見出し画像

こんにちは。

 いきなり「国税局だ」と手帳を見せて、部屋を捜索するシーンを見ていると、コナン君の犯人推理よりもスリリングに感じてしまいます(脱税が発覚したときの喪失感がハンパない)。

 過去には、税務署による調査に対して、事前に通知してくれないと困ると拒否して検査拒否の罪で逮捕された人が、最高裁まで無罪を争った事件もあります。一体、法律上どのようなことが問題となったのかを考える上で、「川崎民商事件」(最大判昭和47年11月22日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 食肉販売業の旦那は、妻と協力しながらお店を経営してきました。旦那は、川崎民主商工会の役員で財政を担当していたこともありました。ある日、川崎税務署が、川崎民主商工会の確定申告について、申告額が少ないのではないかとの疑念を抱き、所得税法63条(現在の国税通則法74条)に基づいて国税局員が帳簿書類などの検査をしようとしたところ、食肉販売業の旦那は事前の通知がなければ調査には応じられないと拒否しました。すると、国税局員は、旦那を検査拒否の罪で在宅起訴しました。

2 検察側の主張

 被告人は昭和38年10月3日、自宅店舗において川崎税務署職員3名が昭和37年分所得税確定申告調査のため帳簿書類等の検査をしようとしたときに、「何回来るんだ、だめだ、だめだ、事前通知がなければ調査に応じられない」と、大声をあげたり又あちらへ行こうと税務署職員の左上膊部を引張るなどして検査を拒んだのだ。よって、旧所得税法70条では「検査を拒み、妨げ、または忌避した者」や「質問に対して答えなかった者」に対して1年以下の懲役、または20万円以下の罰金に処するとあるので、検査拒否の罪に問うものである。

3 被告人の主張

 今回の調査は外形上は税務調査であるが、私のような零細企業に対してニュースカメラマンや私服の警官がいたことから、その実態は民主商工会の組織破壊をたくらむ弾圧であり、もはや税務行政とは無縁で違法、不当な権力行使であり、調査権の濫用である。
 そもそも、旧所得税法63条が令状なしの質問検査権を認めているのは、憲法第35条の令状主義と憲法第38条の黙秘権の保障に違反しているのではないか。だから私は無罪である。

4 最高裁判所大法廷判決

 旧所得税法70条10号、63条の規定が裁判所の令状なくして強制的に検査することを認めているのは違憲であるかについては、たしかに、旧所得税法70条10号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法63条所定の収税官吏による帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法63条所定の収税官吏の検査は、もっぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を 収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない。
 今回の手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、旧所得税法70条10号、63条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといって、これを憲法35条の法意に反するものとすることはできない。
 憲法38条1項は、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものである。その保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、等しく及ぶものと解するのを相当とする。
 しかし、収税官吏による検査はそのような手続ではないので、検査、質問の規定そのものが憲法38条1項に違反しない。
 よって、被告人の上告を棄却する。

5 行政調査と犯罪捜査

 今回のケースで裁判所は、税務調査に関する規定が、所得税の公平確実な徴収のためのものであって、刑事責任の追及のためのものではないという理由で、憲法に違反しないと判断しました。
 税務調査には強制調査と任意調査があり、強制調査には裁判官の令状が必要となっています。ただし、任意調査といえども、税務署の職員からの質問に答えなかったり、理由なく帳簿書類の提出を拒否したりすれば、罰則が与えられますので、十分に注意する必要があるでしょう。

では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?