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常識がないから婚約破棄事件

こんにちは。 

 世の中には、電話1本で婚約破棄されたという話がよくあるようなのですが、そんなときには裁判で慰謝料を取れる可能性があるものの、お金を払ってもそんな人と関わりたくないという心理が大きく働くようですね。

 そこで、今日は実際に電話1本で婚約破棄されたことで裁判となった「常識がないから婚約破棄事件」(徳島地判昭和57年6月21日判例タイムズ478号112頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 社会福祉法人に勤務していた女性は、会社員の男性とお見合いをし、2月20日に結納を取り交わし、5月5日に結婚式を挙げることになりました。
 女性は、披露宴の準備を進め、嫁入り道具の購入、ハワイへの新婚旅行の準備などしていまいた。ところが、男性と一緒に暮らしている実母が婚約を破棄するような強硬な意見を述べていたこともあって、男性は女性に対して、電話で一方的に婚約破棄を通告しました。
 そのため女性は、婚約が不当に破棄されたとして男性とその母に対して、895万円の損害賠償を請求しました。

2 女性側の主張

 私は彼と婚約してからは、彼が要望する勉強机やズボンプレッサー、テレビ、自動車を購入し、勤務先を退職し、披露宴の招待状を発送して新婚旅行の準備も進めていました。なのに突然、電話1本で結婚をなかったものにされたんです。あの母親も、私に好感を抱いておらず、私の欠点をあれこれ指摘して結婚に反対だと、優柔不断な彼に伝えていました。彼の判断に母親の働きかけが大きな影響力があったと言えます。なので、2人で連帯して共同不法行為を理由とする損害賠償義務を負うはずです。

3 男性とその母親の主張

 私たちの婚約破棄には、正当な理由があるんや。だいたい、あの娘は常識に欠けていて、家庭のしつけがなっとらん。ルーズで責任感に乏しいだけでなく、体型があまりにも細い。約束の時刻に遅れたり、身なりにも無頓着で、極めつけが料理が劇的に下手。せやから、息子も次第に愛情を失っとったんや。これは婚約破棄の正当な理由となるので、損害賠償責任を負わないはずや。

4 徳島地方裁判所の判決

 単に将来において夫婦たらんとする合意が存するのみならず、その合意が婚約成立に基づく慣行上の儀式のほか親戚、知人への紹介、結婚披露宴への招待状の発送などという一種の身分の公示行為をすら伴って、各当事者に実質的、形式的な婚姻意思の成立したことを客観的に認めしめるに十分なものがある場合には、同棲、性的交渉その他事実婚類似の関係が何も存しなかったとしても、その不履行(破棄)自体が、通常、相手方によって取得した生活上の利益に対する故意による不法行為を構成すると解するのが相当である。
 結納のとりかわしがなされた後も男性による婚約破棄の意思表示がなされるまさにその前日まで、男性の真意が如何ともあれ、嫁入道具として持参すべき物品に関する要求を提出したり、その他、婚姻意思の成立していることを誰もが認めるであろうような態度で振る舞つた者が、相手方の性格一般をあげつらったり、いわんやその容姿に関する不満をことあげしても、これをもつて婚約破棄の正当事由となし得るものとは到底解し得られない。
 男性は母親の働きかけを受けながらもむしろ優柔不断なものであつて、婚約破棄の意思表示をした当日朝に至るまでの間は結婚式を実際にとりやめるまでの決意には至つておらず、仮に母親がかくまで反対の意思を強調することがなかったならば、婚約を破棄することなく婚姻していたものというべきである。かかる場合、母親の行為は男性の婚約破棄の決意を誘発せしめ、その決意の形成に寄与したものというのが相当であり、ひつきようこれらは男性による婚約破棄と相当因果関係を有すると解すべきである。
 よって、男性と母親は連帯して女性に対して約779万円を支払え。

5 婚約破棄と損害賠償

 今回のケースで裁判所は、母親が息子に対して婚約相手の欠点を述べて婚約破棄に至らしめた場合には、息子と母親が共同不法行為責任を負い、嫁入り道具の購入費用、勤務先を退職しなければ得られたであろう給料(逸失利益)、慰謝料を合わせて約779万円の支払を命じました。

 婚約破棄が問題となる場面では、相手が浮気をした、職業を偽るなど重大な嘘があったなどの正当な事由がなければ、婚約破棄をした側が損害賠償責任を負うことになっていますので、十分に注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。


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