。
 以上認定の事実によると、夫と妻とは、もともと会話の少ない意思の疎通が不十分な夫婦であったところ、妻と外国人男性との不倫疑惑で夫婦の溝が大きく広がり、更に夫が有馬と婚姻外の男女関係を続けた中で互いに夫婦としての愛情を喪失して別居に至ったもので、別居後すでに6年を超えているところ、その間夫婦関係の改善は全くみられず夫の離婚意思は極めて強固であることが明らかであって、夫と妻の婚姻関係は完全に破綻し、今後話合い等によってこれを修復していくことは期待できないものと認められる。
 なお、妻が外国人男性と不貞行為があったかについては本件全証拠によるもこれを認めるに足りないが、夫が妻において外国人男性と親密な関係にあるのではないかとの疑念を抱いたことは無理からぬことであり、妻の外国人男性との交遊は夫との夫婦関係の悪化を促進させる要因となったものと認められる。
 そこで、夫の本件離婚請求が有責配偶者からのものであって許されないものであるか否かについて検討すると、夫は有責配偶者であると認められるが、別居期間は平成8年3月から既に6年以上経過しているところ、夫ら夫婦はもともと会話の少ない意思の疎通が不十分な夫婦であって、別居前も妻と外国人男性との交遊に夫の側からみて疑念を抱かせるものがあり、そのころから夫婦間の溝が大きく広がっていたこと、二子とも成人して大学を卒業しているなど夫婦間に未成熟子がいないこと、妻は英会話に勤務して相当の収入を得ているところ、夫は離婚に伴う給付として妻に現在同人が居住している自宅建物を分与し同建物について残っているローンも完済するまで支払い続けるとの意向を表明していることなどの事情に鑑みると、その請求が信義誠実の原則に反するとはいえない。
 以上によると、夫の民法770条1項5号に基づく離婚請求は理由がある。
 よって、これと異なる原判決を取り消してこれを認容する。
 

3 別居期間8年事件

 夫婦は結婚して以来、26年間同居して長男、次男、長女、次女を育ててきました。ところが、夫は別の女性と同棲するために妻と別居し、8年経過して夫が60歳、妻が57歳の時点で、離婚調停を経た後に、夫は離婚を求めて提訴しました。

4 最高裁判所の判決

 最高裁判所は次のような理由で、有責配偶者である夫からの離婚請求を認めませんでした。

 夫と妻は、昭和27年ころから同棲関係に入り、昭和30年4月婚姻の届出をし、同年3月に長女、昭和33年に次女、昭和39年に長男、昭和41年に次男をもうけた。
 夫が昭和40年ごろ小田原市役所に採用されたため、一家は昭和41年ころ東京都内から小田原市に転居して、借家で居住するに至ったが、夫は、かねて妻の家事の処理が不潔であり、経済観念に乏しく無駄な買い物が多く、それらを忠告しても改めようとしないことを厭(いと)わしく思い、昭和44年ころ、表向きは借家が手狭であることを理由に、内心は妻との共同生活からの逃避を兼ねて、付近にアパートの一室を借り、同所で寝泊まりをするようになり、その頃から両者間の性交渉が途絶えた。  
 しかし、夫は、昭和49年ころ、勤務先の部下であった女性とその夫が居宅を新築したことから、同人ら所有の旧居宅を借り受け、妻子とともに同所に 転居し、妻との共同生活に復帰した。もっとも、夫は、間もなく庭にプレハブの小屋を建て、自分はそこで寝泊まりをするようになった。
 右女性は昭和51年に夫と離婚したが、その後同女と夫は性関係を結ぶようになった。そして、昭和53年には、夫は、同女への接近と妻からの逃避を兼ねて、前記新築の同女方の一間を賃借し、同所で生活するようになったが、昭和56年以降夫と同女との関係が深まり、同棲関係と見うる状態になった。  ところで、民法770条1項5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者からされた場合であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないというべきである。
 前記事実関係のもとにおいては、夫と妻との婚姻については同号所定の事由があり、夫は有責配偶者というべきであるが、夫と妻との別居期間は、原審の口頭弁論終結時まで8年余であり、双方の年齢や同居期間を考慮すると、別居期間が相当の長期間に及んでいるものということはできず、その他本件離婚請求を認容すべき特段の事情も見当たらないから、本訴請求は、有責配偶者からの請求として、これを棄却すべきものである。
 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は右と異なる見解に立つて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 よって、夫の上告を棄却する。

5 有責配偶者からの離婚請求

 今回のケースで裁判所は、もともと会話が少なく意思疎通が不十分な夫婦で子どもが成人して大学を卒業しているなどの事情があれば別居期間が6年であったとしても有責配偶者からの離婚請求が認められるとした一方で、たとえ夫婦の別居期間8年であったとしても、夫婦の年齢や26年に及ぶ同居期間に比べると長期間とは言えない場合には、有責配偶者からの離婚請求は認められないとしました。
 有責配偶者からの離婚請求が認められるかどうかは、ケースバイケースなので注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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