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駅は水族館

朝の通勤ラッシュ、駅には原色がない。やっと見つけたと思えば朝帰りの大学生くらい。黒い魚群のようなものだ。所狭しと動き回るが絶対にぶつかることはない。柔軟に駅の構内を歩く魚たちは餌を求めて働く。きっとどこかで、ガラス越しに魚たちを見ている奴がいるはずだ。そうでなくては納得いかない。見てくれていないのならば、魚群が魚群である必要がなくなる。黒い魚群が丸になったり三角になったりする様を楽しんでくれる奴らがいるから、魚たちは生きていけるのだ。動き回っていると、ときどき群れで動かない大きな魚と出くわす。彼らは大抵真っ赤である。真っ赤であることを誇るかのように胸を張っている。黒い魚はそれを、蔑むような羨ましいような感覚を抱きながら横目で見る。たまに黒から赤に色が変わる魚もいる。鮭と呼ばれている。川から戻った途端に以前とは打って変わるのだ。皆んな一度でも川に行った方が良いよ、と口癖のように言い出す。黒い魚たちは遠くでそれを聞きながら、今日も群れをなして動き回る。

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