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夏休みな話 2日目 午後






《スキッと爽やか!青春の味!》
《青春レモンスカッシュ!新発売!!》



通学中の電車のビジョンに映る、飲料の広告。



《夢を  もう一度 見ないか   叶う わけが......》



駅前の大型ビジョンに映っていた、MV広告。



《之木坂46 山下美月 休業を発表》



ごく最近、SNSで一時トレンド1位になってた
グループ名と名前。

そして、記事に使われていた見出し画像。


......どおりで。
どこかで見たことがある気がしたわけだ。


"山下美月"

今やその名前と顔を見聞きして
全く知らない...という人の方が少ないだろう。


春元康プロデュースのアイドル
NSH48の公式ライバル、『之木坂46』

そんな今も尚ときめいている
国民的アイドルの現センター的存在であり
雑誌やCM、ドラマに引っ張りだこのその人。


その人とまさに今




美月 : 大学生ってさ、今なに流行ってるの?



〇〇 : えー...今ですか?今...今か......




同じ空間で、何故か普通に喋っていた。

いったいなぜこんなことになっているのか
時は少しだけ遡る...



っても、ほんと少しだけ。経緯を簡潔に。



俺が不審者でもストーカーでもなく

旅館のただのバイトで
本当に部屋を掃除しに来ただけなのだと話すと
意外にもあっさり信じてもらえた。

おそらく、足元に掃除用具等々置いていたから
それを見て判断してくれたのだろう。

それから
『ごめん。君の仕事の邪魔しちゃったね。』
『...あ。着替えるから、一瞬部屋の外出てて?』
って、アイドルらしい笑顔で言われ
そして言われた通りに部屋の外で待っていたら

『はい。入っていいよ。掃除よろしく〜』と
再び、部屋の中へ案内され

で、前の二部屋と同じように掃除をし始めると
山下さんは部屋の外に行くでもなく

部屋の広縁にある低い椅子に座り
俺が掃除しているところを見始め、それで...




〇〇 : 自分の周りだと...筋トレとかですかね?




美月 : へ〜、筋トレ。




〇〇 : はい。ま、大学生の流行りかどうかで言えば...正直ちょっと微妙なとこですけど。




美月 : ふ〜ん。


美月 : じゃあ、君もしてるの?筋トレ。




いつの間にか
俺が山下さんの話し相手になっていた。


...いや
むしろ話し相手になってもらっているのか?


いかんせん説明不足感が否めないだろうが

実際
他に何があった訳じゃないので仕方ない。

とにかく、今この場で事実なのは
俺がトップアイドルと話しているということ。

しかも、部屋に2人きりで。


"2人きり"

それだけでも意識したら緊張してしまうのに
ちゃんと掃除もしなきゃなわけだから

俺は全神経を掃除と会話に集中させた。




〇〇 : まあ...ほんとたまにですけどね。


〇〇 : 運動系のサークルに入ってるわけじゃないんで。運動不足解消目的にって感じで...




美月 : へ〜〜...


美月 : ま...確かに"運動するぞ"って感じ全然しないもんね、君。


美月 : あっ...もちろん、いい意味でだよ?




〇〇 : どんなフォローの仕方ですか、それ。


〇〇 : ...一応言わせてもらいますけど、大学で運動系のサークルとか部活に入らなかっただけで高校の時は普通に運動部でしたからね?




美月 : へ〜。ふふっ、そうなんだ?何部?




〇〇 : 水泳部です。


〇〇 : っていうか、チェックアウトの時間かなり過ぎてると思うんですけど...ゆっくりお喋りなんてしてて良いんですか?




美月 : え?うん。


美月 : だって...あと4日間はこの旅館のこの部屋に泊まることになってるし。


美月 : っていうか、そういうのってスタッフは知ってるものなんじゃないの?




〇〇 : え...




ちょっと小吉さん...
そう言う事は共有しておいてくださいよ...


じゃあ
こんな有名人が泊まる部屋の清掃を俺が今...

そう改めてみるとなんかすごく荷がおも...


......なるほど。


こうして、余計な気を俺に背負わせないために

小吉さんは、きっとあえて
この事を俺に言わなかったのだろう...


...と
今はそうポジティブに考えておくことにした。




〇〇 : あ......そ、そうでしたよね!




その配慮も無事(?)失敗したわけだけど。




美月 : ...?ま、短い間だけどよろしくね。


美月 : 清掃係さん。




〇〇 : はい。よろしくお願いします。




...


...


...




[ただいま〜、夏野君。]




〇〇 : おかえりなさい。小吉さん。


〇〇 : あ、手伝いますよ。




14時過ぎ、どこからか帰ってきた小吉さん。
両手には重たそうな荷物を持っていた。




[ありがとう、助かるよ。]


[僕が外に出てる間、大丈夫だった?]


[まぁ、妻も咲月もいるから
何かあっても大丈夫だったとは思うけど...。]




〇〇 : あぁ、はい。大丈夫でした。


〇〇 : ......あ。いや...




[うん?]




一瞬、"山下美月"のことが頭の中に過ぎる。

特に大事になったわけじゃないけど
一応、小吉さんに言っておいた方がいいか...




〇〇 : その...3号室の方の事なんですけど...




[3号室?あぁ〜、山下様ね。
うちにしてはかなり珍しい連泊のお客さん。]




〇〇 : そうです。それで実は...




客室清掃のために部屋に入ったら
山下さんが寝てて、鉢合わせてしまったこと。

その際に不審者やらストーカーやら疑われたが
ちゃんと説明して疑いを晴らせたこと。

とりあえず、起きた出来事をそのまま話した。




[そっか、そんな事が...ごめんね、夏野君。]


[一応、山下様には客室清掃の都合上、11時以降は部屋を空けとくかDDカードをドアノブにかけておくようお伝えしてたんだけど...]


[ま...後でもう一度、僕から山下様に話しておくよ。それと明日は扉をノックしてから部屋に入るようにしてもらえたら大丈夫かな。]




〇〇 : はい。わかりました。ありがとうございます。




[うん!じゃあ、夜まで仕事頑張ろう。]


[あ、あと夏野君のこと信用してるから大丈夫だとは思うけど...くれぐれも、山下様のことはSNSとかに書かないようにね?]


[多分、夏野君の方が詳しいでしょ?山下様の仕事のこと。おそらく、完全プライベートなお忍びでうちに来てるからさ。]




〇〇 : は、はい。もちろんです。




[よかった。じゃ、よろしくね。]




〇〇 : はい。




小吉さんが去っていくのを見送ったあと
俺は昨日と同じように他の裏仕事へとまわる。


そうして、今日のぶんの仕事が終わってみれば
既に時刻は20時過ぎ。


夜ご飯を食べるために居間へ向かって
台所を見てみると

水場に1人分の洗われた食器が置いてあった。

どうやら
咲月ちゃんはもう夜ご飯を済ませてるらしい。




〇〇 : うまっ...




居間で独り、温めたご飯を食べる。

味はとてつもなく美味しいが
昨日と比べ
1人だからか、どうしても寂しい感じがした。

とはいえ、普段は一人暮らしだから
家で独りで食べることも少なくはないけど。



...明日は誰かと一緒に食べれたらいいな。

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