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半熟卵の作り方

Reproレシピシリーズ。

ReproレシピのシリーズはReproが絶対に必要というわけではありません。例えばこちらの半熟卵は97℃で茹でるものですが、実際には必ずしも97℃である必要はないでしょう。ただ、温度について意識的になるきっかけになるレシピかな、と思って動画にしてみました。

この半熟卵には瓢亭風という名前がついています。瓢亭に勤めている人に言わせると「ただの半熟卵ではなくて色々あるんですよ」という意見があるのは承知の上で、白身にはしっかりと火は入り黄身はとろとろ、茹で上がった卵は薄刃包丁で切る、薄口醤油で味をつける、というあたりが瓢亭風です。あと瓢亭さんでは土佐ジローのような黄身が大きくて、白身の割合が少ない卵を使っているところに特徴があります。

映画評論家、萩昌弘さんのエッセイ「男のだいどこ」には瓢亭卵を再現しようと悪戦苦闘する下りがあります。

ついに二人の執念と底力で、京都は南禅寺の瓢亭から、半熟卵の製法をぬすみとったときであった。(中略)それからは毎朝台所で、二人は一日一個ずつ卵をつぶしつづけた。

荻さんは卵を80℃で6分ころがしながらつけることでついに半熟卵を成功させていますが、冷蔵庫から出したての卵を使っているReproレシピに対して、常温に戻した卵を使っていることでしょう。(そうじゃないととても火が入らないですからね)萩さん方式はまだ試していませんが、今度やってみます。また、エッセイには「伊丹十三くんも、まったくべつのやりかたでつくるそうですね。氏にいわせれば、当然、氏のつくりかたのほうがウマくできるとのことである」という話で、伊丹十三方式も気になるところです。

ところで別に変えてもいいのですが、Reproの沸騰設定温度は初期設定で97℃になっています。なんで100℃じゃないの、と疑問に思われるかもしれませんが、例えば標高1000メートルの軽井沢での沸点は96.8℃なので、いつまで経っても沸騰しません。台風が来たりして気圧がぐーっと下がったときも同様に沸点は下がりますが、100℃=沸騰ではないというのが理科の教科書と現実が違うところ。

卵の大きさも鶏の品種、月齢、産卵の季節、個体差、飼料の質などによって変わってきます。ちなみに一般的に卵黄の割合が一番大きいのはM玉、次にL玉と言われています。SS〜LLは卵白の比率が大きいのでお菓子作りに、半熟卵にはM玉が向いているようです……。

と思っていたのですが、最近「けんちゃん卵」という卵を頂きました。

これがSSくらいの大きさなのですが、卵黄が大きいのです。青森の畜産研究所が昭和62年に開発した「黄身の大きい卵」を産む新鶏種の卵らしく、味もすこぶるおいしい。(今年食べた卵のなかでいちばんでした)

というわけで話は脱線しましたが、僕が言いたいのは食材によっても適切な加熱時間や温度は変わってくる、という話です。温度に意識を払うようになるとどんな食材がきてもどんなふうに調整したらいいか──かつては職人が勘で行っていた作業──がすぐにできるようになる、という話です。

ところで97℃まで水を加熱してもいわゆる「沸騰」=ぐつぐつした状態にはなりません。例えば97℃で煮魚を作ろう、としてもなかなか煮詰まらないので、結果として魚に火が入りすぎてしまいます。煮汁を煮詰めていく系の料理には温度ではなく、強火、中火、弱火のような熱量を加えていく作業が必要です。

Reproの場合、それを沸騰アクションと定義しているので、このあたりを使った料理も今後、紹介していきますね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!