歪み愛 10
桜 : こんな時間にどこいくの?〇〇くん。
〇〇 : え...あっ...あぁその...
〇〇 : な...なんか今日、全然眠れなくって...!
〇〇 : ...それで、散歩にでも行こうかなって
桜 : へー......今から?
〇〇 : そ、そう...!今から...
玄関の前で咄嗟にそう答えてみても
その答えに全く納得していないのか
桜はずっと真顔で俺のことを見ている。
俺は、そんな桜に得体のしれない恐怖を感じて
〇〇 : す、すぐ戻ってくるから...!
なんて嘘をつきながら
〇〇 : じゃあ、行ってくるね...
早く桜の家を出ようとドアノブに手をかけた。
瞬間
"ドンっ"て
背中をいきなり勢いよく押された
...と思ったら
ひんやりとした異物が体に刺さった感覚と
次には
何かに突き刺されたような鋭い痛みに襲われて
体の底から"熱い何か"がせり上がってきた。
そして、そのせり上がってきたモノは
少しずつ少しずつ、口を伝って溢れ出ていく。
口の中が塩気のある鉄の味で満たされる。
手で口元を拭うと手全体が赤黒く染まった。
〇〇 : ぇ...
振り向いて鋭い痛みがある部分を手で探る。
すると、すぐ後ろに桜がいることがわかって
その手には刃物のようなものが握られていた。
でもって、
おそらく、そのものの先端部分は俺の背中に...
桜 : ...〇〇くんの嘘つき
桜 : 帰ってくる気なんてないくせに...
そんな中で、桜はそのまま俺に話し始める。
桜 : ...あの子とベランダで話してた時の声、桜に聞こえてないとでも思った?
桜 : 桜、〇〇くんがあの子に"信じられない"って言ってたから安心してたのに...
桜 : でも、こんな時間に急に外に出ようとするってことはきっとあの子のところに行くつもりなんだよね?
桜 : 〇〇くんに酷いことしてたあの子のところに...
桜 : ...そんなの絶対ダメなんだから。
〇〇 : っ......ぁ...
突き刺さっている痛みがさらに激しく増す。
桜 : ...桜ね?〇〇くんに助けてもらった日から、ずっと〇〇くんの事が好きだったの。
桜 : それで〇〇くんのこと...もっともっと知りたくて隣のこの部屋に引越しまでしたんだよ?
桜 : でも、〇〇くんの周りにはいつもあの子がいて、タイミングも悪くて全然話しかけられなくて......
桜 : ...だからね?昨日偶然出会えて話しかけることが出来た時、チャンスだって思ったんだ。
桜 : やっとあの子から〇〇くんのことを奪えるチャンスだって...!なのに...
桜 : ...ねぇ、桜のなにが悪かったの?...ううん。
桜 : あの子のなにがそんなにいいの?
桜 : 教えてよ。〇〇くん。
〇〇 : っぅ......そんな...の...
〇〇 : あっ......
急に、桜の体の重さと
体に刺さっていた異物の感覚が抜ける。
すると、さらに早く心臓が波を打ち始めて
頭がボーッとし始めた。
ぬるい液体が足を伝っていて気持ち悪い。
そして、やけに力が入らなくなって
カクンって足が曲がって体が倒れたと思ったら
いつの間にか、目の前に桜の顔があった。
桜 : ......やっぱりもう答えなくてもいいや。
桜 : その代わり、あっちで2人で話そう?
桜 : 安心して?〇〇くん。
桜 : 桜、絶対に〇〇くんに会いにいくから。
〇〇 : ぁっ...ぁ......ぁ...っ.......
体から力が抜け、手足の感覚が無くなる。
視界にモヤがかかって
目を開けているのが次第に難しくなっていく。
さっきまで感じていた鋭い痛みはもうない。
何故か息をうまく吸い込むことができない。
それに何故かものすごく寒い...
ふわふわと体が軽い。何も考えられな...
桜 : ...よかった。
桜 : 〇〇くんがあの子のところに行けなくなって。
桜 : これでもう桜は〇〇くんと...
...
...
...
ピッ...ピッ...ピッ...ピッ...ピッ...ピッ...
「ん......んん...んぅ.........」
「ここ...は.........?」
白色の天井。
ピッ...ピッ...という機械っぽい無機質な音。
半透明なマスクのようなものが口を覆っていて
時折、シューと音と共に空気が入ってくる。
「っ...!!」
体を動かそうとしたら背中に酷い痛みがした。
でもって足は痺れているのか動きそうにない。
"僕"の体にいったい何が起こってるんだろう。
あまりに体が不自由で不安になってきた時。
ズーー...トンッとスライドドアの開く音がして
[さ、齋藤さん!?目を覚ましたんですね!?]
[い、い、今!先生を呼んできますから!]
白衣を来た人のそう言っている声が聞こえた。
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