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幼馴染には、届かない。9





「んなっ...なんでお前がここにいるんだよ。」



生徒数とクラス数の都合上、この修学旅行では
2クラスごとに宿泊場所が近くも異なる。

1組と2組→旅館A
3組と4組→旅館B
5組と6組→旅館C...といった感じで。

だから、6組の俺と 和と同じ1組の央子は
こんなとこで会うはずがない...んだが...?



『やっ、やぁー!〇〇くん!
こんなとこで、またまた奇遇やなぁ?』



紛れもなく
俺の目に映ったそれは正源司央子 本人だった。



『あ...あぁ
ごめん。つい...癖で話しかけてしまったわ。』

『まぁ 俺のことは気にせんで
ははっ...な?ゆっくり温泉つかっとって。』



「......」



ぐっ...
明らかに"この前のを引きずってますよ"感。

そういう態度取られたら
この場にいるの気まずくなるだろうが...



「な、なぁ...?」



それで だった。
自分の方から、央子に話しかけたのは。



『ん...ん?』

『〇〇くん、今 俺に話しかけた?』



「...」



ちっ、なんだこいつ。



「ん。そうだけど?」



『なっ...ご、ご用件は?』



「......はぁ」

「この間の...本屋の時のこと。悪かったよ。」

「あの時は
さすがに色々と強く言い過ぎた。ごめん。」



『へ...?は...あ、あぁ...』

『...はははっ!それはもう全然!
ふふっ そもそもあんなん気にしてへんて〜!』



「......そ。」



嘘こけ、こいつ...



「でさ、央子お前 なんでここいんの?」

「ここ、1組が泊まる旅館じゃないだろ?」



『あ?あぁー!ん!それなぁ?』

『ほら 俺、転校してきたばっかやろ?』

『だから、1組のみんなと同じ旅館の予約
もうできひんかったらしくて。』

『けど、奇跡的にこの旅館1部屋空いてて
そんで俺 ここ泊まることになったんよ。』



「ほー、なるほど。」



『ん。いやぁ ほんまに俺 運よかったわ!』



「...」



『...』



「...」



『...あ、あぁ〜!で、で!』

『その...俺!
〇〇くんに聞きたいことあってんけど...ええ?』



「...ん、んん。なに?」



『飛鳥ちゃん のこと
なにがきっかけでそんな好きになったん?』



「...は?」



『あ、あぁ!いや!
嫌なら、別に答えんでもええんやけど。』


『ただ俺、あそこまで芸能人を...いや、そもそも
他人のことを好きになれた事ないっていうか...』

『なんというか...まぁ...その......』


『よーわからんのよ。
そこまで、他人のことを好きになる感覚。』

『やから これを機会に知りたいなーって。
きっかけとか、教えて欲しいなーと思って...。』



「あぁ...ん、うん。
まぁ何となく、言いたいことはわかった。」

「わかったけど...んー......」



『えっ、え?そんな言いづらいことなん?』



「いや、言いづらいっていうか...
多分 求めてる答えにならないというか...」

「はぁ...
正直、あんま話したくないことなんだけど。」

「今から俺が話すこと
誰にも絶対に言わないって約束な?」



『それはもちろん!絶っ対に誰にも言わん!』



「...わかった。
じゃあ お前のこと信用して話すけど、その...」


「姉ちゃんなんだよ、齋藤飛鳥は。俺の。」



『...は?』

『ごめん。今なんて?』



「だから、姉ちゃんなんだって。」



『んと...うん?齋藤飛鳥ちゃんが?誰の?』



「俺の。」



『......』

『はっ!?はぁぁっ!!!???』

『姉ちゃん?!齋藤飛鳥が!?〇〇くんの!?』



「ばっか!声デカすぎ!」



『はっ!』



口を大きく開け、大声をあげて驚いた央子は
ハッとして、その口を自分の手で塞ぐ。

それから、
やっと少し落ち着いたらしく再び口を開いた。



『ほっ、ほんまのことなん?それ。』



「いや、こんな嘘つく理由も必要もないだろ。」

「てか、まぁ別に?
嘘だと思うんなら それでもいいんだけどさ。」



『あ、や、や!信じる!信じるけど...!』

『...そうかぁ。なるほどな。
だから あん時、〇〇くん 怒ったんか。』



「...ん。」

「で、それがある意味 さっきの質問の答え。」

「自分の家族だから
たとえ他人でも大切で、好きなんだよ。」

「だから、きっかけとかは無い、正直。」



『ははっ...そっか。なるほどな。』


『でも、なんか...ええなぁ、羨ましい。』

『そうやって 自分の家族のこと
自信もって"大切"で"好き"って言えんの。』



「...?そうか?」



『うん。』

『中々 言えることやないと思うよ?』


『特に俺の親なんか...』

『あー......』

『......や!この話はせんでもええか。』

『俺の親の話なんて、大して面白くないし。』



「...?」



今、明らかに意味深な話の断ち方をした央子。

こんな時
もうちょっと、社交性...というか鈍感というか
人の懐にドカドカ入れるような人間なら

それこそ、俺が央子のような性格なら
"いいから話してみ?"とか言えるんだろうが



「あ...そう。」



俺は何も言えず、その言葉をスルーした。



『それより〇〇くん
こんなずっと温泉浸かってて 体 平気なん?』

『のぼせたりとかせぇへんの?』



「ああ、ん。平気。」

「でも もう上がるわ。友達待たせてるし。」



『はははっ そっか。』



「ん。」

「じゃ改めて 姉ちゃんのこと 誰にも言うなよ。」



『うんうん!言わん言わん!絶っ対言わん!』



「繰り返し言うあたり なんか不安なんだよな。」



『な!そんなん言わんといてや。』

『俺、ほんまめちゃくちゃ口堅いから。なっ?』



「......」



そうやって、自分から"口堅い"とか言いだすと
余計に更に不安になってくる。

...が、こいつを信用して話したのは俺。

だから、もしこいつが誰かにバラした時
責任を持つべきなのは俺...か。不本意だけど。



「...ま、いいや。じゃ、また明日?なのか。」



『はははっ ん!また明日な〜!』



そうして、風呂場で央子と別れた。



...


...


...


...



《こちら、黒蜜きなこわらび餅2つでーす。》

《それでは ごゆっくり。》



『あっ!はい!ありがとうございまーす。』

『...それで?和 なんだって?』



《なぎ : たぶん無理》

《なぎ : ごめん》

《なぎ : さっちゃんにもごめんって言っといて》



「あーっと..."たぶん無理"、"ごめん"だってさ。」



修学旅行3日目。
班行動および修学旅行の観光としては最終日。

今日は元々、事前に和(の班)と連絡をとって
1箇所だけ、俺と和と菅原の同中3人組で
一緒に観光地をめぐるはずだった...のだが



『ありゃりゃ...ざーんねん。』



あっちの班で何かちょっとごたついたらしく
その予定がいまバラシになってしまった。

それで、和との待ち合わせ場所だった茶屋で
結局、菅原と 名物のわらび餅を食べることに...



「はぁぁ...なーんでこうなるかね〜」



『...ははっ まあ 元気だしなって!ね?ほら!』

『このおいちーおいちーわらび餅 食べてさ?』



「ん、んん。食べる、食べるけど...」


「はぁ...」



イマイチ気分がのらない、沈んでる感覚。
そのせいで、思わず ため息がもれてしまう。



『...だぁぁ、もー!元気出さないと怒るよ?』



すると、それを聞いた菅原は怒った(?)。



『和のことはさ?仕方ないじゃん?
無理なもんは無理なんだし!』

『和のこと好きなの知ってるから
そりゃあ
会えなくなって落ち込む気持ちはわかるけど』

『だからって
〇〇がずーっとそんな感じだと傷つくな、私。』



「え...あ、あぁ...ん、うん。そう...だよな。」

「ごめん。
さすがにちょっと自分勝手な態度過ぎた。」



『...ほんとに反省してる?』



「うん。反省してる。」



『これからちゃーんといつもの〇〇に戻る?』



「ん。」

「俺の"いつも"がどんなのかはわからんけど
ちゃんと今から菅原との時間を楽しむつもり。」



『...ふふっ じゃあ今回は特別に許したげよう!』

『さ!そーとなったら
ちゃっちゃと わらび餅 たべるよ!』

『これから映画街にも行かなきゃだし!』



「おう。」

「んっ、んん!」



「『うまっ!』」



『ぷっ!はははっ!今めっちゃ同時だったね!』



「ははっ だな。」

「んあ、そういえばなんだけどさ?」



『うん?』



「俺、菅原と前なんか約束してなかったっけ?」



『うん??約束?』

『あ』

『あぁ〜!したじゃん 約束!
この前 放課後 2人で遊びに行った時にさ!』

『私の言うことなんでも聞くってやつで
"お揃いにできるもの買う"って!』



「あーそれだ。そうだ、それそれ。」



『うわぁ〜 私それ完全に忘れてた...』

『昨日
清森寺行った時めっちゃチャンスだったのに...』

『でもまぁ 今日これから...』


『んー...あ〜...でもなぁ〜...
どうしよう、やっぱり変えようかなぁ〜...?』

『...うん!変えよっ!』


『ねねね、やっぱさ
"お揃いのもの買う"じゃないのにしていい?』



「...?ん、んん、内容によるけど?」



『んん、んじゃあ...今から』

『私のこと
"菅原"じゃなくて"咲月"って名前で呼んで?』



「...は?はぁ?」

「別に そんくらいいいけど、なんで今さら?」



『なんで今さら?って、そりゃあさぁ...』


『そもそも、逆に
ずっと"菅原"って呼んでるのおかしくない?』

『"菅原"より"咲月"の方が文字数少ないのに。』



「そう言われたら、まぁ...確かに?」



『でしょっ?』

『あとそれに"咲月"って名前で呼ばれた方が
"菅原"って呼ばれるより、反応しやすいし!』

『じゃっ!そういうことで!はい!』



「ん。じゃあ これからは名前で呼ぶ。」



『うん!』

『...ん?うん。だから はい!』



「...?なに?」



『んなっ...!
はぁぁ...いやいやいや、普通そこはさっ!?』

『"咲月"って
とりあえず1回呼んでみるとこじゃない!?』



「んぇ?え?なんで?」



『くーっ...!ほーんと
つくづく 人の心を理解してないねぇ 君ねぇ!』

『いいから はい!呼ぶの!』



「...咲月?」



『あぁ...うん。ごめん。なんか...違うかも。』

『言わせた感ヤバすぎて。』



「うん、まぁ実際 言わされたし。」



『んー...あー...
じゃあ、もーちょい自然に言ってみて?』

『はい!せーのっ!』



「咲月。」



『......んー』



「なっ...言わせといてそんな感じになるなよ。」

「てか、
その話は一旦置いといて、早く 餅食べろし。」

「俺、もう食べ終わってて
完っ全に今、咲月待ちの状態なんですけど?」



『んっ!今の!今の名前呼びの感じよかった!』

『ね、今のもーいっかい!』



「だぁぁ?もう早く食べろって!」

「どうせ
これから何度も呼ぶことになるんだから!」



『なーっ!ちぇっ!っははは!ん!』

『んーうまうま!』



口を尖らせながらも
笑顔で、わらび餅を再び食べ始めた咲月。


それから、一緒に映画街等を2人で周り
無事、修学旅行3日目を終えると共に


修学旅行が終わった。














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