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お米の炊き方の復習

さて、先週、紹介したアイヅライスの話の続きです。(この記事はアイヅライスのPRを含みます)

前回、あいづの厳選米、AiZ'S-RiCE(アイヅライス)について

○会津産コシヒカリは「食味ランキング」で2013年度から8年連続「特A」を獲得。
○その会津産コシヒカリ1等米の中から、食味値80点以上(玄米タンパク質含有率6.4%以下)のみを厳選。
○特別栽培米ガイドラインに基づいて栽培。

という点について復習しました。今日は残りの

○会津清酒の酒粕を肥料として使用。

について解説します。

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米農家さんを取材するとそれぞれ肥料について一家言を持っている印象があります。なかには使わない人もいますが、という人も緑肥は使ったり、そういったことを含めて肥料へのこだわりと言えるでしょう。肥料にこだわるのは米の味がそれだけ変わるから。

こちらは農林水産省が出している青森県の稲作改善指導要領からの抜粋ですが、品種や産地、気象条件、栽培法など食味に影響を与える要因は多くあれども、施肥も大きな影響していることがわかります。アイヅライスの特徴は

「会津農書」に記されている伝統的な農法に基づき、會津清酒の酒粕を肥料として土壌に施し、地力を高めて稔り豊かに育てた美味しいお米です。

とのこと。

会津農書とは?

会津農書というのは貞享元年(1684 )佐瀬与次右衛門が著述した農業指導書とのこと。農業書の世界では宮崎安貞の『農業全書』(1697)が有名ですが、調べてみると会津農書はそれ以前に記された貴重なもの。

なんで農業技術が必要とされるのか、というと農業は長く続けていると作物がとれなくなってくるからです。種を植えて、作物を収穫していれば、土壌の栄養素は減っていく一方だからですね。そこで外から有機物を投入したり、土壌微生物を活性化させたりして、地力の維持に務める必要が出てきます。

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(国立国会図書館 デジタルコレクション 会津農書 伊藤書店から引用)

それには様々な方法がありますが、アイヅライスは会津農書に「焼酎粕ハ庭に穴をほり、其中へ粉にて水を入とくとねせて、植る先に立て掛け、前廉に細にくたき散し、中代かき入てもよし」とあることに習い、会津の清酒の酒粕を肥料として使っているそうです。それにしても会津農書の時代から循環を意識して農業をしていたことが驚きですね。2020年度から福島大学の食農学類との共同研究をはじめ、科学的な見地も導入した上で、さらなる品質向上を目指しているとのこと。

さて、こうしてできたお米ですが、上手く炊けないともちろんおいしいごはんにはなりません。ちょっと前置きが長くなりましたが、お米の炊き方の話に移りましょう。今回は鍋でご飯を炊いていきます。いつも炊飯器で炊いている、という方もたまに鍋で炊くと違った良さを発見できるはず。

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一言で鍋といっても色々あります。ごはん炊き専用だけでもこんな感じ。

写真、左下のごはん鍋なんかはお店でもよく見かけると思います。いわゆる土鍋ですが、鍋料理の土鍋よりも若干薄く、熱のまわりがよくなるよう工夫されています。あとは形状ですね。ガスの火に対して、鍋底がカーブを描いているので、その分熱のまわりがいい、という話です。

全部は紹介できませんが、こちらのアルミの羽釜も高性能。なにせアルミは熱伝導がよく、銅のごはん鍋と同じくらいおいしいごはんが炊けます。この「おいしい」という言葉が曲者でして、アルミ鍋はアルミ鍋のおいしさ、土鍋は土鍋のおいしさがあり、どちらがいい悪いというものではありません。

鍋でご飯を炊く場合、家であれば火力は一定にできるので、鍋を変えると炊きあがりを変えられます。アルミ鍋を使えば沸点までの時間が短く、火を弱火に落としても比較的強い火で加熱されます。沸点までの時間が短い=デンプンの溶出が少なくので、粘りが少なめのさっぱりしたご飯になりますし、沸騰後の火力が強ければ水分蒸発量が多くなるので、食感は粒立ちがいい硬めのご飯になります。

一方、土鍋は熱のまわりが遅く、予熱も強いのが特徴。沸騰までに時間がかかるのでデンプンがやや溶出する=粘り(いわゆるおねば)が出てくるので、甘みが強調されますし、沸騰後の加熱も穏やかなので、ふっくらとしたご飯が炊けます。ちなみに炊飯器には「やわらかめ」「かため」など炊きあがりの硬さを炊き分けるモードがついていますが、この機能は沸点までの時間と沸騰後の火力を調整することで、実現しています。

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さて、炊く鍋を選んだら、まず米を計りましょう。1合=150gで、今日は2合炊くので300gです。お米は計量カップではなく、電子ばかりで計量するのがおすすめです。計量カップだとやはり誤差が大きく、手間もかかるので、重量で計ったほうが早いですから。

お米を洗っていきます。ひたひたくらいの水を入れて、指先でぐるぐると10回、かき混ぜてください。水を入れすぎなければ米粒同士が擦れあって、米粒の表面を洗うことができます。ちなみに昔は「研ぐ」と言いましたが、現在では家庭科の教科書でも「洗う」という表現に変わっています。

なぜ、米を洗う必要があるのでしょうか。試しに洗わずに炊いても今のお米は結構、おいしく炊けますが、匂いがちょっと気になるはずです。これはお米の表面には糠の成分がまとわりついているから。この糠、ちょっとある分にはいい香りなのですが、多すぎるといわゆる糠臭い印象になります。

水を足して、捨てます。ざるを用意しておくと楽です。これが「洗う」工程です。

この工程は神経質になる必要はまったくありません。僕は以前「米粒は最初の水を吸うのではじめの洗いは手早く」と教えていました。たしかに米に水を加えると重量が増えます。しかし、これを「米が水が吸った」と考えるのは早計で「米粒への水の吸収と移動に関する基礎的研究 (第2報)」という論文に

実測による水分増加曲線では、浸漬15秒後に水分は急上昇したが、その後45秒 まで一定値を示した。このことは、浸漬直後の水分測定が付着水を計測していることを示している。

とありますが、重くなるのは米の表面に付着した水なのです。米は急速に水を吸うわけではなく、むしろゆっくりと水分を吸収します。だから、この後の「浸水」という工程が重要なわけです。手早く洗わなければ、と焦る必要はまったくありません。

ザルの中身をボウルに戻して……。

もう一度、同じようにひたひたの水を加え、10回混ぜて、水を捨てます。もう一度、水を加え、10回混ぜましょう。

ここまでで10回×3セット洗いました。あっという間ですが、これくらいでいいでしょう。ちなみに1セットと2セットのあいだに香りの差が若干ありますが、2セットでも充分おいしい状態になり、3セットとの差はわずかなので、洗うのが面倒という人は2セットでいいでしょう。古いお米であればもうちょっとしっかり洗ってもいいですが、そういうお米はむしろ炊き込みご飯にした方がいい気もします。

小池精米店の小池さんに聞いた話では「最近のお米は温暖化の影響もあり、やわらかく割れやすい傾向がある」とのこと。その点を踏まえると洗うコツはただ一点、「優しく洗う」です。最初の水だの水が白くなるまでだの色々言う人はいますが、毎日炊くお米にそんな神経を使う必要はありません。

「そう言うけれど、米はやっぱり研ぐべきだ」「いや、拝み洗いがいい」など様々な意見がありますが「洗米方法が米の食味に与える影響」という論文があります。この論文では研ぐ、洗うを比較しているのですが、研ぐと米粒が割れるなどのよくない影響があったものの、実際に炊いて食べてみると「官能検査における総合的な評価には全く有意差は認められず」とあります。つまり、ここはこだわる部分ではないのです。

水を加えて、捨てます。これで洗う作業は終了。

ザルにあげて30秒から1分置き、水気を切ります。長い時間放置すると乾燥して米粒が割れるので避けましょう。ちなみに昔の米は硬かったので、ザル上げした「洗い米」という状態にするのが普通でしたが、今のお米はやわらかいので、ザル上げはやめたほうが無難です。

2合の場合は水を400ml(400g)注ぎます。一度に炊く場合は3合〜5合が限界で、それ以上になると鍋の底の米粒が上の米粒の重みで潰れるので、食味が悪くなりがちです。

新米でも古米でも精米したての米の水分量は一緒なので、加える水の量は同じで大丈夫です。ただ、新米の方が米の組織がやわらかいので、炊飯器で炊く場合は「かためモード」で炊く、鍋で炊く場合は沸騰させた後の火加減を強めにすることで、炊き加減を調整します。水を減らすのはデンプンの糊化が充分に進まず、米のポテンシャルが発揮されないので、あまりオススメしません。

冷蔵庫で1時間以上、浸水させます。理想は2時間ですが、冷蔵庫に入れてさえいれば12時間漬けても問題ないので、事前に準備することもできます。(ただし、常温で長時間漬けると米粒が割れるので避けましょう

あるいは米の吸水は30分で80%程度が終わるので、時間がなければ30分程度でも大丈夫です。炊きたてであれば味の差はほとんどありません。(冷めると味の差が大きくなります)

炊飯器の場合はザルで水気を切ったら、内釜の目盛りを目安に水を加え、通常炊飯スイッチを押すだけでOKです。

今回は1時間浸水させました。色が白くなっているのがわかります。

鍋に移し、強火にかけます。

米の炊き方の極意は「はじめチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いても蓋とるな」と言われていますが、ここが中パッパの工程です。沸騰までの時間によっても味の差は出ますが、家庭のガスコンロであれば強火で大丈夫。

沸騰したら、それを確認しつつ、鍋底から一度かき混ぜます。米粒同士が離れ、底に溜まったデンプンが全体に混ざるので、加熱が均一化します。

蓋をして、弱火に落として8〜10分加熱。沸点まで持っていき、それを維持するのがポイントです。ようはご飯を炊く、というのはデンプンを充分に糊化させるということ。

今日は10分加熱します。10分がおいしいのですが、米粒が鍋底に張り付くのがもったいない、という人は8分加熱でとどめてください。

炊飯は最後に米を焼く工程も重要です。昔のかまどは、わらや新聞紙をくべてから釜を下ろすまでの時間で、お米を強火で“焼き締めて”いましたが、問題はそうすると鍋底におこげができて食べる部分が減ってしまうこと。炊飯器では飽和水蒸気のスチームなどで焼いていますが、これを鍋でやるのはなかなか難しい。味ともったいないの折衷案が10分加熱です。

10分経ったら火を止めて5分蒸らしましょう。ここが赤子泣いても蓋とるな、と部分です。

ご飯が炊きあがりました。杓文字でお米をほぐします。水蒸気を飛ばすことで、お米がべったりするのを防ぐ「ほぐす」という作業です。

そのまま食べてもいいのですが……

おひつに移すとよりおいしくなります。

木製のおひつはご飯から出る水蒸気を吸い、戻さないので、べっとりとしないのです。ちなみに最近の炊飯器の保温モードはおひつ並みにご飯から出る水蒸気を米に戻さず、しかも温度と水分をコントロールするので、おいしさが驚くほど長持ちします。炊飯器の一般的な買い替え周期は7年という話ですが、7年使うのであれば7〜8万円程度の高級な炊飯器を購入しても年間1万円。おいしいお米のサブスクリプションと考えればそんなに高い買い物でもないでしょう。というわけでいい炊飯器を買うのもおすすめです。

さ、炊きあがったご飯、あとは食べるだけ。

めちゃくちゃおいしいです。ポイントをおさらいしましょう。

1 今のお米はやわらかく、割れやすいので、優しく洗う
2 充分に浸水させる(30分〜120分のあいだ。30分以上ある場合は冷蔵庫へ)
3 強火で10分、火を止めて5分蒸らした後、ほぐして余分な水蒸気を飛ばす

これだけです。ご飯について自分も含めて料理をする人はうるさいことをいいがちですが、米を研ぐ時に泡立て器を使っても、手で洗っても炊きあがりの味の差はたいしてなかった、という論文もあります。泡立て器を使うと米粒は割れますが、それが味の差として影響するほどではない、ということです。ポイントだけ抑えればご飯はおいしく炊けます。難しそう、と挑戦しないのはもったいないので、もっと気軽にお米と向き合いましょう。

アイヅライスについては新米が出たら、またレポートします。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!