見出し画像

ビーガン・フォアグラの作り方

ビーガン(vegan)とは菜食主義者=vegetarianの前後5文字をとった言葉(Veg+an)で『完全菜食主義』と訳されます。もともとはイギリスではじまった考え方で、動物由来の食品(ハチを使って集めるはちみつや製造工程で牛骨を使う砂糖も使用不可)を摂取しない生活を指します。厳格なヴィーガンは持ち物も動物由来を排除するなど徹底し、動物愛護のためのイデオロギー的な傾向も強く、論争を巻き起こしがちだったのはそのため。

一方、このところは健康志向や環境への負荷を減らすためにもっとライトな感覚でヴィーガンを選択する人が増えたことで、注目を集めています。週末だけヴィーガンを選択する「フレキシヴィーガン」という考え方がその典型。最近ではガストロノミー的な美食を実現するビーガン料理店も増えてきました。

さて、ヴィーガンの人が最も忌み嫌う食べ物の一つがフォアグラです。フォアグラはフランスが誇る伝統的食文化の一つで、クリスマスなどの特別な日に食べるごちそうですが、批判の対象になるのは鴨やガチョウに強制的にエサを食べさせ(強制給餌といいます)、肝臓を8倍に肥大させる生産方法。

もちろん、人道的な生産方法で生産されるフォアグラもあります。TEDでダンバーバーがプレゼンしているのはエドゥアルド・スーザという人が営むLa Pateria de Sousaという農園。(こちらのTEDは素晴らしいので、料理関係者はぜひ観てください)

農園の様子はこちらのyoutubeで見ることができますが、広い敷地のなかでガチョウが放し飼いされています。逃げないようにフェンスが設置されているわけですが、フェンスの内側ではなく、外側に電流を流すという徹底ぶり。そのため、ガチョウはストレスを感じず、農園内のオリーブやいちじくを食べまくり、自然に太っていく、というわけ。秋や冬になると寒くなる前にガチョウは自然と食べまくる性質を利用した飼育方法で、なんと1812年から続けられているそう。この方法で作られたフォアグラは非常に高品質で、フランスのコンクールでも金賞を獲得しました。

こういうフォアグラを選んで食べる、というのも非ビーガンの人ができる選択肢の一つかもしれませんが、問題は入手が困難という点。

しかし、人間の工夫はたいしたもので、他の選択肢として「Faux Gras」という名前の100%ベジタブルで作られた食べ物もあります。日本では買えないので、ここは一つ作ってみるしかなかろう、という訳で、今日はビーガンフォアグラのレシピです。

ビーガンフォアグラ
生カシューナッツ 300g
ココアバター   75ml
ココナッツオイル 75ml(精製 無香タイプ)
水        50ml
白みそ      45g
コニャック    大さじ2
ニュートリショナルイースト 10g
ゴマペースト    25g
トリュフオイル   小さじ1
ポルチーニパウダー 小さじ1/2 (opition)
塩         2g

ビーガンフォアグラのレシピは大きく「きのこベースのパテスタイル」と「ナッツベースのテリーヌスタイル」の2種類にわかれます。きのこベースもやってみたのですがどうしても「きのこのパテ」という印象があったので、こちらのナッツベースの配合を日本向けに調整しながら、作ってみました。するとこれが驚きの出来。

特殊な材料が何点かあります。まずはココアバター。

カカオバターは富澤商店のものを使用しました。これは特殊というほどでもないですね。

次は一時期流行ったココナッツオイル。ココナッツオイルには未精製の香りが強いタイプ(主にカレーに使う)と精製された無香タイプがあります。このレシピの場合は無香タイプを使うのが重要。香りがあるとフォアグラにはなりません。

最後にニュートリショナルイースト。イーストといってもパンを作るためのものではなく、酵母を乾燥させたものにビタミンBを添加した調味料です。もともとはビーガンの人がビタミンB類の補給のためにとる食材で、チーズの代用品として使われます。食べてみるとチーズっぽく、ナッツっぽい……ドリトスとかチーズスナックっぽいチープな味ですが、ここに油脂分を組み合わせていくとおいしくないrます。

メインとなる食材は生のカシューナッツです。ビーガン料理ではナッツ類を多用しますが、そのポイントは脂肪分。カシューナッツは脂肪分が多いので、クリーミーでコクのある食感に、逆に脂肪分の少ないひまわりの種はリーンな食感にしたい場合に、という具合に使い分けます。

画像1

カシューナッツはたっぷりの水に一晩漬けてふやかしておきます。

ちなみに使用したのはこちらのカシューナッツ。カシューナッツを水で浸し、ペーストにして、料理の油脂分と使う手法はインド料理(ムガール料理)でもよく用いられますね。

画像2

ココナッツオイルとカカオバターを弱火にかけて溶かしておきます。溶ければOKなので、温度を上げすぎないように注意しましょう。ちなみにココナッツオイルは24℃以下にすると凝固し、ココアバターは28℃で固まります。この性質を利用して、フォアグラっぽいとろける食感をつくるわけです。

画像3

作り方はめちゃくちゃ簡単。すべての材料をミキサーに入れて、撹拌するだけです。今回はバイタミックスを使っていますが、ミキサーの性能がものをいうかもしれません。味としてはゴマの風味がボディ感と後味を、白味噌がうま味を、ニュートリショナルイーストが独特の風味を担当します。

画像4

滑らかなピュレ状になりました。

画像5

型に流します。型は自由ですが、今回は18cm×8.5cm×高さ6cmのパウンド型を使いました。

画像6

型に流し込むとこんな状態。

画像7

冷蔵庫で冷やし固めます。

画像8

冷えました。

画像9

包丁でカットします。

画像10

黒胡椒と塩を添え、いちじくなどを付け合わせにするとより雰囲気が出ます。フルーツならなんでもあいますね。マンゴーなんかも美味しいです。少し常温に戻してから食べるとより口溶けがよくなり、クリーミーになります。

味は驚くほどフォアグラっぽい感じで、特有の生臭さがないので、こっちの方が好き、という人もいるかもしれません。油脂分が非常に多いですが、それはフォアグラも同様。たまに食べるのであれば大きな問題にはならないでしょうフォアグラが魅力的な食材であることは確かですが、ビーガン料理の観点から見直すと逆に色々な発見がありますね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!