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俺の知らない転校生 2




「はぁ......」



放課後。一日がやっと終わって
1人、学校の屋上でゆっくりため息をついた。

そして、
その場に寝転んで青空を見ながら考える。


"いったい、何が起こっているんだろうか。"


転校生(?)とか、
授業変更のこととか...他にも、まぁいろいろと

今日は朝から変なことばかりだ。


といっても別にそれ自体が変って訳じゃなくて

何故かそれが
元々あったものようになってるのが変で...


例えば、転校生(?)の一ノ瀬 美空。


彼女とは今日初めて会ったはず。初対面だ。

しかし、去年のクラス写真をスマホで見ると
確かに彼女が写っていた。しかも俺の隣に。

去年その時に
彼女がいたという記憶が俺には一切ないのに。


...って、その事を友達に言ったら
〈なに?記憶喪失?〉って言われて笑われた。

どうやら、友達の記憶には彼女がいたらしい。

それから他のクラスのやつにも聞いてみたが、
全員、彼女に関して何かしらの記憶があった。


で、そうなってくると、
変なのは俺ってことになってくるわけで...



「でもなぁ...」



自分が"記憶喪失になってるな"みたいな感覚。

"何かあの時のこと...よく思い出せないなー"
って感覚は今のところ全くないのだ。

去年のことだって、まぁ鮮明に思い出せるし。

意識も正常、普通に元気。...なはず?


一応、夢か何かだと思って頬ビンタ5回した。
...普通にただ痛かっただけだった。

やっぱり、何度考えてみても
俺におかしいとこは今のとこ1個もない。


いや...むしろ、俺だけおかしいとこがないから
みんながおかしく見えてんのか?



「...はぁ?...はははっ」



考えてるうちに、自分で自分が何考えてんのかいよいよよくわかんなくなってきた。



「はぁーあ...」



変なこと考えずにもうさっさと家に帰ろ。

放課後、学校でやる事もないわけだし。
屋上にいるのがバレたら先生には怒られるし。


そう思って、起き上がった時だった。



『あれっ?どうしたの?〇〇くん。』



屋上に転校生(?)の一ノ瀬 美空が来たのは。

しかも
やっぱ馴れ馴れしい感じでそう言いながら。

俺からしてみれば今日が初対面なのに。



『こんなとこでなにしてたの?』



そして、彼女はわざわざ隣にしゃがみこんだ。



「別に...特になんも?」



『へ〜、そうなんだ?』


『...美空はてっきり、美空のこと考えてると思ってたんだけどなぁ〜?』



「...はぁ?」



急になにを言い出すんだ、こいつは。

という思いで彼女の方を向くと
彼女はニヤッと笑いながら、言葉を続ける。



『だってさ?
多分、この星の中で〇〇君だけなんだよ?』

『美空のこと、"美空"とか
"美空ちゃん"って呼んでくれないの。』

『...他のみんなはちゃんと成功したのに。』



「成功...?なにが?」



『なにがって...洗脳?』



「洗脳...」



『そう!今日の朝のことなんだけどね?美空、この星の人達のこと洗脳しちゃったんだ〜。』

『記憶をちょこーっと書き換えて、美空を"この星で生まれ育った美少女"ってことにしたの!』



「......?えっと...」



まずい。急に来たと思ったらなんなんだ。
なにを言ってるのかさっぱりわからん。

っていうか、美少女て...

自己肯定感高すぎだろ
...まぁ、可愛いっちゃ可愛いんだけども。



「それで、結局のところ何なの?」



『えっ?
あぁ〜!そういやまだ言ってなかったよね!』


『実は美空ね、宇宙人なの!』

『遠い星から
この星を侵略するためにやってきたんだ〜!』



「......は、はぁ...?えーっと...」

「あの......ごめ、ちょーっと話が...」



ちょっとさっきから
マジでこいつの話が頭に入ってこない。

洗脳?宇宙人?地球を侵略?......はぁ?
飛躍しすぎだろそんな話。本当にこれ現実か?

ってか
そもそも宇宙人なんているわけないだろうに。



『えへへへっ、まぁそうだよね!』

『だって、そんなんだから
○○くん 美空の洗脳にかかってないんだもん。』



「...?っていうと...?どゆこと?」



『んー...ま、簡単に言うと〜...』

『宇宙人とか幽霊とかそういうものぜーんぶ!
〇〇くんって少しも信じたことないでしょ?』



「......まぁ、それは...」



確かに。
俺は"そういうもの"を信じたことは無い。

だって、この目で1度も見た事ないから。

テレビとかのも、どうせ全部ヤラセだろうし。

そもそも、自分が見たことのないものを
他人の言葉で信じてる方がおかしいと思うし。



『でも、普通ならね?みんな心のどこかで信じてるんだよ?そういうのが"いる"ってこと。』

『口では信じてないって言う人もみーんな!』

『だから美空は
その深層心理を使って洗脳をかけたのに...』



「根本から本当にそういうのを信じてなかった俺は、その洗脳にかからなかったと...」



『そう!そーゆーこと!』



「......」

「へぇー...」



なんでだろう。ここまで説明されても
ぜんっぜん、"なるほど...!"とは思えない。

むしろ徹頭徹尾、終始意味不。

洗脳とかなんとか言ってたさっきの話ですら
俺はまだ受け入れられてないし。


"ここはあの世で、あなたは死んだんです!"


って言われた方がまだ納得できる。

...ごめん。それはそれで嘘。



『へへへっ!わかってたんだけどさー
今の話しても随分反応薄いよね?〇〇くん。』


『たとえ信じてなくたって、"自分が宇宙人だって"、"君以外を全員洗脳した"なんて言ってる子が目の前にいたらさぁ、少しは驚かない?』



「あぁ......?まぁ...」



いや...これでも一応結構驚いてはいる。
けど、ただマジで理解が追いついてないだけ。

っていうか違うわ。
俺の理解が追いついてないんじゃなくて




そもそも、こいつの話に説得力がないんだ。




『ほら、目の前に宇宙人がいるんだよ?』



ほら?
宇宙人だって言う割に普通に日本語喋ってるし



『こんなに可愛い宇宙人、中々いないんだよ?』



宇宙人だって言う割に
どう見ても見た目がただの女子高生だし。



『おーい?あれ?なんでボーッとしてるの?』



宇宙人だって言う割に
宇宙人だっていう証拠が何ひとつない。


となるときっと、さっきの洗脳とかの話も...

どうにかして
それっぽく見せてるだけなんだろうな。



「...はぁ」



そう思ったら、途端にバカバカしく思えてきて
ドッと疲れが押し寄せてきた。

こんな変で信憑性もない話を
今までどうにか理解しようとしてたと思うと...



「......帰ろ。」



立ち上がって、軽く砂とかのゴミを払う。



『えっ、えっ?』


『ねぇねぇ?
もしかして"帰ろ"って言った?言ったよね?』



彼女はしゃがんだまま、俺に顔を向けて聞く。



「ん。言ったけど?」



そう答えると、彼女は勢いよく立ち上がった。



『え?なんで?』

『美空、さっき言ったよね?美空は宇宙人で
この地球を侵略にしにきたって。』

『みんなのことも洗脳してるって。』



「うん。で
その洗脳は俺だけがかかってないんでしょ?」

「聞いてた聞いてた、全部聞いてた。」



『え、じゃあ、なんで帰ろうとしちゃうの?』

『友達や地球のみんなのこと助けようだとか
美空から地球を守ろうとか思わないわけ?』



「んー...。...まぁ、別にって感じ。」

「そもそも
守るたってどうすりゃいいか分かんないし。」

「...っていうかそれ。侵略だなんだって言ってる側が言うことじゃなくね?」

「地球を侵略しにきた宇宙人って設定なら
そういうとこはちゃんと守った方いいよ。」



そう言うと、そいつは唇をツンと尖らせながら



『もぅ!ほんとに宇宙人なのにぃ〜〜!!』



なんて、大声でわめきだす。

そんな彼女をほっといて
俺はすぐ家に帰るために昇降口へ向かった。

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