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近いが知らない街に我が身を投げ込む(チカシラ街)1

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ふと気がつくと、今はほとんどの人がそうだろうが、旅に積極的に出られない日常。以前は気の向くまま、導かれるままに全国に音楽興行を言い分に、

どこかしこの場所を訪れていた。ベースにしている東京麓郷スタジオと称する居住ベース地で事足りてしまう都市生活者の暮らしもほとほと飽きてはきた。

東京都によるテレワーク支援事業なるものがあると聞きつけた。なんでも東京都の指定(正確には悲鳴をあげた宿泊業者からの申請)箇所で、指定宿泊施設、3/18まで毎日5室を6泊することを条件に一泊2000円で開放するのだという。テレワーク推進という建前のお得なチャンスタイムだが、飲食業者の時短金と同義のものがホテル業者に充てがわれるのだろう。焼け石に水だろうが、今回はその水となりお世話になることにしたのである。聞き慣れない名前の線路沿いの宿に。※写真に写り込んでいる場所にあらず

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「近場の知らない街で数日滞在する」という意図の下に、つれづれ自らに課せねばならない煩雑な作業を。ある程度制約に縛られた規範の街の中で行おうと、私にとっていつものような閃き。きっと後日正解となるであろう行動を取ったのである。

当初は昭島市のリゾートホテルを所望したが、同じことを考える輩は多いようで一泊20000円弱が2000円にディスカウントされる争奪戦には間に合わなかった。では福生はどうだ?と考えたが有り体なビジネスホテルしか選択肢にはないようだし、横田基地周辺に集まる場所はあまり「安全な場所ではない」と勝手に想像し、たどり着いたのは、少しだけ見知るが街のことを知らないエリア。写真をよく拡大したりすれば、特定出来るのだろうがそれは面白くはないだろう。この街でひと時過ごす期間は秘匿性を持たせてみる。都心に近いが語られることが意外と少ない街の逗留記でも、作業の合間に書き残そうという算段である。人が集まるのはやはりこの場所。

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逗留先、迎え入れてくれた妙に流暢なフロントの女性スタッフ。アジア系の女性だが、マスク越しでのやり取りゆえ顔はわからない、ことさら目力の強さが気を引く。ただ彼女は私たちが通常接する日本人のサービス業に従事する女性より言葉遣いが異常に丁寧で、こちらの問いに「さいですか」と答える。

恐らく彼女の中では「さようですか」とのことだろう。どこで身につけたのかその丁寧さ。勝手な想像だが、インド?ネパール?祖国でのインテリジェンスを伺わせる方だ。

 そういえばと過去の記憶を辿る。20年ほど前、目の前の大きなチャンスの逸失にほとほと落ち込み、若いガールフレンドも「あなたにはオーラがなくなったわ。バイバイ」と消えた。これではいかんと六本木ヒルズ造成の肉体労働等に勤しみ、ブロック職人の親方に「弟子入り」を勧奨され、秒だけ心揺れ、たどり着いたのは中目黒のビジネスホテル深夜勤の労働。Flight Of Ideaの1stアルバムのリリース前後、03年冬からの話だ。

 深夜勤業務になんとか慣れた頃、ラジェさんというネパールのエリート女子が入ってきた。確か池袋の大学の留学生で、非常に頭脳明晰な女性だった。ラジェさんの日本語が完璧なのをいいことに、私は経った半年先輩で少し仕事に慣れただけなのだが、ラジェさんに厳しく日々業務引き継ぎをしていた。しかし、ラジェさんは私が入りたての若い女子大生には下心なくも、懇切丁寧に教えていたのが気に入らないのか、嫉妬のような当たりの強いコミュニケーションを求めてきたこと、思い出す。彼女は今、日本に居て成功しているのだろうか?祖国にいるのかな?少し会ってみたいと思った。親切にした女子大生は知らぬ間に、いけすかない当時30代前半の私より少し年下の支配人が手籠にしていた。支配人が車を運転中に務めていた私のラジオを車でたまたま聴いたよと伝えてきたので少し、赦した。

 私が一年弱のホテルマン当時の同僚には、元甲子園球児のジェントルマンだが、日毎酒浸りになり身を持ち崩していった男。私も知っていたメジャーバンドのベースマンなど夜を過ごす仲間がいた。ベースマンの奴は気が合い、謎のソウル旅行にも出張ったり。奴とは私が離れた後も付き合い濃かったが、ある夜「堕す金貸してもらえませんか?」と私と入れ替わりで入った元グラドル崩れのスタッフと交際していた果ての始末を私の力を借りようと相談されたりもした。

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貸したくても貸せなない懐事情もあり私は断った。それから奴とは数度会うことも有ったが、アパレルに転職して別の女と妻子があることまでの連絡はもらったが、遠い話だ。もう会うこともないだろう。

 future,past,nowを行ったり来たりすると今出会った人、見えるものを通して過去の物語が追いかけてくる。「さいですか」ガールもすぐに過去になるのだろうよ。

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