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スルガ銀行vs日本IBM事件

こんにちは。

 商品を注文するときに、電話やFAXを使って人を相手に作業していた時代から、キルアのカンムルのように、スマホを使って一瞬で注文できる時代になったと感じています。このような便利な仕組みは、システム開発によるものなのですが、このシステム開発をめぐってしばしば裁判に発展するケースがあります。いったい法律上、どのようなことが問題となるのかを考える上で、「スルガ銀行vs日本IBM事件」(東京高判平成25年9月26日金融商事判例1428号16頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 スルガ銀行は、日本IBMに対して、勘定系システムの構築を委託しました。IBMはアメリカの「Corebank」を活用したシステムを提案していたのですが、プロジェクトが二転三転し、開発費が当初予定していた額を大幅に超える事態となりました。すると、スルガ銀行はプロジェクトを一旦白紙に戻すと主張してプロジェクトを中止させ、さらにIBMに対してすでに支払った業務委託料の返還や被った損害をあわせた約115億円の支払を求めて提訴しました。

2 スルガ銀行の主張

 IBMとの間で、約90億円でCorebankを採用してシステムを構築すると契約したにもかかわらず、結局システムを完成させることができなかったので、これは契約違反である。そうであるなら、請負契約の報酬を払う必要はないし、すでに支払った報酬の60億円を返して欲しい。
 IBMは、我々が最大限協力したにもかかわらず、Corebankという無謀な選択をしたことで今回のプロジェクトのマネジメントに失敗したので、プロジェクトが成功した場合に得られたはずの約116億円を支払うべきである。

3 IBMの主張

 システム開発契約では、フェーズごとに個別契約を結ぶことが前提となっているので、すでに受け取った報酬を返す必要はなく、むしろ個別契約に含まれない追加作業を大量に行っていたので、逆にスルガ銀行が追加報酬を払うべきである。
 また、我々がスルガ銀行に業務のスリム化を強く要望したにもかかわらず、非協力的な態度を取り、その結果、開発範囲が当初の予定よりもはるかに多くなり、スケジュールの遅延や開発費用が膨大となったのである。仕方なく、開発費用の増加を説明し、個別契約の締結を申し込むと、スルガ銀行がこれを不合理に拒絶し、今回のプロジェクトが頓挫することになったので、その責任はスルガ銀行側にあるはずだ。
 しかもシステム設計書などは再利用可能なので、損害額はもっと小額のはずだ。

4 東京高等裁判所の判決

 IBMは、今回のシステム開発を担うベンダーとして、スルガ銀行に対し、システム開発過程において、適宜得られた情報を集約・分析して、ベンダーとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築を進め、ユーザーであるスルガ銀行に必要な説明を行い、その了解を得ながら、適宜必要とされる修正、調整等を行いつつ、システム完成に向けた作業を行うことを適切に行うべき義務、つまりプロジェクト・マネジメント義務を負うものというべきである。
 また、プロジェクト・マネジメント義務の具体的な内容は、契約文言等から一義的に定まるものではなく、システム開発の遂行過程における状況に応じて変化しつつ定まるものといえる。すなわち、システム開発は必ずしも当初の想定どおり進むとは限らず、当初の想定とは異なる要因が生じる等の状況の変化が明らかとなり、想定していた開発費用、開発スコープ、開発期間等について相当程度の修正を要すること、更にはその修正内容がユーザーの開発目的等に照らして許容限度を超える事態が生じることもあるから、ベンダーとしては、そのような局面に応じて、ユーザーのシステム開発に伴うメリット、リスク等を考慮し、適時適切に、開発状況の分析、開発計画の変更の要否とその内容、更には開発計画の中止の要否とその影響等についても説明することが求められ、そのような説明義務を負うものというべきである。  
 IBMは、スルガ銀行と最終合意を締結し、システム開発を推進する方針を選択する以上、スルガ銀行に対し、ベンダーとしての知識・経験、システムに関する状況の分析等に基づき、開発費用、開発スコープ及び開発期間のいずれか、あるいはその全部を抜本的に見直す必要があることについて説明し、適切な見直しを行わなければ、システム開発を進めることができないこと、その結果、従来の投入費用、更には今後の費用が無駄になることがあることを具体的に説明し、ユーザーであるスルガ銀行の適切な判断を促す義務があった。また、「最終合意書」は、このような局面において締結されたものであるから、IBMは、ベンダーとして、この段階以降のシステム開発の推進を図り、開発進行上の危機を回避するための適時適切な説明と提言をし、仮に回避し得ない場合にはシステム開発の中止をも提言する義務があったというべきである。
 よって、IBMは、スルガ銀行に対して約42億円を支払え。

5 プロジェクト中止の提言義務

 今回のケースで裁判所は、システム開発契約において想定外の事態が発生して、プロジェクトの見直しが必要になったときには、ベンダー側から、適時適切な説明をする必要があり、場合によってはプロジェクトの中止をも提言しなければならないとしました。
 ビックプロジェクトでは、報酬も大きいことから途中で中止することなんてあり得ないという考えもありますが、裁判所としてはそのような場合でも損害をできるだけ軽減するようにという考えなのでしょうね。

 では、今日はこの辺で、また。


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