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使用貸借の地位の引継ぎ事件

こんにちは。

 今日は、使用貸借の地位の引継ぎが問題となった東京地判平成5年9月14日(判例タイムズ870号208頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 父である高橋重雄は、自身の子の高橋光雄に、その所有する土地を贈与したが、そのまま重雄が無償で土地を借りて使用していました。その後、父の重雄と母のサトは、その土地に建物を建て、光雄と同居していました。その後、父母が死亡し、遺言で光雄の弟である高橋準一に建物の使用貸借権を贈与しました。これに対して光雄が、使用貸借契約は借主の重雄とサトが生きている間に限られると主張した第一事件では、兄の光雄が弟の準一に対して建物の収去と土地の明渡しを求めました。
 また、重雄が所有していた別の土地が、光雄が経営する有限会社重光製作所に無償で貸し付けられ、そこに工場が建てられていました。その後、父母が死亡し、遺言に基づいてその土地について準一が所有権を取得しました。準一が重光製作所に対して工場の収去と土地の明渡しを求めた第二事件では、光雄は重雄から使用貸借権を承継したと主張しました。

2 東京地方裁判所の判決

 東京地方裁判所は次のように2つの事件を併合審判しました。
 民法上、使用貸借契約は、借主の死亡によってその効力を失うとの規定が存する。しかしながら、同規定は、使用貸借が無償契約であることを鑑み、貸主が借主との特別な関係に基づいて貸していると見るべき場合が多いことから、当事者の意思を推定して、借主が死亡してもその相続人への権利の承継をさせないことにしたにすぎないものと解される。
 土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情のない限り、建物所有の用途に従ってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにならないというべきである。そして、前認定のとおり、本件各使用貸借契約は、敷地上に建物を所有する目的、あるいは第三者に建物所有させて利用させるために成立したものであり、現在も土地上に建物が存続し、あるいは第三者が建物を所有して土地を利用しているのであるから、建物使用が終了し、あるいは第三者の建物所有の用途が終了したものとは認められないことに加え、重雄及びサトは本件各使用貸借契約上の地位を準一に相続させる旨遺言しており、また、光雄及び準一を含むサトの相続人間では本件土地のうちC部分の敷地に準一の本件使用貸借の権利があることを前提にして遺留分減殺請求をめぐる争いがされてきたことに照らすと、本件各使用貸借契約は、重雄及びサトの死亡によっては終了しないというべきである。
 当該土地の利用状況がその地上の建物を所有してこれを利用している場合には、特段の事情のない限り、当該使用貸借関係の使用目的は建物所有にあるものと解され、しかも本件においては、重雄は本件土地を子である光雄が営む事業のための本件工場建築のために使用させたものと推認されるのであるから、本件土地の使用目的は光雄の経営する企業のための本件工場の所有にあると認められるのであって、他に重光製作所の経営主体がなくなる等の特段の事情がない限り、本件土地の使用貸借契約も本件工場が存続している限りは存続しているものと解するのが相当である。
 よって、第一事件の光雄の請求及び第二事件についての準一の請求は理由がないので、いずれの請求も棄却する。

3 使用貸借の地位の引継ぎ

 今回のケースで裁判所は、建物所有を目的とする土地の使用貸借契約が借主である父母の死亡によって終了するのではなく、建物所有の用途に従ってその使用を終えた時に、土地の返還時期が到来するとしました。
 民法597条3項で借主の死亡により契約関係が終了すると規定されていますが、任意規定のため、契約に期間の定めがなく、親族間で家を建てて住む目的での土地の使用貸借契約をしていたなど、借主の事情を考慮すべき場合には、使用貸借の地位が引き継がれることがあるという点に注意が必要でしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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