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チカシラ街3〜アンダーカヴァー絶メシ潜入捜査官

「旅の一食はギャンブル」とよく言ったものだ。今回の逗留地界隈、都内屈指の酒場天国ではあるが、遵守傾向の街であることが銭湯捜査の行き来に見て取れたので、早めのアクションが◎。「金魚銭湯」潜入前、微妙な時間帯、繁華街より奥のその場所への途中に、古い作りだがこぎれいにしていて、店主が一人コック帽を纏いながらTVを観ている、よるべきなき姿で佇む、客のいない洋食屋を通り過ぎた。店前の営業時間を確認してみると20時ラストオーダーとある。時刻は19時。「客が居ないとこのまま閉めることあるな」と思い、ほとんど情報を持たぬままで飛び込んでみる。銭湯潜入捜査の後なら一杯兼ねてという気でいたが、ここは「洋食のチカラ」を感じるが為、普段は頼まない「ハンバーグ定食」をオーダー。どうもこのシリーズ、行く場所ゆえか下らないバラエティ番組がつけっぱなしで、普段は見ない類の無為な物を目視しながら待つこととなる。

カウンター奥の厨房からコック帽の店主が客一人の私のために繕ってくれているが、何やらをレンチンしている音をバラエティ番組の雑音と共に耳にする。少し嫌な予感がした。「レンチンとコック帽」がどうにも勝手な信頼感が崩壊するのか。future,past,now、思い返すレンチンの記憶。

 いつかに鎌倉の海辺で恋人がゲイであることをカミングアウトされ、その失恋を癒しに保養施設来たという美容師の女に出会い、数度デートを重ねていた。ライブにも誘ったら観に来た。そろそろどうにかだ!と「今箱根にいるから」と聞きつけ、勇んで車で向かうも大雨で到着まで相当の時間を要し、着いた時点で女は不機嫌きわまりなし。どうにか機嫌直しでドライブするも、今度は春先三月であるが、霧が出つつある芦ノ湖近辺でフォグランプが切れたことに気づき、慌てて小田原方面に向かい、開いているガソリンスタンドをヒヤヒヤしながら探し、事なきを得て、仕切り直しをするも女は再度不機嫌になり、閑散期の芦ノ湖周辺で食事が出来る店を探すも、寂れたドライブイン風情の店にようやくたどり着くしかなかった。二人ともトッピング付きのカレーを頼むと、今回同様、レンチンの音が鳴り、程なく届いたカレーは「不味い」側のどうでもいいもので会話も途切れた。次の展開はもうないので、やむなく女を親が所有している会員制高級保養所に送り届けた。が、部屋に潜入しようと試みたが、「会員意外無理だから」と拒絶。しかし私は無理くりその高級会員制保養所の浴場にだけは入れてもらい、レンチンカレー、撃チン、起死回生謎の入浴で、二度とその女と会うことはなかったのだ。その先に笑える酷い話があるのだが、ここでは書けませんわよ。個人的独演会でなら話してもいいが。

 上の物語は確かポエトリーブームの終焉の頃、映画「ビートニク」上映イベントに参加したすぐ後だ。ベテランから界隈の見知った顔が勢揃いした渋谷クラブクアトロでのイベント。私はサエキけんぞう氏とデュオPoetryで参加し、私の前が向井秀徳くん、後が高木完さん、トリは個人的にお世話になっていた白石かずこさん、スティーヴ衛藤さんのドラム缶パーカッションとのセッションだった。Flight Of Idea誕生前後の2001年3月のことだ。

「ハンバーグ定食」を待つ間、そんな記憶の旅に出てしまった。目の前に届けられた物を食してみる。味は悪くない、確かにちゃんとした手作りだ。むしろハンバーグクオリティとしてはいい方だと思うが。何をレンチンしたのだろうか?おそらく白米であろう。こういう時期で余程客が居ないのだろうか?味は悪くないのだが、付け合わせが何もない飯、味噌汁、少量キャベツ。

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少々気持ちの消化不良にて、飲み屋界隈を徘徊してみる。先程の消化不良解消の為、こぎれいなラーメン屋に入ることにした。酒を飲む感じではない気分が、過剰摂食とさせたのである。ジャズが流れてしまうラーメン屋は普段は入らないが際と極に触れたかったのだろう。美味しく頂いた。逗留先に戻り調べてみるとそのラーメン屋は普段はラーメンマニアが集う大行列の繁盛店だった。しかし土曜の夜、20時半、先客2人、後客1。これが夜の街の現実である。

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高架下と地上線路の合間、黒斑猫がミャーミャー鳴いていた。見上げるといない。まだ鳴いていた。振り返るとこの街の馴染みの住人が奴に餌をやっていた。私は自分で最適な物を喰らうため彷徨するしかないのだ。


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