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こんにちは。

 アパートを借りるときになぜ更新料を払わないといけないのか。もともとは、家賃を低く抑えてくれる大家さんに感謝の意を示すものだ、と理解されてきました。最近では、2年の賃貸借契約を4年に延ばすことで更新料を節約する人が多いと知って驚きましたね。

 さて今日は、賃貸借契約を更新するときに更新料を払うべきかどうかが問題となった「更新料事件」(最判平成23年7月15日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 熊本県出身で京都芸術大学に通う女子大生が、京都市西京区にあるワンルームマンションの1室を、期間1年間、家賃月額3万8000円で借りていました。大学在籍中に、3回にわたって賃貸借契約を合意更新し、そのつど7万6000円の更新料を支払っていました。しかし、平成19年の4回目の更新時に、「賃貸住宅トラブル110番」に相談したところ、更新料を支払う必要はないとアドバイスされたので、更新料を払いませんでした。女子大生は大学卒業後も、しばらくマンションを継続して借りていましたが、数か月後に退去するときに、契約当初に締結した更新料を支払う旨の条項と、定期補修分担金を支払う旨の条項が消費者契約法10条に違反して無効であると主張して、マンションのオーナーに対してすでに支払った更新料と定額補修分担金の合計34万8000円の返還を求めて提訴しました。これに対して、マンションオーナーは女子大生に対して、未払更新料7万6000円の支払を求める反訴を提起しました。

2 女子大生の主張

 なぜこのような更新料を払わないといけないのですか、なぜこの金額なんですか、私のような立場の弱い学生は、その理由を知らされないまま払わされていることが多いと思います。よくよく調べてみると、全国一律に更新料の慣習があるというわけでもありませんでした。しかも更新料は、民法601条に定められた賃料以外の支払義務を課していて、民法の規定よりも賃借人の義務を重くしているので、消費者契約法10条に基づいて、更新料条項は無効となるはずです。

3 マンションオーナーの主張

 賃貸借契約では、1年を経過するごとに、賃貸人に対して更新料として賃料の2か月分を支払わなければならないという条項があり、あなたはこれにサインしたのだから、当然に払わなければならない。
 また月々の家賃は、更新料を含めてトータルで利益が出るように計算したものなので、払ってもらわないと経営が成り立ちません。借地借家法にも更新料に関する規定もありませんし、更新料自体は40年以上にわたって全国的に広範囲にみられ、社会の慣行として認められているので何の問題もありません。企業の中には、賃貸物件について更新料の補助制度が設けられているところもあり、行政においても、生活保護では更新料の扶助がおこなれていたり、裁判所も調停条項や和解条項等で更新料の定めが認められたりしているのではないか。

4 最高裁判所の判決

 賃貸借契約に係る契約書には、女子大生は、契約締結時に、マンションオーナーに対し、建物退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う旨の条項があり、また、賃貸借契約の更新につき、女子大生は、期間満了の60日前までに申し出ることにより、賃貸借契約の更新をすることができる、女子大生は、賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、マンションオーナーに対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない、マンションオーナーは、女子大生の入居期間にかかわりなく、更新料の返還、精算等には応じない旨の条項がある。
 更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。
 消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そして、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。
 また、消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
 更新料条項についてみると、更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは、前に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
 そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件条項は契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また、本件条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。
 よって、女子大生はマンションオーナーに対して7万6000円を支払え。

5 特約で更新料を明記する必要あり

 今回のケースで裁判所は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を定めた条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間などに照らして高額すぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条に該当せず、無効にはならないとしました。
 逆に、契約の中で更新料が明記されていない場合には、たとえ更新料を払わなかったとしても、法定更新に基づいて家を退去しなくてもよいということを知っておくことも重要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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