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兄の学費が高い事件

こんにちは。

 波平が亡くなったときに、すでにサザエが波平から2000万円のお小遣いをもらっていたとすると、ワカメが「おねえちゃんだけ、ずるい」と言いたくなる気持ちはわかりますよね。このような問題が起きたときに、民法では特別受益の持ち戻しにより、相続人間で不公平をなくすようにしています。

 今日は、父が支払った学費に差がある場合に問題となった「兄の学費が高い事件」(大阪高決平成19年12月6日家月60巻9号89頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 父親が死亡して、その長男、四女、五女の3人が相続人となりました。その遺産の分割方法をめぐって争いが生じ、京都地方裁判所は、株式を3人に分割し、土地建物を長男が取得した上で、四女に148万円、五女に537万円の支払いを命じました。しかし、四女は、その分配方法に納得できず、即時抗告をしました。

2 四女の主張

 お兄ちゃんと私とでは、教育費に歴然たる差があります。だって、お兄ちゃんは中学校と私立大学を通じて莫大な学費の援助や生活費の援助を受けてたじゃない。これは特別の受益として、遺産から差し引くべきです。また、お兄ちゃんがお父さんの農業を手伝って、寄与分を遺産の30%としていますが、お兄ちゃんはお父さんを手伝ったことはなく、あるとすれば、収穫期で学校の合間に手伝ったに過ぎません。

3 長男の主張

 私は父が死亡するまで、自宅で父を介護するなど、遺産の形成維持に多大な貢献をしました。また、学費も親が子どもを扶養するために出したもので、決して親が無理して支払ったものではないので、特別の受益にはあたらないと思います。

4 大阪高等裁判所の決定

 被相続人の子供らが、大学や師範学校等、当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で、子供の個人差その他の事情により、公立・私立等に分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般であり、仮に、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべきである。また、寄与分の評価も遺産の15%とするのが相当である。
 よって、長男の寄与分を1404万円とし、建物の取得の代償として、四女に273万円、五女に284万円を支払え。

5 学費が特別の受益になる場合

 今回のケースで裁判所は、親の財産やその学歴などを元に、親が子どもに対して妥当な教育費を支出していた場合には特別受益にはならないとしました。一般的に、単に大学が国公立か私立かという程度では学費に差はないとされていますが、海外留学で6000万円以上の学費がかかった兄と、国内の大学で400万円の学費がかかった妹との間では、兄に特別受益が認められる可能性がありますので、十分に注意する必要があるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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