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異色の東大教授による財産形成

こんにちは。

今日は、本多静六『私の財産告白』の著書を読んで、その生き方が面白かったので、いくつかのエピソードを紹介してみたいと思います。

 本多静六さんは、ドイツで博士号を取得し、東京大学教授でありながら、給料の4分の1貯金を実行して、40歳にしてFIRE生活ができるようになりましたが、60歳の定年で全財産を公共事業に寄付し、さらに終戦後に国から資金を没収されほぼ無一文になるも、倹約生活を続けながら85歳までに370冊の本を執筆した人です。

1 85歳でも衰えず進歩している

 まず、本書の序文に次のような記述がありました。

私は本年85歳になる。自分でもまず相当な年齢と思う。しかし、「人生即努力・努力即幸福」といった新人生観に生きる私は、肉体的にも、精神的にも、なんら衰えを感ずることなく、日に新たに、日に日に新たに、ますますハリ切って、毎日を働学併進に送り迎えている。

9頁

 安泰な老後とは真逆の、日々進歩していく姿が目に浮かんできますね。将来、85歳になったときの自分に向けて、とても励みになるメッセージでした。

2 ミュンヘン大学ブレンタノ博士との出会い

 本多さんが、ミュンヘン大学から日本に帰るときに、師匠のブレンタノ先生から、「いつまでも貧乏を続けるんじゃない。学者も財産を気づかないと、自由を制限され、やりたくもない仕事をせざるを得なくなるぞ」と言われたことがきっかけで、資産形成を実行することになったそうな。

 さらに、興味深いのはブレンタノ博士の未来予測だ。

いまの日本ではー明治20年代ー第一に幹線鉄道と安い土地や山林に投資するがよい。幹線鉄道は将来支線の伸びるごとに利益を増すことになろうし、また現在交通不便な山奥になる山林は、世の進歩と共に、鉄道や国道県道が拓けて、都会地に近い山林と同じ価格になるに相違ない。現にドイツの富豪貴族の多くは、決して勤倹貯蓄ばかりでその富を得たものではない。こうした投資法によって国家社会の発展の大勢を利用したものである。

25頁

 国の発展の勢いに乗ることが大事だという視点が素晴らしいですね。

3 人は必ず貧乏を経験すべきだ

 私も「人は、一生において一度は貧乏によって心が苦しくなる経験をすべきだ」という持論があったので、次のフレーズにはとても親近感が湧いた。

子供のときに、若い頃に贅沢に育った人は必ず貧乏する。その反対に、早く貧乏を体験した人は必ずあとがよくなる。つまり、人間は一生のうちに、早かれ、おそかれ、一度は貧乏生活を通り越さねばならぬのである。だから、どうせ一度は通る貧乏なら、できるだけ1日でも早くこれを通り越すようにしたい。

26頁

4 同僚からの辞職勧告を家計簿で乗り切る

 大学で学士会館を建てることになり、教授たちがそれぞれ寄付をするという話になったそうな。ところが、本多が1000円という当時では大金の寄付を申し出たことが問題となり、同僚たちが「大学教授のくせに1000円だと?!給料だけではそんなに貯まらない。何かけしからんことをしているに違いない」といって、辞職勧告状を研究室に持参してきたそうな。これに対して、本多さんは同僚2人を無理やり家に引き連れて、家計簿などを目の前に積み上げて、つぎのような話をしました。

ここで支出がいくら、ここで旅費の残額がいくら、ここで貯金が何ほどと、どこを開けても、どの年の決算をみても、一目瞭然しかも、わが女房を褒めるでないが、堂々たる男まさりの達筆でしたためられているーそのときの貯金総額がいくらいくらといえば、そのときの日附の貯金残高を合計すると、いちいちピタリと符合する。
 これには、2人もドギモを抜かれたかたちで参ってしまった。「いやア、これは」と両手をついてしまった。

39頁

 やはり、家計簿をつけるなど、お金の管理はキッチリとしておくべきことがわかりますね。

5 不正の原因はお金

 世の中から犯罪がなくなることはないが、その原因を突き詰めると、多くの場合にお金の問題に行き当たる。同じようなことを本多さんも次のように述べていた。

今日の世間でも、いろいろな不正を犯すものは、いずれもその多くが生活の奢りからきている。奢りのために金が不足し、借金が増え、とどのつまり収賄、詐欺、横領、使い込みといったことに陥っている。本当に正直な生活の行き詰りから悪事に走っているものはきわめて少ないと私はみる。正直に働き、正直に貯め、節倹につとめて、生活的に多少とも余裕を作ってきた人は、そうした悪事に走ることは絶対にない。

71頁

6 資産とお金の貸し借りのトラブル

 資産を築くようになると、それを嗅ぎつけた人がわんさかとあふれかえるようになる。当然、お金を貸して欲しいという人とトラブルになることが多くなる。とくに親戚や友達から金を貸して欲しいと言われると、温情もあってお金を貸してしまいがちだが、一度借りた人は二度三度借りるという習性があるのも事実だ。この点について、本多さんは次のように述べている。

少し金ができてくるとだれにも必ずこの貸借のトラブルが起きてくる。こうした際、何人も心を鬼にして最初から一切融通に応じない方針を厳守するよう、私は私の体験からみなさんにおすすめする。またそれが本当にお互いのためでもある。

74頁

7 副業でお金を作り出す

 戦後という時代において、本業の給料だけでは資産形成が難しいため、副業で所得を増やすべきだと説いているところに驚いた。しかも、本多さんは修行のように毎日毎日ひたすら文章を書きまくっていたのだ。

私のアルバイトは、「1日に1頁」の文章執筆の「行」によって始められた。それは満25歳の9月から実行に入ったことで、私は4分の1貯金の開始と共に、1日1頁分以上の文章、それも著述原稿として印刷価値のあるものを毎日必ず書きつづけ、第1期目標50歳に及ぼうというのであった。これには、貯金と同じようにあくまでも忍耐と継続が大切で、最初はずいぶん苦しかったが、断然やり抜いた。1週間旅行すると7頁分も溜まる。あとの1週間は1日2頁分宛にして取りかえさなければならぬ。年末俗事に煩わされて時間を食ってしまうと、翌年からは元旦早朝に学校へ出掛けていって、10枚、20枚の書き溜めさえやった。次第になれ、だんだん面白く、仕舞いには、長期旅行をするのに、いつも繰り上げ執筆ですまされるようになった。
 ところが、42歳のとき、腸チフスにかかって赤十字病院へ入り、39日間この「行」を休まされてしまったので、それを取りかえすために1日3頁分宛に改め、退院の翌日から再び馬力をかけた。そうしてこれがいつしか新しい習いとなり、1日3頁分、すなわち1カ年1000頁というのが、知らず識らずの中に第2の取り決めになってしまった。もう第一期限の50はとうに過ぎ去ったが、85のいまもってこのアルバイトをつづけているので、つまらぬ本も多いながら、中小370冊余の著書を生み出すことができたのである。

41-42頁

 この本多さんの習慣は、積もり積もって自らの資産になったというところが本当に興味深い。時代が変われど、ブログやYoutubeなど、毎日毎日続けることが資産形成の第一歩だという普遍的な事柄を教えてくれているのだ。

8 お金という現実を見よ

 日本人はお金について学ばないと言われているが、学校では教えてくれないばかりか、財産を築いた人も自分の自慢話になるのであまりお金の話をしてくれないことが多い。そこで本多さんは、あえて私の財産告白という著書で、70年前から私たちにお金の話をしてくれていたのだ。この著書を通じて、本多さんとの対話ができて本当に幸せだ。

金を馬鹿にするものは、金に馬鹿にされる。これが、世の中のいつわらぬ実情である。財産を無視するものは、財産権を認める射界に無視される。これが世の中のいつわらぬ現実である。

87頁


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