見出し画像

ボンゴレを劇的においしくする5つのポイント

おなじみのあさりのスパゲッティ(ボンゴレ)を、確実においしくつくるテクニックをご紹介します。今までの食材同様、あさりにも適した加熱温度があります。

あさりを使ったスパゲッティ・ボンゴレは失敗しにくいメニューです。その理由はあさりに含まれる塩味とうま味(グルタミン酸)。うま味は料理の味を担保してくれる存在で、たっぷりと含まれている食材を使えばおいしさは保証されたようなものです。

ところで昔から貝類の旨味はコハク酸と言われてきましたが、コハク酸はアミノ酸ではなく有機酸の一種でうま味物質ではありません。コハク酸が旨味を感じさせるメカニズムについては検討されていますが、はっきりとした結果がまだでていませんが(味を感じさせるという報告はいくつかあります)、コハク酸自体にはうま味ではなく酸味や苦味があり、それが加わることで複雑味が生まれ、全体のコクに繋がっているのでしょう。

さて、話を料理に戻すと貝類を使った料理のポイントは加熱しすぎないことです。このレシピでは冷たい状態からあさりを加熱することで、さらに失敗のリスクを減らしています。

あさりのスパゲッティ(ボンゴレ)

材料(2人前)
あさり…300g
にんにく…1/2片
しょうがの薄切り…2枚
バター…10g
日本酒…100cc
胡椒…適量
パセリのみじん切り…5g
スパゲッティーニ(1.4mm)…160g

1.あさりは砂抜きをし、流水で表面をよく洗う。両手であさりをすくい上げ、殻をこすり合わせるようにして洗うとよい。(これを拝み洗いという)

2.フライパンにあさり、にんにく1/2片を2mm厚に切ったもの、しょうがの薄切り、バター、日本酒を入れ、胡椒を引き入れる。蓋をして、中火にかけ、沸騰してきたら弱火に落とし1分30秒〜2分煮る。あさりの口が半分ほど開いたら蓋を開けて、口ががっちりと閉じているあさりがあれば捨てる。パセリのみじん切りを加えたら火を止め、再び蓋をし2分以上放置し、予熱で火を通す。

3.水1Lに塩12gを溶かし、鍋で沸かす。スパゲッティーニを袋の表示時間よりも1分短く茹でる。

4.2のフライパンを再び火にかけ、煮汁を沸かす(この段階で口が半開きのあさりは手で開いても大丈夫)。沸いたら火を弱火に落とし、3のパスタと、パスタの茹で汁を大さじ1強(20cc)加えて、全体を和える。器に盛り付ける。

フランス料理の巨匠から学ぶボンゴレのテクニック

巷に溢れているボンゴレスパゲッティの多くはイタリア料理がベースですが、このレシピの元ネタはフランス料理の巨匠、ジョエル・ロブション氏の調理法。イタリア料理ではフライパンでオリーブオイルとにんにく、赤唐辛子を炒めたところにあさりを加え、白ワインで蒸し焼きにするのが普通です。

この作り方ではあさりを鍋に入れるとき、フライパンから火が出ることがあるので注意が必要です。これはあさりの表面についていた水分が蒸発することで、鍋底のオリーブオイルが細かい霧となって飛散したものが引火した状態です。油は燃えると酸化、分解し、味が落ちてしまうので、そうなってしまったら料理は失敗。作り直すしかありません。

一方、ジョエル・ロブション氏のレシピは冷たい鍋にあさりとにんにくのみじん切り、しょうが、バター、白ワインを入れ、そこにたっぷりと胡椒をひきいれて、慎重に加熱するもの。しょうがを加えるのはロブション氏の好みですが、このやり方のメリットはあさりを丁寧に加熱できること。

あさりの身がおいしくなる温度帯は85℃〜90℃のあいだで、理想的には85℃で1分加熱すれば、ふっくらしたあさりを食べることができます。それを考えれば高温の油にあさりを一気に入れ、白ワインを注ぎ入れて蒸し焼きにする方法は、やや乱暴かもしれません。

ここではロブション氏のレシピに習い、冷たい状態のフライパンから加熱をスタートしています。加える液体に白ワインではなく、日本酒を使っているのはちょっとしたアレンジ。日本酒は貝類独特の臭みを抑え、日本人好みの味を加えることができます。

加熱が終わったら、茹で上がったパスタを絡めます。このときは熱い煮汁に茹でたてのパスタを加えるようにしましょう。熱いパスタは熱い煮汁を吸い、味がまとまります。(参考 熱々パスタに熱々ソースがパスタの基本

欠かせないのは生のパセリのみじん切りです。

パセリのみじん切りは冷凍することができるので、一束買ったらまとめてみじん切りにしておき、次からは凍ったまま使うと便利です。料理本にはたいてい葉が平らな『イタリアンパセリ』を使うよう指示がありますが、葉がカールしたおなじみのパセリと香り成分や甘みなどはほぼ一緒。違うのは食感だけなので、みじん切りにして加熱してしまえば一緒です。付け合せに皿に載っていて、食べられずに捨てられることも多い葉が縮まったパセリですが、ちゃんと料理してあげれば力を発揮します。

最後にあさりの砂抜きについて、説明します。加熱していない状態で口を開けているあさりは死んでいる可能性があります。あさりは死んでしまうとすぐに腐敗し臭みが強くなり、お腹を壊すこともあるので料理には使わないように注意しましょう。

あさりは砂のなかにいる生き物なので、貝殻のなかに砂が入っています。簡単なのは魚屋さんやスーパーなどで『砂抜き済み』というあさりを買うことです。パックに入って売られているものもあります。砂抜きのあいだ、あさりは生命を維持するために体内のグリコーゲンを消費し、コハク酸が増えます。潮干狩りでとってきたばかりのあさりよりもパックあさりのほうが味が強いのはそうした理由です。

もしも、砂抜きの必要がある場合は3%濃度の塩水を用意します。そして、ザルのうえにあさりを広げ、貝の上部が少し出ている程度の高さまで塩水を注ぎ、濡れた新聞紙やアルミホイルなどで蓋をし、暗く涼しい場所に置いておきます。写真のような平らなザルがあればベストですが、普通のザルとボウルを使っても塩水を増やせば対応できます。あさりが活発に動く温度帯は15℃〜20℃なので冷蔵庫に入れるのは夏場だけにしたほうがいいでしょう。1〜2時間ほどであさりは砂を吐き出します。

ざるを使うのはあさりが一度吐いた砂を再び吸うことがないようにするためで、貝の上部が少し出ている程度の高さで塩水を留めるのは、あさりが酸欠で死なないようにするための工夫です。

家にボウルしかない、という場合はあさりが塩水に沈んでしまうかもしれません。その場合は窒息死を避けるために2時間〜3時間程度に留めるようにしましょう。

旨味をさらに増やしたい場合は、塩水に一滴のハチミツを入れておくのも有効でしょう。2009年に独立行政法人水産総合研究センターが「ブドウ糖を海水に入れるとアサリのコハク酸が増える」と発表したことはちょっとした話題になり、テレビ番組にも取り上げられました。それによると出荷前のあさりをブドウ糖を添加した海水につけておくことでコハク酸が2.8倍になったとのこと。ハチミツの主成分はブドウ糖と果糖なので、ブドウ糖の代わりに使えます。

貝類の調理法は長らく「殻が開くまでしっかりと加熱する」だけでしたが、加熱温度に注意することで格段においしくなります。ちなみにこのボンゴレ、パスタを入れなくともあさりの酒蒸しという立派な料理です。マスターして損はないでしょう。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!