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反社会的勢力と信用保証事件

こんにちは。

 今日は、信用保証協会が保証した相手が反社会的勢力だったことが問題となった最判平成28年1月12日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 平成19年6月、日本政府は企業による反社会的勢力との一切の取引関係の遮断を基本原則とする指針を策定しました。銀行は、とある会社から融資の申し込みを受け、審査の結果適当と認め、信用保証協会に信用保証を依頼し、信用保証協会は、その会社と保証委託契約を締結しました。
 平成22年12月、国土交通省関東地方整備局は、警視庁から、代表取締役が暴力団員であるとして、その会社を公共工事から排除するように要請され、指名停止を通知しました。その後、その会社が借金を返せなくなったことから、銀行は信用保証協会に対して保証債務の履行を求めて提訴しました。これに対して、信用保証協会は、その会社が反社会的勢力であることについて錯誤があるので、保証契約は無効であるとして争いました。

2 最高裁判所の判決

 第一審、第二審ともに、信用保証協会の錯誤無効の主張を認めましたが、最高裁判所は次のように、信用保証協会の主張を認めませんでした。

 信用保証協会において主債務者が反社会的勢力でないことを前提として保 証契約を締結し、金融機関において融資を実行したが、その後、主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、信用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして、動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である。
 本件についてこれをみると、銀行及び信用保証協会は、本件各保証契約の締結当時、本件指針等により、反社会的勢力との関係を遮断すべき社会的責任を負っており、本件各保証契約の締結前にA社及びB社が反社会的勢力であることが判明していた場合には、これらが締結されることはなかったと考えられる。しかし、保証契約は、主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが、主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つであって、これが当然に同契約の内容となっているということはできない。そして、銀行は融資を、信用保証協会は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから、主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき、その場合に信用保証協会が保証債務を履行しないこととするのであれば、その旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であった。それにもかかわらず、本件基本契約及び本件各保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると、主債務者が反社会的勢力でないということについては、この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでを銀行及び信用保証協会の双方が前提としていたとはいえない。また、保証契約が締結され融資が実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、既に上記主債務者が融資金を取得している以上、上記社会的責任の見地から、債権者と保証人において、できる限り上記融資金相当額の回収に努めて反社会的勢力との関係の解消を図るべきであるとはいえても、両者間の保証契約について、主債務者が反社会的勢力でないということがその契約の前提又は内容になっているとして当然にその効力が否定されるべきものともいえない。 そうすると、A社及びB社が反社会的勢力でないことという信用保証協会の動機は、それが明示又は黙示に表示されていたとしても、当事者の意思解釈上、これが本件各保証契約の内容となっていたとは認められず、信用保証協会の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。
 以上によれば、信用保証協会の本件各保証契約の意思表示に要素の錯誤があるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、信用保証協会の保証債務の免責の抗弁等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

3 暴力団排除条項

 今回のケースで裁判所は、信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において、信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤はないとしました。
 同じ日に4つの判決が下されて、いずれも主債務者が反社会的勢力でないという信用保証協会の動機が明示または黙示に表示されていたとしても、信用保証協会及び金融機関の意思解釈上、これが保証契約の内容になっていたとは認められないとして、信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤はないとされているので、契約の際には事前に暴力団排除条項などを明記しておく必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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