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おさなななじみ。8



『ご、ごめん...!おまたせっ...!』




待ち合わせの場所に立っていると
声が聞こえて振り返る。

そこには、浴衣を着たさくらが立っていた。




「ぜ、全然。俺も...今来たとこだし。」




いつもと雰囲気がガラリと違うその姿を見て
"何故か"心がドキッとする。



...いや、違う。ドキッとした原因は


"さくのこと、好きなの?"


あの日の遥香の言葉が
さくらを見て、再び俺の頭を過ぎったからだ。




「それより...浴衣、着てきたんだ?」




『う、うん...!ど、どう...かな?』




「え...あ、うん!
綺麗で、とっても似合ってると思う。」




『そ、そう...?...へへへっ』




「じゃあ...行こっか。」




2人で夏祭りの場所を目指し、歩き出す。


今日の天気は晴れ。にもかかわらず
そこまで気温は上がってない、夏祭り日和。

広場に近づくつれ、人通りが増えて
そして広場は大量の人で溢れかえっていた。




「やっぱ今日、結構人多いね...」




『ね...』




人の多いところが苦手なのか
さくらは小さくなりながら、不安そうに歩く。

かくいう俺も、こんなに人が多いと
さくらとはぐれてしまいそうで不安になる。


そんな時。
不意に、さくらの手が手にコツンと当たって。

その瞬間、さくらにギュッと手を掴まれた。




「さ、さくら?」




『え...?あ、あ...!ご、ごめん...!』




さくらはすぐにパッと手を離す。




『はぐれちゃいそうで怖くて...つい...』




けど、その言葉を聞いて
今度は逆に俺がさくらを手を掴んだ。




「じ...じゃあこうして、手...繋いどかない?」


「ほら、確かに人多くてはぐれそうだし...」


「それに...もしはぐれたら、
楽しめるもんも楽しめなくなるしさ。」




『う、うん...!じゃあ、お願い...!』




そうして、さくらと手を繋ぐ。

すると、なんだか途端に気まずい...
というか、なんか急に恥ずかしくなって




「......」




『......』




何か話した方がいいんだろうけど
何を話せばいいのか、わからなくなった。

...そんでもって、さくらも黙っちゃってるし。




「...あ、あのさ?お、お腹空いてない?」




『えっ...あ、う、うん...!少しだけ...』




それでも、とりあえず動けば
何か少しは会話が生まれるだろうと思って

俺たちは広場の屋台をまわることにした。




『...んまっ!』




「えっ?」




『あっ...//』


『い、今のは違くて...//』




りんご飴、かき氷、たこ焼き、焼きそば。

思惑通り、
屋台を周ってれば自然に会話も増えてって

それに、さくらのちょっと意外な一面も見えて

そしたらいつの間にか、手を繋いでることも
自然に気にならなくなっていて

とうとう夏祭りは終盤になり
メインの、花火が打ち上がる時間を迎えた。




『ここ...!毎年あんまり人いないんだ〜』




そう言ってるさくらに連れてきてもらった
花火を見るのにおすすめの場所。

広場の近くにある、4階建てのビルの屋上。


この屋上はこの夏祭りの日にだけ
一般人向けに開放されてるらしい...が

それが夏祭りに来る人達に知られてなくて
結局、あまり人が来ないんだとか。


設置されているベンチに座って
花火があがるまで、ゆっくりと時間を待つ。


そして少しすると
ヒュ〜と音を立てて、花火が上がった。




「......」




『......』




バンッと大きな音が鳴り、花火が散っていく。



広場の方で、ところどころ歓声があがる。

けど、人の少ないここでは
そういう大きな歓声は上がることがなく


静かに、
ただ静かに俺もさくらも花火を見ていた。




そのはずだった。




『......○○?』




「ん?」




さくらに呼ばれて、その方に顔を向ける。



すると、さくらの顔が間近にあって


いつの間にか、唇に柔らかい感触が伝わった。



ほんのり甘い匂いがふわっと香る。


時が止まったって感じるくらい長い一瞬。



でも、瞬きをした時には
唇に伝わっていた感触はもう無くなっていて




『...好き』


『って言ったら、迷惑...かな...?』


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