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新しい凝固剤「イオタ・カラギーナン」の使い方〜牛乳ゼリーとアーモンドのカスタード〜

料理の世界ではゼラチン、寒天という昔ながらの凝固剤がツートップとして長らく君臨してきましたが、最近少しずつ新しい素材が使われるようになりました(日本ではまだまだですが……)

新しい凝固剤は食品工業の世界ですでに一般的なものばかり。カラギーナンもその一つです。カラギーナンは海藻から抽出されるゲル化剤で、主成分は寒天と同じ多糖類(ガラクトースに硫酸基がくっついる形)です。カラギーナンでつくったゼリーはやわらかく、ゼラチンのような粘りがないこと。室温でも溶けない、という特徴があります。カラギーナンのメリットは『植物性』という点。ゼラチンは動物由来なので避けたい、という人にも向いています。

カラギーナンは多糖類の構造の配列と硫酸基の結合数によって、大きく3つに分かれます。κ型(カッパ型)、ι型(イオタ型)、λ型(ラムダ型)です。

最近はスーパーでも買えるようになったパールアガーやイナアガーといった『アガー』はこのカラギーナンとローカストビーンガムという凝固剤を混ぜ合わせたものです。こちらに使われているのがカッパ型のカラギーナン。使ってみるとわかると思いますが、寒天とゼラチンの中間のような性質です。

ラムダ・カラギーナンはちょっと特殊な性質で、水によく溶けるが網目構造をつくらない=ゲル化しないのでとろみ付けとして使われます。

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今回、取り上げたいのはイオタ・カラギーナンです。イオタ・カラギーナンはカルシウムイオンによってゲル化が促進、強化され、独特のクリーミーなゲルをつくることができます。パンナコッタ専用のカラギーナンという印象があるほど、特化したゲル化剤です。他にココアの安定剤として、あるいは食感が似ているのでゼラチンの代用としても使え、その場合はゼラチンよりも透明感のある儚いゼリーになるのが特徴です。

基本の使用量は液体の1%〜2%。しかし、乳製品の場合はカルシウムが多いので、使用量が少なくなります。まずは基本の『牛乳ゼリー』を作ってみましょう。

牛乳ゼリー
牛乳 200cc
イオタカラギーナン 0.4g
グラニュー糖  10g〜20g

カラギーナンを使いこなすのに必要な道具は精密ばかりです。カラギーナンは凝固力が強く、少量で固まります。そのため、アガーはローカストビーンガムとカラギーナンの他にブドウ糖を混ぜて扱いやすくしているわけです。

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実験室レベルの厳密さは求められませんが、普通の測りの誤差は0.2g〜0.4g。これでは凝固力に大きな差がついてしまうので、精密ばかりを使います。

こんな計りがあれば大丈夫。砂糖と混ぜ合わせておきます。

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牛乳に溶かして沸かします。

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沸いたことを確認したら、火を止めます。

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容器に流し込みます。

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そのまま容器を氷水に当てるなどして冷まし、冷蔵庫で冷やします。

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イオタカラギーナンがゼラチンと違うのは凝固が非常に早い、という点。こんな風に氷水にあてるだけでもすぐ固まってきます。

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冷蔵庫で2時間冷やした状態です。固まりました。

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なめらかなゼリーになりました。食感としてはゼラチンに近いですが、ゼラチンでつくるよりも牛乳の甘い香りが強く出ます。また、若干舌にまとわりつくような感じがあるのも特徴。熱にも強い(60℃まで)ので一度固めてからレンジで加熱し、ほの温かいゼリーというデザートにも応用できます。

アーモンドのカスタード

さて、次の料理です。カスタードと名前がついていますが、いわゆるアーモンドのパンナコッタです。このレシピをつくることで、カラギーナンのブレンドを学べます。イオタカラギーナンにカッパ・カラギーナンをブレンドすることで濃厚さを感じつつもさらっとした口溶けを実現します。このレシピのオリジナルの考案者はシアトルChefstepsのGrant Crilly。日本の素材にあわせて分量を変更しました。

アーモンドのカスタード
イオタ カラギーナン 0.15g
カッパ カラギーナン 0.1g
グラニュー糖    30g
生クリーム 200cc(乳脂肪 43〜45%)
アーモンドエッセンス 4滴

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生クリームにカラギーナンとグラニュー糖を混ぜたものを加え、よく混ぜてから加熱します。

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沸騰したら火を止めて、アーモンドエッセンスを加えます。

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熱いうちにグラスに注ぎます。4個用意したので、1個あたりだいたい50gですね。

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注ぎ終えました。表面に泡が浮かんでいたら美しくないので、、、

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ガスバーナーかライターなどで炙るとすぐに消えます。アルコールを吹きかけてもいいでしょう。冷蔵庫で2時間以上、冷やし固めます。

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すっかり固まりました。

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食べてみるとクリーミーさに驚きます。舌にまとわりつく食感はコンビニエンスストアで売られているプリンやミルク系のゼリーの食感を思い出す人もいるか、と思います。コンビニエンスストアの商品との違いは乳製品とアーモンドの香りがすっきりと生きていること。そりゃいい材料を使って、余分なものを入れていないので当たり前に思うかもしれませんが、それだけが理由ではなく、ゼラチンには独特の匂いがあるのですが、カラギーナンにはそれがないからです。型から抜きたい場合はカラギーナンの量を倍に増やせばいいでしょう。

さて、このイオタカラギーナンの入手法ですが、日本で手に入りやすいのはSOSA社のエル・ブジのフェラン・アドリアがプロデュースしたテクスチャーシリーズ。

プロパンナコッタという商品名で売られているのがこのイオタ・カラギーナンです。ただロットが800gなので、家庭では間違いなく使いきれないのが難点。

そこで選択肢になるのが個人輸入です。ちなみに今回使用した製品はModernist Pantryという店で購入したもの。

ここなら50gから購入することができます。

このお店では分子料理的なテクニックに使うほとんどの食品添加物を入手することができます。発送も早いのでオススメです。新しい凝固剤のテクニックはただのテクニックではありますが、使いこなすことで新しい料理が生まれます。また、ゼラチンを水で戻す、一晩冷やす、などの作業工程が省けるのも大きなメリット。文明の利器は活用していきたいものです。

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撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!

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樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。

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コメント (1)
樋口さん、いつも素敵な記事をありがとうございます!
食材リクエストです。
ドライトマトと、そのレシピを取り上げていただけたら嬉しいです。
「新しい料理の教科書」は、ぼくのバイブルです!
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