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おさなななじみ。9




「あのさ、今から花火でもやんない?」




22時。手持ち花火のでかいセットを持って
インターホンを鳴らし、話しかける。




『...いいけど、なんで急に?』




すると、玄関のドアが開いて

Tシャツにハーフパンツという、薄いラフな格好の幼馴染がサンダルを履いて出てきた。




『っていうか、花火って。
ついさっき、さくと見てきたんじゃないの?』




「あぁー、うん。まぁな。」


「でも、打ち上げと手持ちは全然違うし?」


「それに...
遥香に話したいことがあったから。」




ビリッと袋の下を開け、
細長い棒状の手持ち花火を4本取り出す。




「だから、ん。はい。」




その取り出した4本のうち、2本を遥香に渡し




「たまには俺のわがままも聞け。」




『う、うん...』




俺は持ってきたローソクに火をつけた。


遥香と俺は手に持った花火の1本を
ローソクに近づけ、先端を火にかざす。

すると、どちらの花火もシューっと音を立てて
先端から勢い良く、火花が散り始める。




『...で?なに?私に話したいことって。』




「え...あぁ、」




そんな中、持っている花火には目もくれず

遥香は話を急ぐように、
その場でしゃがみながら、そう聞いてきた。




「俺、さくらに告白された。"好きだ"って。」




だから、俺は思ったよりも早く遥香に、
夏祭りでさくらに告白されたことを、そして...




「それで、まぁ...」


「さくらと付き合うことにした。」




さくらと付き合ったことを伝えた。




『......』




「...?.........。......?」




驚かれると思ってたのに、けっこう薄い反応
...っていうか、最早ほぼ無反応。

遥香は何か言ってくるどころか、無言で火花の色が変わった花火をボーッと見つめてる。




「おーい?今の話、聞いてた?」




『......えっ?...あ......う、うん...!』




話を急かしてきた割に
全く話を聞いてなさそうだったから

ちょっと呼びかけてみると
遥香は意識が戻ったようにハッとして頷いた。




『そ、そう...なんだ?
...ふふふっ、よかったね...!おめでと...。』




「ん。まぁ...でも、遥香のおかげだよ。」




『...私のおかげ?』




「そ。」


「ほら、一昨日、泊まりに来た時に"さくらのこと、好きなの?"って聞いてきたじゃん?」


「俺、あの時まで正直さくらのことが好きとかどうとか...考えたことなかったからさ。」


「もしあの日、遥香がそう聞いてこなかったら、さくらを好きになることも、告白されてから付き合うこともなかったと思う。」


「だから...ありがとな、遥香。
俺に、さくらへの答えを出させてくれて。」




『......』




「あ...」




そう言うと、ちょうどタイミングよく
火花の勢いがなくなってって、花火が消える。


その消えた花火を水バケツの中に放り込んで
もう1本の新しい花火に火をつけようとしたら




『...私......』




「...?私...?」




『...そ、そろそろ帰ろっかな...!』


『...今日......もう...なんか眠たいし...!』


『だから...はい、これ...』




遥香は眠たそうに目をぐりぐりと擦りながら
残った1本を俺に渡して言った。




「あ...そう?...じゃ、俺も帰るわ。1人で花火はあれだし、話したかったことは話せたし。」




遥香が使わなかった花火と
自分の使わなかった花火を一緒に袋に入れ

ロウソクの火をフッと吹き消す。




『...じゃ、またね。〇〇。』




「ん。またな。遥香。」




遥香はよほど眠たいのか
急ぐように、少し早歩きで帰っていった。

俺は遥香が家に入っていくまでを見送ったあと
水バケツをもって、そのまま家に帰った。



...


...


...





『あら?遥香、もう帰ってきたの?』




家に帰ると玄関のドアの音が聞こえたのか
リビングから、お母さんの声がした。




『...うん』




私はそう一言だけ返して、階段を上がり

自分の部屋に入ると
明かりもつけずそのままベッドに飛び込んだ。


『......』



"遥香のおかげだよ"

さっきの〇〇の言葉が頭から離れてくれない。


"さくのこと、好きなの?"

言わなければよかったって後悔しても遅い。


でも、きっと遅かれ早かれこうなってたんだ
...って、そう自分に言い聞かせて


私は現実から目を背けるように眠りに落ちた。


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