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歪み愛 9






美空 : やっぱり〇〇だ...!




〇〇 : っ...




聞くからに嬉しそうな声と共に

隣の...俺の部屋のベランダから
こちらを覗くように、顔だけ出している美空。

それを見て

まんまと罠にかかってしまった...って思った。


まさか、美空が今、俺の部屋にいるなんて...


昨日見た夢がフラッシュバックする。


もし、ベランダを伝って美空がこっちにきたら
あの夢が正夢になってしまうかもしれない

だから、早く逃げなきゃ...

...でも、逃げるっていったってどこに?


そう、軽くパニックになりながらもとりあえず
美空を無視して、窓を閉めようとしたら...




美空 : 待って〇〇!謝りたいの!




って、美空に呼び止められて。
それで窓を閉めようとしていた手を止めた。


すると...




美空 : 美空、〇〇に酷い事しちゃったよね...?


美空 : ごめんね?本当にごめん...




その様子を見て、美空は言葉を続け始めた。




美空 : ...でも美空ね?地球で1番、世界の誰よりも〇〇のことが本当に大好きなの!


美空 : だから...〇〇が美空以外の女の子と話したり、連絡したりしてると思うと嫉妬しちゃって!それでつい、あんな事...


美空 : ...だけど、もう絶対にあんな事しないって美空約束するから!


美空 : だから、今からこっちの部屋に来て?それでもう一度美空とちゃんと話そ?




〇〇 : ......




黙って聞いていれば
そんな言葉、今さら信じられるわけが無い。

もし行ったら、場所が俺の部屋に変わるだけで
絶対また前みたいなことになるに決まってる。


そう思って、
無言を貫いたまま、再び窓を閉めようとすると




美空 : ま、待って!


美空 : 美空、本当に何もしないよ?


美空 : これも渡すから...!ね?信じて?




何かが入った白色のレジ袋をベランダ越しに
グッと腕を伸ばして渡そうとしてきた。




美空 : 見える?これ、〇〇のスマホと財布と足につけてたやつの鍵!必要だよね?




〇〇 : ......




確かに必要ではある。
だから、美空の手からその袋を受け取った。


けど、それらを渡されたからって
美空の事が信用出来るようになるかといえば...




〇〇 : ......ごめん。


〇〇 : でも今は美空のこと信じられない。




美空 : そんな...!


美空 : ねぇ、美空...〇〇のためなら何だってするよ?だからお願い!信じて?帰ってきて?


美空 : 美空、〇〇が許してくれるまで何回でもずっと一生ここで謝るから!許してよ!




〇〇 : ......ごめん。




何度も謝る美空を見て、心が苦しくなった。


っていうのも

美空がこうなってしまった原因は
ほぼ確実に、俺のせいだと思っているから。


あの日、あの時、あの場で
思ってもない中途半端な言葉を言わなければ...




〇〇 : ......




美空 : 〇〇?返事して?美空のこと無視しないで!お願いだから美空のこと信じて!




窓をゆっくりと閉める。
すると、美空の声が窓で遮られボヤけていく。

カーテンも閉めれば
美空の声は、ほぼ完全に聞こえなくなった。



ピコ ピコ   ピコ ピコ  ピコピコ



戻ってきたスマホから、通知音が鳴る。

誰から来たものなのか
画面を見て確認せずともすぐに分かった。



おそらく、ベランダで言ってた事と
ほぼ同じ事をそのまま送ってきてるんだろう。

って、そう思いながら一応開いてはみる。


すると、案の定。
メッセージを送ってきていたのは美空だった。

...けど、送られてきている文の内容が途中から
俺が思っていたものとかなり違ってきて




【美空】その部屋の子〇〇のストーカーだよ


【美空】危ないから逃げた方がいいと思う


【美空】写真とか隠れていっぱい撮ってるし


【美空】ほら見て?




そう言われて送られてきた写真は
いつの日か撮った、俺と美空のツーショット。

一見、
どこもおかしい所はなさそうに見える。けど...




【美空】後ろの木のところにいるでしょ?


【美空】あの子




背景の木の後ろの方に
確かに、桜らしき女の子が半身写っていた。




〇〇 : ......




正直、いつもなら
"こんなのただの偶然だろ"って思うし、言う。

そもそも、写真の一部を
加工とかして捏造したって可能性もあるし。



だけど...



あの菓子缶の中に入っていた大量の俺の写真。

あれ見てしまったからか
美空の言っている事が一気に真実味を帯びる。




【美空】だからその子に何かされる前に


【美空】美空のとこにおいで?


【美空】美空とこに来た方が絶対安全だよ?




〇〇 : ......




誰がどの口でそれを...


とはいえ、桜が本当にストーカーだとしたら

桜が今どれだけ優しくても、美空の言う通り
ここにいるのは危険かもしれない。


でも、だからといって
美空のところにいくのも、それはそれで......



どちらを選んでも危険な2択。


しかし、この2択以外に俺に選択肢はない。




それで、結局




本当に何もしないんだよね?【〇〇】




【美空】来てくれるの!?


【美空】うん!絶対に何も酷い事しない!


【美空】安心して?〇〇!




今行くから鍵開けててもらえる?【〇〇】




【美空】もちろん!早くおいで!




俺は桜ではなく、美空の方を選んだ。



美空の方を選んだ理由は単純。


もし、美空が本当に何もしてこなかったら
俺は無事に家に帰れたってことになるわけで

そしたら、桜とも
一応ある程度の距離が置けるようになるから。


この際
桜がストーカーかもって事は、一旦置いといて

まずは自分が早く
元の普通の生活に戻れるようになるべきだと


そう、思ったから......




〇〇 : ......




静かに自分が最初に着ていた服に着替え
財布と携帯、あと足錠をポケットに突っ込む。

そして、桜の事を起こさないように
ゆっくり、静かに玄関の方に向かった......




のに...




桜 : こんな時間にどこいくの?〇〇くん。




靴を履き替えようとした、その時。

後ろから聞こえた声に
思わず、体がビクッと反応してしまう。


おそるおそる振り向くと
寝巻き姿の桜が真顔で立っていた。

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