ノベルゲームの歴史
ノベルゲームの歴史については随所で語られてきましたが、PC・家庭用機ノベル、美少女ゲーム、フリーゲーム、同人/インディーゲーム、海外ビジュアルノベルを横断したものがほしかったので書いてみました。
なお、この記事を書くにあたり(特に往年のアドベンチャーや美少女ゲームについては)既存の研究を参考にさせていただきました。参考資料はページの最後にまとめています。
また、「ノベルゲーム」や「ビジュアルノベル」の定義には立ち入らず、隣接ジャンルも含めてかなり幅広く取り上げました。韓国語の情報は機械翻訳を使用しています。
乙女ゲーやBLなどは不案内なため書けませんでした。こちらは識者におまかせします。年表の太字は日本語対応、下線は英語に翻訳されていることを示しています。
表紙イラスト:Aperantos (Pixabay, 生成AI?)
表紙デザイン:GDJ(Pixabay)
mbchickenleg(Pixabay)
ノベルゲームの源流をたどると「アドベンチャーゲーム」という言葉を生み出した『Colossal Cave Adventure』にたどりつく。テキストベースでファンタジーな洞窟を探索するゲームで、洞窟探検を趣味とするWilliam Crowtherさんが作ったものだという。『MYSTERY HOUSE』は初めてグラフィックのついたアドベンチャーゲームとして名高い。また、開発元のSierra On-Lineは三人称視点で主人公を直接操作する『King's Quest』などの名作によってアドベンチャーゲームの基礎を築いた。
これらのアドベンチャーゲームに影響を受け、日本でも堀井雄二さんのいわゆる三部作が作られる。『ポートピア連続殺人事件』では機械的な質問をキャラクターに置き換え*1、『オホーツクに消ゆ』ではコマンド入力ではなくコマンド選択方式を採用した。
こうしたノウハウはチャンピオンソフト(のちのアリスソフト)の1作目『慶子ちゃんの秘密』など美少女ゲームでも共有されていく*2。吾妻ひでおさんの漫画によるロリータブームが起きていた当時、野球拳ソフトから始まったロリータシリーズは最終作『ファイナルロリータ』ではRPGシステムを採用しクオリティの高さで評判になった*3。また、ご褒美イラストにミニゲームをつけたようなゲームが多かった当時にあって、『天使たちの午後』はしっかり作り込まれたアドベンチャーゲームとして好評を博し、シリーズ化していった*4。
80年代後半にはアドベンチャーゲームが早くも成熟していくのを見てとることができる。J・B・ハロルド、神宮寺三郎、藤堂龍之介といったシリーズ物の名探偵が登場し、海外アドベンチャーや映画のシナリオ・演出が『スナッチャー』や『ファミコン探偵倶楽部』などに取り込まれている。
一方アメリカでは映画と同名タイトルのゲーム『Labyrinth』でLucasArts が名乗りを上げ、『The Secret of Monkey Island』などの優れたアニメーションをもつポイントアンドクリックを生み出していく。このあたりから主人公の主観をテキストで表現する日本のゲームと第三者の視点から主人公を空間の中に描写する欧米のゲームでノベル/アドベンチャーの違いが出てくる。
美少女ゲームもシナリオの種類や質が向上し、コメディやサスペンスが充実していく。89年にはアリスソフトのランスシリーズやelfのドラゴンナイトシリーズの1作目が発売。微妙に安い値段と10分で終わる内容で有名になった『はっちゃけあやよさん』はその怪作っぷりがかえって愛され、これもシリーズ化した。また、91年に起きた少年によるアダルトソフト万引き事件は社会問題化し、コンピュータソフトウェア倫理機構が設立されるに至った(沙織事件)。
1992年は『弟切草』によってノベルゲームというものが発明された年だ。画面全体に表示された文字を読むことでゲームが進行し、選択肢には具体的な行動だけでなく主人公の心情も盛り込まれている*1。分岐するシナリオごとに人物や世界の設定すら変わってしまうのが独特だ。メインの物語から逸れるとデッドエンドになって本線へと戻る一本道の物語ではなく、複数の世界が並行しているのも新しい*5。後の美少女ゲームに見られるキャラごとのルート/エンディングはこれにあたる。さらに『かまいたちの夜』ではフラグを使っていないとか*5。
93年には育成SLG『プリンセスメーカー2』が発売されているが、このシリーズは韓国で非常に人気があり、シリーズ最新作も韓国にて開発中。続く94年の『ときめきメモリアル』は以降のギャルゲーブームを生み出した。さらに間接的には、この頃の「ギャルゲー」という言葉が中国で定着することになる。
一方美少女ゲームの方では『同級生』が流れを変えた。これまでの美少女ゲームではどうにかしてかわいい女の子と付き合うのが目的だったが、本作ではヒロインの悩みを解決するのが物語の本筋になっている。もはやヒロインの方が物語の主軸であり、主人公は狂言回しのポジションに移行していく。またこれは後の話であるが、おちゃらけた主人公が女の子を振り向かせようとする「ナンパゲー」というものも言葉とともに消えていき、主人公像も時代にあわせて変化していく。そのほか天津堂の『マーシャルエイジ』は「天津塗り」で名高く、同じくグラフィックに優れる『妖幻道夢』のお気楽シナリオは当時ならでは。
96年には『サクラ大戦』が発売され、家庭用ゲーム機でのギャルゲーブームがはじまる。セガサターンは人によってシューティング、格闘ゲーム、あるいはギャルゲーの専用機と化した。それと同時に『学校であった怖い話』などからホラーノベルもミステリと並んで静かな人気をみせる。
脚本・蛭田昌人さん、原画・竹井正樹さんで前作に続く『同級生2』はこのころの最高傑作に位置付けられ、その内容はフロッピーディスク9枚におよんだ。また、2人の主人公を切り替えるザッピングが特徴的なサスペンス『EVE burst Error』や、壮大な世界観で複雑な時間移動とフラグ管理を見事にまとめた『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』も菅野ひろゆきさんの名作として知られる。アリスソフトの『闘神都市II』『鬼畜王ランス』はRPG/SLGとしての面白さが絶賛され、Windowsに移行する前の黄金時代を築いた。
そんな中、次の時代を用意したのがLeafの『雫』『痕』だった。雫は探偵ものではなくサイコサスペンスを採用し、少年少女の日常、学園、狂気、伝奇、感動といった新たなノベル像を打ち出した*1 *6。痕は弟切草・かまいたちのパラレル分岐を取り入れながらも世界観を変えないことで謎解きの快感を加えている*6。以降このジュブナイルや伝奇がスタンダードとなり、探偵ミステリや冒険、SFといったジャンルは(時代の変化もあり)消えていく。また、複雑な攻略要素を取り払い、『To Heart』についてはストーリーではなく「100%キャラクター」であると作者の高橋龍也さんが述懐している*6。
ところで97年には最初の中国語ノベルとされる『金瓶梅之偷情宝鉴』が、翌年には『紅樓夢之十二金釵』が発売されている。いずれも古典文学に取材した美少女ゲームで、前者は育成シミュレーションの要素を含む。一方後者は『風行全台超炫電玩配樂精選輯』というゲームサントラのコンピアルバムに楽曲が収録されていて、Apple Music などで配信中である。
Windows98が登場してPCゲーム市場に変化が起こる一方で、家庭用ゲーム機では『街』が発売された。8人の主人公による群像劇でありながらそれぞれの行動が互いに影響する斬新なシステムで、他にも『クロス探偵物語』などミステリーは主要ジャンルであり続ける。また、ギャルゲーブームが実りをもたらし、時代をまたいだ群像劇『久遠の絆』、ときメモの流れをくむ『みつめてナイト』、大胆なアニメーション採用とドアノブの『ダブルキャスト』などの名作が生み出された。
多種多様な作品の中には癖の強いものもあり、発売前の宣伝と暗黒太極拳をはじめとする本編との落差が有名になってしまった『センチメンタルグラフティ』はキャラは素直に愛されていてなんだかんだ人気。選択肢の時間切れがあまりにも速い『ずっといっしょ』は渡辺明夫さんがデザインしたキャラの突き抜けた個性が楽しい(韓国語版もある)。なぜか縦書き、長い読み込み時間、攻略本必須の『初恋ばれんたいん スペシャル』は膨大な立ち絵をはじめとする作り込みやキャラクターでカルト的な人気を誇った。
ギャルゲーブームはPS2への移行で収束してしまうが、この最後の黄金期には『星の丘学園物語 学園祭』『北へ。』『リフレインラブ2』『キャプテン・ラヴ』『Prismaticallization』『Lの季節』といった今なお記憶されるタイトルが多い。
美少女ゲーム業界はOSの変化で顔ぶれが入れ替わるなか、Keyの『Kanon』がリリースされて泣きゲーブームを形成していった。ここから2000年代のユーザー層はさしずめ第2世代である。
他方中国に目をむけると、中国ノベル史上最初の作品『情人节 不见不散』が登場している。仙侠・武侠テーマの作品が多数を占める中にあって本作は学園物の恋愛SLGで*7、開発を主導したのは王世颖さん。中国語の代表的RPGシリーズのひとつ『仙劍奇俠傳三』を手掛けた人物だ。内容は同年の映画『不见不散』に影響を受けているという*8。
PS2が発売されると美麗な3Dグラフィックと長大な内容を売りにするものが増え、猫も杓子もゲームを作る混沌とした状況は消えた。ギャルゲーブームもまた一段落したが、『Ever17』はノベルゲームならではの仕掛けを盛り込んで話題になった。また翌年には『逆転裁判』がリリースされたほか、『風雨来記』『MISSING PARTS』などもいぶし銀の魅力を放っている。百戦錬磨の勇士には、癖になる棒読みとすばらしいイラスト・シナリオを備えた『チョコレート♪キッス』をプレイしてエンディングで悶絶してほしい。
他方美少女ゲームは第2の黄金期を迎える。Keyが『AIR』で人気を不動のものにし、Leafも『うたわれるもの』が好評でいわゆる葉鍵が象徴的存在となった。ハードボイルドな『Phantom』『鬼哭街』、章ごとに人物や視点が変わる『銀色』『水夏 ~SUIKA~』、三角関係を扱う『君が望む永遠』など押しも押されぬ人気作がならぶ。『螺旋回廊』『さよならを教えて 〜comment te dire adieu〜』に見られる世紀末さながらの狂気も美少女ゲームの特徴のひとつ。
『月姫』は翌年の『ひぐらしのなく頃に』とともに同人ゲームの存在を世に知らしめ、「伝奇」という言葉とジャンルを定着させた。もちろん後のTYPE-MOONにつながっていく存在でもある。そもそも伝奇とは唐・宋王朝時代に書かれた短編小説の総称で仙人や妖怪などこの世ならぬ要素を特徴とするが、それとは別に国枝史郎や山田風太郎といった日本近代の作家が書いた時代+ファンタジー/SFものや現代舞台のSFなどを伝奇小説と呼ぶ。月姫は現代の少年少女が超能力に遭遇する/異能を持っているジュブナイルとしてまた少しニュアンスの異なる「伝奇」を生み出し、特に同人/フリーゲームに大きな影響を与えた。
そしてこの年から、フリーゲームの流行とともにフリーのノベルゲームが作られはじめる。前年に『吉里吉里』と『NScripter』という2つのツールが公開され、誰でも簡単にノベルゲームが作れるようになったのが大きい。最初期の名作としてかまいたちをオマージュしつつ独自色を加えた『1999Christmas Eve』と神戸をメインテーマに据えた『ハーバーランドでつかまえて』がよく知られている。アナログ調のイラストで小さな日常を切りとった『8月7日の雨宿り』も小粋な良作としてここに並べたい。
さらに注目すべきは韓国で『Tears 아홉 개, 열 개』(Tears 9, 10)がリリースされていること。Tears -Contact-の外伝とのことで他にも作品はあるのだろうが、管見では韓国インディーノベルで最も発売が早い作品となっている。社会に立ちむかう少年少女のお話で、社会的な面をもつところに韓国ノベルの特徴があるように思う。韓国のノベル製作は長い歴史を持っているようだ。
全年齢/成人向けという区分のために以降のKey作品は全年齢の列に入っているが、美少女ゲームの文脈なのでこれは後述する。『アカイイト』は神話・民俗をテーマにしたノベルゲームで、艶っぽい吸血シーンが百合ゲーとしても有名。のんびりした主人公のキャラクターを色濃く反映した地の文にも特徴がある。『アナザーコード』はニンテンドーDSの2画面・タッチスクリーンを活用した意欲作。『120円の春』はねこねこソフトのファンディスクを元にした小粒な良作だ。
さても「Fateは文学、CLANNADは人生」。美少女ゲームのブームが最高潮に達し、ここにはとても書ききれないほどの名作が数多く作り出された。ニトロプラス、August、戯画、Innocent Grey など人気のブランドも多様化していく。イラストはグラデーションを多用した淡い色使いが流行し「エロゲ塗り」と今なお呼ばれる名前がついた。また、どんどん長くなるシナリオは翻訳のハードルを上げ、後になかなか出ない公式翻訳に海外ユーザーがやきもきすることになる。
『narcissu』はねこねこソフトの片岡ともさんが主宰する同人サークル「ステージ☆なな」の作品。シネスコのように横長の画面で一般的な立ち絵を排し、静かな物語で人気を博した。後には世界的に有名になり、Steamを通じてシリーズ作が全世界に届けられた。
フリーゲームでは『時の故郷』の牧尾屋(現Pleiades Company)が『Erinyes』を公開、システムと群像劇のシナリオに工夫を凝らした謎解きアドベンチャーが人気を博した。また、月姫以降のジュブナイル伝奇ブームを『天雨月都』『グッバイトゥユー』がそれぞれに解釈して人々の心を掴む。ループものの大作『ひとかた』は文章の良さも人気の秘訣だ。ホラーゲーム『こ~こはど~この箱庭じゃ?』は『赤い部屋』とともにFlash全盛時代を想起させる。
そのころ中国では『紫花情梦』(蓝天使制作组)がリリースされている。このあたりから後の人気スタジオが設立されはじめるが、しばらくは既存作品の二次創作や月姫・Fateの影響を受けた作品が続く。2008年ごろからゲーム・アニメコミュニティの形成にともない作品数が急激にふえ、クオリティも上がっていったという*7。より具体的には『刻痕』(蓝天使制作组)『萤之歌』『水时钟』(橘子班/落叶岛项目组)『翡翠月』(SP-time)『鸑鷟:镜花水月』(Youth-Bloom)などがある。『愛神餐館2』は『ビストロ・きゅーぴっと2』として日本でも発売され、隠れた名作と言われている。
2000年代後半には『街』につづく実写群像劇『428 〜封鎖された渋谷で〜』、それに空想科学アドベンチャーの『STEINS;GATE』とエポックメイキングな作品が発売される。『ラブプラス』はコンビニと合わせて最低限の生活を保障するほどの社会現象となり、TLSシリーズを受け継ぐ『キミキス』『アマガミ』の2作もシリーズを再興した。ニンテンドーDSでは『レイトン教授と不思議な町』がレベルファイブの名を一躍有名にし、その他ミステリー作品がそれぞれに人気を獲得した。
美少女ゲームはプレイ時間の長大化と内容のマンネリにより「眠くなる」との批判が聞かれるようになるが、地域制圧SLGとして完成度の高い『戦国ランス』、バンドの青春という珍しいテーマの『キラ☆キラ』、世界的に絶大な人気を誇る『装甲悪鬼村正』など話題作も多くあった。
フリーゲームでは里見しばさんのヒューマンドラマ『TRUE REMEMBRANCE』『送電塔のミメイ』が大きな反響をよぶ。犯人を推理してマーキングする『消火栓』はミステリブームの火付け役となり、VIP合作の『しぇいむ☆おん』、幽霊少女とのラブコメドラマ『ゆうとっぷ』もよく知られている。『君の瞳はサンダーボルト殺人事件』は思い切ったギャグをかまいたちのシルエット立ち絵で作り切った稀有な作品。
2010年になるとノベルは売れないというのが定説になりつつあったが、『ダンガンロンパ』は推理や選択にアクションを取り入れ、ポップでサイケなデザインを採用することで人気シリーズとなった。また、『魔法使いの夜』はTYPE-MOONが久しぶりに出すノベルゲームで、その現代的な演出が話題になった。
そして2010年はインディーノベル節目の年である。およそこのあたりから英語圏、中国、(おそらく)韓国で今に続くビジュアルノベルが作られ始める。先に日本を見ておくと、同人というよりインディーの文脈でfaultシリーズの1作目が作られていて、ここが起点になるだろう。
英語圏では2004年に英語オリジナルのツール『Ren'Py』が公開され、2005年からはビジュアルノベルのゲームジャム「NaNoRenO」が毎年開催されている。ここで作られた『Digital: A Love Story』は80年代のPCを疑似的に体験する短編アドベンチャーで、AI少女との会話を通じて韓国の歴史を知る『Analogue:A Hate Story』へと続いていく。ジェンダーをテーマにゲームを作っているChristine Loveさんの作品だ。ヒロイン全員が障害をもつ『Katawa Shoujo』は初めて遊んだビジュアルノベルとして挙げる人も多い名作。『Juniper's Knot』は画面デザインと物語構成が洗練されたボーイミーツガールな一幕ものだ。
中国では人気スタジオのシリーズ新作や新たなチームが出現し、鸑鷟シリーズ、本境シリーズ(SP-time)、『紫罗兰』(HollowingsHollowings)、『叙事曲:难忘的回忆』などが基礎を築いた。中でも『刻痕Ⅲ』は伝奇的な現代ファンタジーの世界で愛憎渦巻くサスペンスを描いた傑作。
韓国ではアンドロイド少女との交流を描いた『루시 -그녀가 바라던 것-』(ルーシィ ~彼女が望んでいたもの~)がフリーゲームとして公開され、後にリメイク版が作られた。2011年にはTeam HCが『미궁 - 이것만 있다면 당신도 머리를 회전시킬 수 있다.』をリリースし、以降Androidを中心にノベルゲームを数多く手掛けていく。12年作の『우리들의 날개는 언제부턴가 부서졌다』など著名な作品があり、大きな存在感をもつスタジオだったようだ。
同じく12年の『할아버지와 요람』はTalesshopの1作目。同スタジオはSteamで英語対応を含めて非常に高いクオリティの作品を世に送り出し続けていて、韓国を代表するビジュアルノベルメーカーと言っていいだろう。『wish~ ask for the littlestar』はドラゴンをテーマに据えたファンタジーノベル。やや重みのあるイラストが魅力的で、できることなら遊んでみたかった。『억새밭 사잇길로』は写真家志望の青年を主人公にしたノベルゲーム。こちらは韓国語のみながらリメイク版がSteamで販売されている。
最後にロシアについて。ロシアでは2010年にErogame Project(現Soviet Games)が『Зимняя Сказка』と『UVAO Forever』の2作を公開していて、このチームは後にロシアのノベルゲームのなかでもとくに有名な作品を生み出す。また、『Beyond Artificial』は違法にアンドロイドを造ってしまった男の美少女ゲームで、個人製作の佳作として注目される。
2014年から2019年にかけては日本では『ネコぱら』がリリースされ、そのかわいさに世界が魅了された。Sekai Project により英語・中国語に翻訳されて発売されたのも大きい。世界人気という点では『ファタモルガーナの館』は最上級に位置する。ゲームを通じて人狼を一人でプレイできる『グノーシア』はそのコンセプトが衝撃を与えた。フリー/同人ゲームとしてはスタジオ・おま~じゅの『みすずの国』が日本国内の天狗領という独自の世界観を見出し、シリーズ続編を通じて壮大な歴史を編み上げた。
また、2014年はSteamで『Sakura Spirit』が発売された年でもあり、「海外から」「Steamで」「美少女ゲームが発売された」ことに衝撃が走った。この時期は欧米でDating Sim がVisual Novel としてその地位を認められていく過程でもあり、『Doki Doki Literature Club!』『Butterfly Soup』『Dream Daddy: A Dad Dating Simulator』『Blackberry Honey』といった名作が一挙に世に出た。ここにすでにLGBTQ+やダイバーシティといったテーマを見て取ることができる。その後の印象としては乙女ゲーやBL、Furryが多いように思う。
中国では14年の『高考恋爱一百天』が時代の転換点とされている。高考という中国独自の文化をテーマにしていて、ゲーム全体のクオリティも高いため非常に人気がある。17年には名作『三色△绘恋』がでて新時代への移行が決定的になった。この年は中国で作られ日本で広く認知された最初のノベルゲーム『WILL:美好世界』がリリースされているほか、『端木斐异闻录』『克莉丝的炎之信仰』などもあり質量ともに一足飛びに進化した。
翌18年には美麗なイラストとボイスまで含む日本語化により、日本でも人気のAsicxArtによる『Fox Hime Zero』、高いクオリティで心理サスペンスの小説をゲーム化した『妄想症:Deliver Me』、ポップなイラストが際立つ章鱼罐头制作组の『七人杀阵』など優れた作品を挙げていけば両手でも足りない。
台湾に目を転じると、14年にErotes Studioの『雨港基隆』が発売されている。日本占領時代の二・二八事件を取り上げたゲームで、台湾人・日本人・中国人の3人のヒロインそれぞれの視点から複雑な歴史をノベルゲームとして描き出していく。以降の作品も台湾の歴史や文化に根ざしているのが特徴だ。16年に『結戀』をリリースしたNarratorは希萌創意と組んで17年に『東津萌米』を発売。以降も派生スタジオSTORIAとともに『食用系少女』といったシミュレーションゲームを作っていく。
韓国ではTalesshopが次々と作品を発表しているほかに、애플민트が『그래도 그녀를 그리워한다』を発売している。このスタジオもこれまで7作のノベルゲームを開発しているベテランで、同作は日本でも購入できるものの日本語には対応していない。とても面白そうなのでぜひとも遊びたいところだった。淡いイラストがかわいい『우산으로 빛을 모은다면』はこの時期の多くの他作品同様、韓国でも公開が終了している。Android むけに発売されるのが主流だったようで、STOVE やSteam でも公開される今ならばと惜しまれる。『나의 교육과정에 마법 과목이 추가되었다』もイラストが非常にかわいい。そんな中、『메이드 아가씨』は『メイド彼女』として日本語に翻訳されている貴重な例。日本語ボイスは声優の久保ゆりかさんが担当されている。Talesshop作品にも日本語対応しているものがあるのでこちらもおすすめ。
ロシアではやはり14年にErogame Project(Soviet Games)が『Бесконечное лето』をリリースしている。Milk inside a bag of…という例外を除けば知名度は随一だろう。また、16年にはMoonworksが『The Herbalist』(原題不明)を発売。調合システムを持つビジュアルノベルで、こちらも日本語化されている。以降も『The Delusion of Dream』や『q.u.q』といった日本語対応の良作があったりするのでお見逃しなく。
bowloflentilsさんのビジュアルノベルの歴史を解説した動画。
いま手に取りやすいもの。マルチプラットフォームなため、あくまで一例。
Steam
Colossal Cave(リメイク), King's Quest™ Collection, Maniac Mansion, Shadowgate(リメイク), The Secret of Monkey Island: Special Edition, Day of the Tentacle Remastered, Beneath a Steel Sky, The Beast Within: A Gabriel Knight® Mystery, Broken Sword: Director's Cut, Tex Murphy: The Pandora Directive, Grim Fandango Remastered, Riven, The Last Express Gold Edition, The Longest Journey, Syberia
この世の果てで恋を唄う少女(リメイク), WHITE ALBUM(リメイク), うたわれるもの 散りゆく者への子守唄(全年齢版), ポートピア連続殺人事件(AI技術デモ), プリンセスメーカー2リファイン(リメイク), メモリーズオフ, narcissu
愛神餐館MAX, 愛神餐館2, 水时钟, 紫罗兰·里(リメイク), 叙事曲:难忘的回忆, 雪华, 雪之本境S(リメイク),赤印plus, 刻痕Ⅲ, 루시 -그녀가 바라던 것-, Tears 아홉 개, 열 개, Зимняя Сказка
Nintendo Switch
オホーツクに消ゆ(リメイク), 探偵 神宮寺三郎 プリズム・オブ・アイズ(復刻コレクション), 琥珀色の遺言(携帯移植版), ファミコン探偵倶楽部(リメイク), 探偵・癸生川凌介事件譚, プリンセスメーカー2 リジェネレーション(リメイク), 逆転裁判, アナザーコード リコレクション, EVE burst error R, 慟哭そして…, アカイイト, 月姫(リメイク),ひぐらしのなく頃に奉, あの、素晴らしい をもう一度/再装版, Kanon・AIR(全年齢版)
Project EGG
惑星メフィウス, カサブランカに愛を, 琥珀色の遺言, 殺人倶楽部, THE DEATH TRAP, 怨霊戦記, 東京トワイライトバスターズ, オホーツクに消ゆ
アリスソフト アーカイブズ
Rance -光を求めて-, 闘神都市II, 夢幻泡影, 鬼畜王ランス
GAME 遊び放題 プラス
同級生(2), 下級生, ドラゴンナイト4, 野々村病院の人々, 河原崎家の一族, ランス01 光をもとめて(リメイク), 大悪司, 夜勤病棟, 十六夜の花嫁
OOParts
シンフォニック=レイン, 腐り姫, Phantom INTEGRATION・鬼哭街, SCHOOLDAYS, ネコぱら, 戦国ランス, MOON.・ONE 〜輝く季節へ〜, 水夏〜SUIKA〜
DLsite
虜, 女郎蜘蛛(リメイク), luv wave, さよならを教えて, 沙耶の唄, 加奈 ~いもうと~, 銀色, Sense Off,果てしなく青い、この空の下で…。, 行殺☆新選組, 家族計画, CROSS†CHANNEL -FINAL COMPLETE-, 月陽炎, 120円の春, こなたよりかなたまで, SWAN SONG, Aster, 僕は天使じゃないよ, はっちゃけあやよさん, ようこそシネマハウスへ?, ひまわり, 灯穂奇譚
FANZA GAMES
この世の果てで恋を唄う少女YU-NO, MinDeaD BlooD, Quartett!, カルタグラ~ツキ狂イノ病~, 車輪の国、向日葵の少女
その他
君が望む永遠(全年齢版)?, Fate/stay night(全年齢版), うたわれるもの 散りゆく者への子守唄(全年齢版。iOS/Android)
参考資料
*1 GameBusiness.jp ビジュアルノベルはいつ成立し、そして現在に至るのか? ストーリーゲーム研究家・福山幸司氏が解説する歴史https://www.gamebusiness.jp/article/2019/07/24/15991.html
*2 エロゲ調査報告書
http://erogereport.blog.jp/
*3 ゲーム保存協会
https://www.gamepres.org/
*4 クラシックゲームの塔
https://towerofclassicgame.com/
*5 4Gamer イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
https://www.4gamer.net/games/074/G007427/20131108107/
*6 TINAMI Leaf 高橋龍也&原田宇陀児インタビュー
https://www.tinami.com/x/interview/04/
*7 知乎 莫言国G 在国产GAL杀入游戏展后,回头看看来时的路——2020WePlay文化展文字AVG之魂展区历史墙全文一览
https://zhuanlan.zhihu.com/p/296711994
*8 Bangumi 番组计划
https://bangumi.tv/subject/327066
・アドベンチャーゲーム研究処 テキストアドベンチャーゲーム、変容の歴史。
https://ameblo.jp/adoventure-kenkyu/entry-10290029455.html
・ADVGAMER
https://advgamer.blog.fc2.com/
・初ばれSPECIAL 情報室
・アダルトゲームの歴史【1981年~1985年】https://www.nicovideo.jp/watch/sm37520821
・Adventure Gamers
https://adventuregamers.com/
・Wikipedia Category:同人ソフト
https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:%E5%90%8C%E4%BA%BA%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88
・Wikipedia Adventure game
https://en.wikipedia.org/wiki/Adventure_game#
・나무위키 분류:한국 미소녀 게임
https://namu.wiki/w/분류:한국 미소녀 게임
・ErogameScape -エロゲー批評空間-
・The Visual Novel Database
https://vndb.org/
・CnGal资料站
https://www.cngal.org/