コオロギは世界を救う……で話題のコオロギの話
先日、縁あって食用コオロギを養殖する徳島大学発スタートアップであるグリラス(徳島県鳴門市)さんの美馬市内にある生産施設を訪ねました
グリラスさんは徳島大のコオロギ研究の成果を基に2019年に創業したベンチャー企業。無印良品を展開する良品計画が20年春に売り出してヒットした「コオロギせんべい」向けの原料コオロギ粉末を供給していることでも有名です。国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨する報告書を発表したのは2013年のことですが、日本で「昆虫食」が注目されたのはこのコオロギせんべいの影響が大きいでしょう。
「なぜコオロギか」というのはグリラスさんのwebページにまとめられていますが、まず他の家畜と比べて「環境にやさしい」という点が挙げられます。昆虫は餌も少なく、温室効果ガス排出量も少ないのです。また、他の昆虫と比べて、飼育が容易というのも理由の一つだそう。人間はこれまで蜂や蚕は家畜化していますが、それに次いでコオロギも……という流れです。
(資料スライド提供グリラス)
世界から注目されているコオロギですが、課題は安定供給。日本で使われているコオロギも東南アジアなどからの輸入がほとんどらしく、日本で普及するには安心、安全な国産コオロギが不可欠です。グリラスでは繁殖・飼育から最終的に商品としてパウダーに加工するまでの全ての工程を自社で行い、衛生管理やトレーサビリティを徹底している、とのこと。
料理研究家として気になるのはコオロギの食材としての可能性です。コオロギパウダーとコオロギエキスのサンプルを譲ってもらいました。
観察してみましょう。コオロギパウダーは袋を開けると煮干し+干しエビのような香りがします。コオロギはエビやカニと同じキチン質を持っているので、その関係もあるかもしれません。
試しに湯で抽出してみました。コオロギパウダー5gをコーヒーフィルターにセットして熱湯160mlを注ぎます。
味見。やはり干しエビ系のうま味を感じます。後味に独特の匂いがあるので、酒などを加えた方がマスキングされてバランスがとれるようです。このあたりの出汁としての特性は煮干しや干しエビと同じですね。
試しにみそを入れてみると、だいぶコオロギ感は弱まり、ちょっと変わった味の味噌汁になります。粉のまま口に入れても強いうま味を感じますが、やや粉っぽいので、せんべいや麺に混ぜるといった使い方に向いているようです。
エキスも試食してみます。これはコオロギの乾燥工程で出るエキスを集めて、5%の塩分を加えたものだそう。舐めると強いうま味を感じ、こちらは単純においしい。エビの魚醤がありますが、味としてはそれに似ているので、乾燥コオロギよりもこちらの方が使いやすいかもしれません。
コオロギエキスを使ってチャーハンを作ってみました。
卵 1個
サラダ油 大さじ1/2
ごま油 大さじ1/2
ご飯 200g
長ネギ 30g
コオロギエキス 小さじ1/2
塩 ひとつまみ(0.8g)
胡椒 適量
作り方は通常のチャーハンと同じ。ただ、コオロギにはごま油の香りがあうので混ぜています。
油を入れて中火で熱したフライパンに卵を入れ、ご飯を混ぜ、軽く炒めたところに長ネギのみじん切りを投入。
コオロギエキスで塩味と風味をつけました。塩と胡椒で味を整えます。
コオロギチャーハンの出来上がり。試食するとふつうにおいしいチャーハンです。チャーハンに干しエビ系の調味料を入れるのはよくありますが、よくある香味ペースト系の調味料が入っているのでは、という感じのうま味を感じます。
このようにコオロギはうま味が強く、食材としてのポテンシャルが大きいですが、虫は形状から拒否反応を持つ人も多いので、使い方には工夫が必要でしょう。あとは特徴的な後味をどのように処理するか、という点でしょう。
こうして食材としてコオロギを扱ってみると、うま味を生かすか、あるいは発酵させたりして形状をなくし、タンパク質をさらに分解させてしょう油やみそ、だしの素のようにアミノ酸を加える感覚で料理に生かすほうがいいように思いました。
そういえばコオロギラーメンで有名なANTCICADAで提供しているコオロギラーメンにはコオロギの出汁にコオロギの香味油が浮いていますが、ラーメンのような強い香りとうま味が混ざった料理には向いている出汁素材に思います。こうして考えるとラーメンってすごく器の大きい料理ですよね。
昆虫食に関してはSDGs的な視点と、食文化の両面から議論が必要で、これを混同するとややこしくなる気がしています。環境負荷については『日本の昆虫加工食品を対象とした環境影響評価』という論文によると、コオロギを飼育で最も環境負荷が高いのは原材料調達段階とのことですが、グリラスさんが試みている「サーキュラーフード」(農業残渣や加工残渣などを飼料に使い、循環させることで環境負荷を減らす)ことで、やはり環境に優しいことはたしかでしょう。問題は食文化的な部分で、どんな風に現在摂取しているタンパク質の割合の一部を代替させていく、あるいは減らしていくか、というのは考えるに値するテーマです。
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